誰を好きでも
簡単な仕事を一つ終えて。
スクーターで万事屋への帰宅途中。ものものしく動き回る一団を発見。
『真選組』だ。
「ご苦労さんだねえ。」
又、テロでも起きたのだろうか?
自分の旧友が関係していないといいのだけど…。
銀時がそんなことをつらつらと考えていると、どうやらこれから突入をするらしく現場の雰囲気が一気に緊張したのが分かる。
チンピラ警察。 汚職警官?
彼らをののしる言葉はイロイロあるけれど、それでも嫌いになれないのは多分彼らの心のありようが自分と近いからだろうと思う。
特に、『鬼』と呼ばれる副長は、時に鏡を見ているのかと思うほど思考回路が似ている。
そして、『鬼』とか呼ばれているくせに涙もろいことを知っている。
不器用ながらも、子供たちに優しいことも知っている。
一度『仲間』と認めたものに対しての、甘いといえるほどの寛容さを知っている。
隊士達に指示を出している、黒い後ろ頭を見ながらそんなことを考えていた。
そして、そして。
お前は一番先頭を行くんだろう?
自分が一番に乗り込むことで、隊士達を局長を守りたいと思って…。
そんなところまで分かってしまう。
遠い過去の自分と似ているから…。
攘夷戦争に参加していた頃。
友人たちに、知略に優れているものが居たから自分はただいわれるがままに、兵士を引き連れて前線へと突っ込めばよかった。
最前線で、一人でも多くの天人を倒すことが自分の役割だった。
そうすれば、後方に控える友人や仲間たちの生き延びる確率が高くなる。
…そう、思っていた。
幸か不幸か、真選組には土方の他に智に長けるものが居ない。
自分で作戦を立て、自分で先頭を走る。
多分、一番危険な場所を自分が請け負うのだろう。
………?
突入に備えて配置につく隊士達。
本当ならその中に混ざるはずの土方は、後方に控えたままだ。
「…突入、しないのか?」
近藤に何か言われて、がっくりと肩を落としている。
『今回は諦めろ』近藤の口は、そんな感じの言葉を言っていたように思う。
不満そうな土方の頭をぽんぽんと叩くと、近藤は他の隊士達と一緒に配置についた。
今回は、近藤が率いての突入か…。
自分が先頭切るときは、それを楽しむかのように薄ら笑いを浮かべているくせに。
後ろで待っていなければならないのは、相当にキツイらしい。
イライラと肩をゆすり、せわしなく煙草をふかしている。
そんな姿を、幾分苦笑気味に見ていたが。ふと、気づく。
「………怪我……?」
右利きの癖に、煙草を左で持っている…。それに、わずかに足を引きずっては居ないか?
銀時はとっさに立ち入り禁止のロープをくぐり、土方に駆け寄るとその肩を掴んでいた。
「…っ!…ってめ、万事屋!?」
傍に寄れば、一目瞭然だった。
羽織っていた上着の下では、腕を吊っていたし。薬や消毒薬のにおいもほのかに香る。
「お、まえ…怪我…?」
「ちっ、たいしたことねえよ!」
「副長、絶対安静って言われてんですから、お静かに…。…って、アレ?万事屋の旦那?」
「おうよ、何だよ?これ、この怪我?足もだろう!」
「良くお分かりで…。」
「足引きずってんじゃん。」
「うるせえってんだよ!」
「…怪我してるから、突入しねえのか?」
「そうです。旦那からも一言言ってやってくださいよ!」
「山崎!」
「そりゃ、局長を庇われたのはご立派でしたけど。もうちょっとやりようがあるでしょう!敵と局長の間にただ自分の身体突っ込むだけなんて。それで、副長が怪我されてたら意味ないじゃないですか!」
「ゴリラを…庇った…?」
「ゴリラじゃねえよ。近藤さん、だ。」
「先日も出入りがありましてね。攘夷浪士の目当ては局長や副長ですからね。どうしたって、囲まれちまうことが多いんですよ。局長が囲まれたところへ無鉄砲にも副長が飛び込みましてね…。」
「へ…え。」
「はっきり言わせていただきますけどね。あの時、副長が入らなくったってゴリラは自分で何とか出来たと思いますよ!」
「手前までゴリラ言うな。」
突入できないイライラを解消するかのように、動く左手で部下を殴る土方。
「ゴリラを、ねえ。」
「全く、副長ってば局長のこととなると分別なくすんですから!」
銀時を味方だと思ったのか、山崎がここぞとばかりに説教モードになる。
うるせえよ。と口の中で愚痴った土方は。おそらく多分に自覚はあるのだろう、再びイライラと煙草をふかした。
その間にも、隊士達は近藤の号令で突入を開始していた。
無線機の前に移動した土方は、逐一報告される戦況に合わせていくつか指示を出していた。
コレは土方の『仕事』だ。
だから、真面目にやるのは当たり前。
けど多分。
たとえば普段なら、銀時がこんなところに居れば『邪魔だ』とか。『部外者は出て行け』とか、何か言ってくるはずなのに。
それどころじゃなく、必死なのは近藤が最前線に居るからで…。
つまり銀時なんか眼中にない…と。
大切なのは近藤だけなのだ…と。
なんだかそんな風に言われているようで…。
まあ、口に出さなくたって結局はそうなのだろうけど。
近藤だけが、近藤と作り上げてきた真選組だけが大事なのだと。
うん、それは分かっているけれど。
面白くない。
近藤のためなら怪我をも厭わない。
近藤のために最前線に突っ込み。
近藤のために、近藤のために、近藤のために…。
そこには他の入る余地はない。
勿論、ただの知り合いでしかない自分など…。
ああ、面白くない。
「じゃ、俺行くわ。」
声を掛けると、山崎が『はい。』と返事をしてくれるが、土方は振り返りもしなければ、うんでもすんでもない。
ああ、もう。本当、面白くねえ!!
「多串くん。」
「んあ?」
「行くね。」
「ああ、早く行け。」
かけた声には一応の返事が返ってくるが、その意識が無線機の向こう、近藤にあるのは分かっている。
「ねえ、多串くん。」
肩をぎゅっと掴んで振り返らせる。
「んだよ!」
仕事を中断させられたせいか、眼に怒気が漂っている。
「お前がさ、ゴリラ大切なの知ってるしさ、真選組大切なのも分かってんよ。」
「…ああ?」
「けどさあ、それと自分を大切にしないってのは又別の話だと思うわけよ。」
「……万事屋?」
ああ、やっと土方の意識がこっちを向いた。
至極満足した銀時は、ニコリと(傍目にはニヤリと)笑った。
「やっぱ、今言っとくわ。お前が誰を好きでも、俺はお前が好きだよ。」
「っ。」
驚いたように見開かれた双眸に、さらに満足して。
ちゅっと間近にあった耳元、頬の端っこの辺りに唇を押し当てて。
「じゃ、またね。」
と、ひらりと手を振った。
多分、今。土方は唖然としてるだろう。
その意識の中に、近藤は居ないはず。 うん、…多分…今だけは。
ほんの一瞬でいい。
近藤ではなく、銀時だけに意識を向けてくれれば…。
ふふふんと、気分良く鼻歌を歌いながら、銀時はスクーターをスタートさせた。
「副長、何してんですか。無線で近藤さんが報告して来てますよ。」
「………っ。」
「…副長?………どうしたんですか? 顔、真っ赤ですよ!?」
「う、うるせ!」
20080612UP
END
脈あり?
45000HITお礼小説です。
久々に初々しく、銀→土って感じです。
きっと土方だってまんざらでもないはず…。多分?
ここまでやってこれたのも、日々いらしてくださる皆様のおかげです。
ありがとうございます。
そんな訳で、フリー小説ですので。
気に入ってくださった方はどうぞお持ち帰りください。
いつもの通り。
背景のお持ち帰りはNG。
文章自体を変えなければ、字体や文字色はお好きにお楽しみください。
もしもサイトなどに掲載してくださるという方は、隅っこの方にでも月子の名前と当サイトのサイト名を明記してください。
ではでは、これからも精進してまいりますので、どうぞよろしくお願いします。
(08、06、14:月子)