雨音は君の調べ

 


 ザー  ザー  ザー

   ザー  ザー  ザー

     ザー  ザー  ザー

 

 


「う〜〜、寒ィ。」

外は静かに雨が降っていた。

銀時は一人万事屋で窓の外を眺めた。

どんよりと雲に覆われた空。

静かに、けどじっとりと落ちてくる雨。

子どもたちはそれぞれ自分の用事で出かけていて、今、銀時は一人だった。

仕事はないし、金もない。

薄暗い室内。

けど、電気をつけようとは思わなかった。

自分一人のためにつけるのはなんだかもったいない気がして。

どこまで貧乏性なんだよ?いや、事実貧乏だけれども…。

などと自分ツッコミをいれながら。

暗い中で愛読書(ジャンプ、もちろん)を読む気にもなれず。

ただ、時々、イスをゆらゆらと揺らしながら空をにらんだ。

天気が良かったら、あの団子屋へ行ったのに。

そうしたら、巡回中の土方に会えたかもしれない。

会ったら、ちょっと軽口叩いて。

それにむきになった土方を笑って、なだめて。

『今度、いつ休み?』なんて聞いて、次の約束なんかできたかもしれないのに。

団子屋がいつも外に出している長椅子は、雨の日は出されることはない。

店内で団子食べて立って、土方の目に留まらないじゃないか。

 

ピチャン

 


「っ。」

まさか、まさか!!

土方、今日休み?

そんなこと言ってなかったけど。

慌てて窓をガラリと開ければ。

 


ザー ザー ザー

 


ピチャン  ピチャン

 


ただ降り続く雨の音と。

軒先から落ちる水の音。

 


人の気配はずっと遠くの通りにしかなかった。

 


 

「………寒ィ。」

窓を閉めても、一度入り込んだ冷気が更に部屋の温度を下げた気がする。

 


 

ピチャン  ピチャン

 


「っ、多串くん?」

 


ひときわ大きく聞こえた水音に、再び窓を開けた。

 


「………。」

 


そこに求める人の姿はなく。

少し強くなった雨と、先ほどより大粒で落ちる水の音。

 


 

そんなことを何度繰り返しただろう。

 


風が出てきて、窓に打ちつけるようになった雨の音。

万事屋の前の通りを歩く人の足音。

ガタンと何かがぶつかる音。(階下の飲み屋で何か動かしたのだろう)

 


そんな音にいちいち反応して、窓を開けて外を見たり。

玄関まで走ってみたり…。

 


ふう。疲れた。

 


もともと雨の日は好きじゃない。

“ちょっと癖のある髪”は、それこそ好き勝手に跳ねまわるし。

昔の辛い記憶には、良く雨が付いて回った。

けれど。

始終出入りする従業員が出来。

この家に小さな同居人が増え。

雨の日に全くの一人になることはほとんどなくなった。

そのため、雨の日をことさらつらく思うこともなくなってきていたのだけれど…。

 


 

ピチャン

 

 


また音が聞こえて。違うと分かっていても、窓を開けた。

 


やはり、見えるのは灰色の空と降りしきる雨。

 


はあ、とため息をついて窓を閉めた。

なんかもう、今日はそんな日なんだろう。

いつもいつも笑って過ごせるなんてそんな訳ないことは、もういやってほど分かる歳になってる訳だし。

逆に。どうにも救いのない日だって、ずっと続くわけでないことも分かっている。

そんな風に割り切れる程度には、大人になったつもり。

お天気お姉さんの言い分を信じるなら、この雨は今日いっぱいらしいし。

もう、今日は寝て過ごすしかないね。

そうだ、寝てしまおう。

気がついたら多分もう夕方位になっていて。

その頃には子供らも帰ってくるだろう。

ソファに体を預け、目を閉じた。

 


 

ゆっさゆっさと体をゆすられる。

「んん〜。」

「こら、こんなとこで寝たら、風邪ひくだろうが。…まあ、手前はひかねえかも知れねえが…。」

「っ!」

「お、起きたか?」

「多串くん!!」

「多串じゃ、ねえ。」

「え、私服?あれ、今日、休み!?」

「おう、急遽な。」

団子屋にもいねえし、メシ屋にもいねえし。んで、ここへ来てみれば何にも掛けずに寝てやがるし。

こちらを覗き込む土方の腰のあたりにギュッと抱きついた。

「っ、おい。」

煙草の匂いと、雨の匂いと、土方の匂いがした。

「あったけえ。」

「馬鹿、だから、こんな寒い日に何にも掛けずに …。」

「違ェよ。」

誰かがそばにいてくれることが嬉しい。

体だけじゃなく、心が温かくなる。

「今夜は泊っていけるのか?」

「ああ、明日の朝早くに屯所へ帰ればいいから。」

「そっか。」

「今夜は鍋にでもするか?寒いしな。」

「おお、鍋!いいねえ。」

「あとで、買出しに行くぞ。4人分だし、チャイナはそうとう食うんだろ。」

「うん。…あれ、ってことは今夜の大人の時間は〜?」

「餓鬼がいるところでできるかよ。」

「そんな〜。……じゃ、今しとこう。」

「何だ、『しとこう』ってのは。」

「だってそれが一番温かくなれるでしょ、身も心も。」

「ち。」

ここへ来るからには多少の期待はしてないはずはない。

そう、確信できるくらいには近くにいるはず。

かき抱くようにして顔を寄せれば、少し呆れたような瞳が閉じる。

何度も唇を重ねて、舌を絡めて。

濡れた吐息が漏れるころ、そっとソファに押し倒した。

 


 

多分、雨の日は銀時がおかしくなると気が付いているのだろう。

そうでなければ、わざわざ団子屋やメシ屋を回って探してくれるなんてことするわけがない。

休みが取れたのは、本当に急になんだろうけど。

……え。まさか、まさか。

土方が銀時のために、無理に休みを取るなんて……。多分ないだろうけど。でも。もしかして…?

 


ああ。

もう、どうでもいい。

大切なのは、今、ここに一番いてほしい人がいてくれるってこと。

 


『ほかのこと考えてんな。集中しろ。』とか。

無自覚に煽ってくれる土方に、ご要望通り集中することにする。

 

 


 

さっきまで感じていた寒さは、今この部屋のどこにも無い。

 


あるのは、いとしい体温と。

土方がいないとてんでだめなマダオが一人。  それだけ。

 

 


 

 

 

20081109UP

END

 

 



大変お待たせいたしました。
55000HITお礼フリー小説です。
ここまで来れましたのも、いつも来て下さる皆様のおかげです。本当にありがとうございます。
感想なども頻繁に頂けるようになって、本当に励みになっています。
これからもよろしくお願いします。
雨の音や、はねる水音が土方の足音に聞こえて何度も外を見てしまう銀さん。
静かなお話を目指してみました。
気に入っていただけましたら、どうぞお持ち帰りください。
いつもの通り、背景のお持ち帰りはNG。文自体を変えなければその他はいい感じでお楽しみください。
尚、もしもどこかに掲載してくださるという場合は、隅っこの方にでも月子の名前と当サイト名を入れておいてください。
(20081110UP 月子)