心を映すものは

 

 

『俺なんかでいいのか?』

そう聞いたら、優しい銀時のことだから、良いんだ。と答えてくれることは多分分かってる。

だからこそ、聞いちゃいけない言葉なんだと。すんでのところで飲み込んだ。

あまりにも矮小で卑屈な言葉。ただ、自分が安心したいがための問いかけ。

『いい』と答えてくれたからといったって、それが嘘ではなかったとしたって。ずっと続くなんて誰が言える?

銀時は何を考えているのかが分りづらい。

『好き』といったって本当に好きなのか?良くわからない。

だったら結局『いい』といわれたって本当に『いい』と思ってくれているのかどうかなんて自分に判断できるはずもない。

だったら、聞くことにも答えてもらうことにも意味なんかねえじゃねえか…。

いつも結論はそこへたどりつく。

 

だから。結局いつも、聞けないでいる。

 

 


 

 

いつもの通り朝だか昼だか微妙な時間に起きた銀時。

今日は特に仕事は入ってないので、パチンコでも行くかなあと家を出た。

とりあえずまずはお決まりの団子屋へ。

大体ここにいれば真選組の巡回と遭遇する。そこで土方の情報を手に入れるわけだ。うまくすれば本人にも会える。

「あれ、旦那ぁ。相変わらず暇そうですねィ。」

「総一郎君。君は珍しく今日は仕事してるっぽい顔してるじゃん。」

「局長命令でね。今日は土方のヤローを無理矢理休みにさせたから、負担をかけないためにちゃんと仕事しろって言うんでさぁ。」

ありえねえ、何であいつのために俺が真面目に仕事しなけりゃならねえんでぃ。とぶつくさ言うドS王子。

「え、多串くん、今日休み?」

「ええ、まあ。…どうせ対して趣味もなんも無い人なんで、暇持て余して町中うろうろして1日終えるんでしょうけどねぃ。」

「…そう。」

本当に珍しくサボりもせずに巡回路をたどっていってしまったドS王子。

ならばやはり土方は休みなのだ。

だったら、電話でもしてきてくれたらいいのに。と思う。

そうしたら、一緒に映画を見てもいいし、バイクでどこかへ出かけてもいい。

だけど多分土方のことだから…。

銀時の仕事が入ってるかも…とか、突然電話したら迷惑かも…とか。そんなことを考えているのだろう。

迷惑なんてこと絶対にないのに。

仕事が入っていれば、そりゃあすぐに会うことはできないけれど。電話で声を聞けるだけだって嬉しい。仕事が終わる時間に待ち合わせの約束だって出来る。

はあ。

抜けるような青空を見上げて、溜息をひとつ。

土方は、どこか自分を抑えているようなところがある。

多分銀時のこと、ちゃんと好きでいてくれると思うのだけど、それを銀時に知らせてはいけない…と思っているようなのだ。

それは、負けず嫌いだとか 意地だとか。そんなことではなく。

土方が銀時を好きな事を銀時が知ってしまったら、銀時が困る……と、なぜだか思っているようで…。

けど、男の銀時に抱かれてくれるというだけで、(それはもう土方の矜持も何も踏みにじってしまったわけで)それを許してくれるというだけでも、土方が銀時を好いてくれているという気持ちを疑う余地はないと思っている。

なのに、たとえば、もう少し甘えてくれるとか、我儘を言ってくれるとか。休みが取れたからと電話してくれるとか。そういうことはしてはいけないと思っているようなのだ。

銀時は時々不安になる。自分が何かを見落としてるのだろうか?と。

土方が信じられないのは何だろう?

銀時の気持ち?

銀時の言葉?

とにかく。悩んでいても始まらない。

土方を探すべく、とりあえず町中をぐるぐると回ってみる。

映画館や、メシ屋やファミレスにもその姿は見当たらなかった。

中ば諦めてパチンコ屋へ入ってみると、中はなぜか騒然としていた。

「おい、どうしたんだ?」

相変わらず仕事がないらしい長谷川に声をかけると。

「い、いや、じ、実は…。」

どうやら、モノの1時間もしないうちに記録的なフィーバーを出した奴がいたらしい。

『あんなにハコが積み上がったのを、俺は初めて見たね!』と興奮気味のマダオ。

「ありゃあ、真選組の土方だろ。」

「へ?」

元高級官僚だった長谷川が真選組の幹部連中とは面識があるのは聞いていた。

「ちょ、あいつ、どこ行った!?」

「な、何だよ?銀さん、土方を探してたのか?換金してとっくに出て行っちまったぜ。」

あまりにも当たりを続けたんで、店長が土下座してお帰り願ったらしい。

『この辺で勘弁して下さい!』と泣いて訴える店長に、さすがに土方も居心地が悪くなったのだろうとマダオは笑った。

う、羨ましい…と言うべきなんだろうか?

けど、たぶん時間をつぶしたかった土方にしてみれば、不本意なフィーバーだっただろう。

その後も町中をうろついてみたが、結局土方は見つからず、疲れた足を引きずって万事屋へと帰ってくると。

神楽が袋いっぱいの酢昆布を前に『土方に買ってもらったのだ』と幸せそうに笑っていた。

 

 


神楽から、土方は飲みに出るような話をしていたと聞き、銀時は夜の街で土方を探した。

ふと、人ごみの向こうに土方を見た気がした。

慌てて追いかけるが、見失って。けど、ふと目についた1軒の飲み屋。

ここへ入っていったのかな?

恐る恐る戸をあけると、店の奥のカウンターで土方を発見。

その隣に座った男が、どうやら土方をせっせと口説いているようだった。

お前なんかに落とせるほど土方は安くねえんだよ!

二人が見える位置に席を取った銀時は、初めこそせせら笑ってみていたのだがそのうち不安が広がってきた。

土方は、誘いにはやんわりと断りを入れているようだが、歯の浮くような口説き文句を楽しそうに聞いている。

銀時にさえめったに見せないような、微笑みを浮かべている。

つるりとした顔は、取り立てて特徴がある感じではないが、いい顔の部類に入るかも。

けど、どこか世間知らずみたいな、いいとこの坊ちゃんみたいな、頼りなげな感じがする。

どちらかといえば土方が嫌うタイプの人間ではないか?

なのに、何でそんな奴に笑顔を安売りをしているのか。

そのうちに土方が席を立った。

勘定をすませて出ていく土方を、男が慌てて追いかける。

銀時もそのあとを追って店を出た。

店から少し離れた場所で、男が土方を引きとめていた。

「ちょっと、待って。」

「離せよ。承諾した覚えはねえ。」

「そうだけど、あんなに楽しそうに話きいてくれてたじゃん。」

「…それは…。」

口ごもる土方の手を取り引っ張る男。

銀時は思わずその手を払いのけていた。

「な、何だよ!?」

「よ…ろず、や?」

「確かにフェロモン、ダダ漏れだからね、気持は分からないでもないけど。無理矢理ってのは、いかがなものか、と。」

「っ。」

男にしてみたら、あれだけきれいな顔で笑ってくれたんだから、もうちょっと押してみればいけるんじゃネ?くらいのつもりだったんだろう。

まあ、確かにその感じは分からないでもないけれど。

銀時が引き剥がしたときにつかんだ手を、振りほどかない土方に溜息をついて、ついでに捨て台詞も吐いて、男は去って行った。

「………。」

「………。」

まだ、手はつないだままだけど。土方は気付いているのかいないのか。振りほどかない。

「何だよ、あれ。そりゃ、多串くんは断ってたみたいだけど。あんな奴に笑って見せちゃって。」

「……笑ってなんか……。」

「ああ、何ですか!?多串くんはああいう口説き文句を言われたいわけ?」

「ち、違げーよ。ただ、お前は言わねえな。と思っただけだよ。」

「………お、多串くん……?それって…。」

ほかの男に口説かれながらも、ずっと銀時のことを考えていたということか?似ているところや違うところを思って、そうやって銀時を探していたということ?

あの笑顔は銀時のモノ?

「………?何だよ?」

ああ、畜生。無意識か?天然なのか?そんなことを言われたら、怒れなくなる。

「ね。今日、休みだったんだろ?だったら、電話の1本くらいくれたっていいんじゃね?」

「………。」

「仕事入ってるかもとか、心配してくれたのかも知んないけどさ。たとえ仕事だとしても、終わった時間とかに約束できるじゃん。」

「………。」

「声聞けるだけでも嬉しいし。」

「………。」

「多串くん?」

少し俯く土方は、なんだか泣きそうで。今すぐ近くのホテルに連れ込みたいくらいだったけど。

多分、問答無用でそうしてしまったら、今日のことも有耶無耶になってしまって。結局自分たちは何も変わらない。

銀時は、ただじっと土方の言葉を待った。

「俺……は、」

「うん?」

「……俺、で………。」

「何?」

「………。」

ああ、何だろ?今確実に土方は何か言葉を飲み込んだ。

かみしめた唇にそっと指で触れた。

「………。」

「切れるよ?」

今にも泣き出しそうな土方に、堪らなくなってそっと唇を合わせた。

逃げようとする土方の後頭部を手で押さえ、更に深く唇を合わせる。

「………っ、ひ、人が…っ。」

渾身の力で銀時を引き剥がした土方が慌てたように周りを窺う。

まだそんなに夜遅い時間なわけではない。周りはそれなりに賑わっていたし、二人に気づいて囃し立ててくるものもいた。

「いいよ、見られたって。むしろその方が多串くんに寄り付く悪い虫の駆除になって都合がいい。」

「………え。」

唖然としたように土方が銀時を見返してくる。

「そ、それじゃ、まるで …。お前が俺を好き、みたいだ。」

「はあああああ!!?」

「…うるせえ。」

「や、ちょっと。お前、何?何言ってんの?俺がお前を好きみたい?って、当たり前じゃねえか…ってか分かってなかったのか?とっくにあんなことやこんなことしてたのに?何で今更!?」

「何で………って…。」

「や、ちょっと、待て。」

さすがにこれ以上の話を道端でするのはまずいかと、銀時は土方を引っ張って近くのホテルに駆け込んだ。

部屋に入って、少し冷静になった頭で考える。

もしかして、土方がもう1歩を踏み出せないでいるのは、銀時の気持ちを信じられないから?

「なあ、多串くん。」

「ん………、んん。」

キスをすれば、気持よさそうに漏れる吐息に煽られる。

そのままベッドに押し倒してさらに口内を探る。

「な、多串くんの周りには男がたくさんいるけど…。」

「お、とこって……。」

「うん、まあ真選組の奴らなんだけど…。そいつら、ジミーでもいいけど総一郎君でもゴリラでもいいんだけど。そいつらと、キス、しようと思う?」

「ば!」

「うんうん、だよね。じゃ、何で俺には許してくれんの?」

「………そ、……れは……。」

「うん、俺の自惚れじゃなければ、俺を好きでいてくれるからだよね。」

「〜〜〜〜。」

「俺だって同じだよ。もともと男相手にどうこうって趣味があったわけじゃねえし。多串くんだから、キスしたいと思うし、………ほら、銀さんの銀さんだってこういう状態になるわけでさ。」

密着する銀時の昂ぶりを感じて、困ったように眉をひそめる。

「相思相愛のラブラブなのに、何で多串くんは辛そうなんだろう……。」

「え。」

「俺は多串くんの顔見れれば幸せな気分になるし。声を聞けたら嬉しいしい、休みの日に一緒に過ごせたらそれこそ天にも昇るような気分なんだけど…。多串くんはそうじゃないの?」

「っ。」

驚いたように目を見張る土方。

「…何が足りないのかな…。多串くんが幸せになれるには、俺はどうしたらいい?」

「………。」

「ねえ、教えて?」

「………。」

迷うように土方の瞳が揺れる。

口をあけ、言葉を言おうとしてはやめて。そんなことを何度も繰り返している。

ひどく長い時間のような気がした。

けど、銀時はじっと待った。

今はただ、土方の言葉が欲しい。

自分が想像して、表情を読んで、たぶんこうだろうと察した言葉ではダメなのだ。

しばらくして土方はようやく口を開いた。

「俺で、………。   …俺を……ずっと 、諦めるな……。」

「うん。」

迷わずに頷いたら、土方はひどく綺麗な顔で笑った。

 

 

 

 

 

人間ってやつは、嘘をつくし。気持なんて見えないものだから、本当はどうかなんてわからない。

特に銀時は感情が見えずらい。

彼の紡ぐ言葉が、いったいどれだけ本心を表しているのか?いつも分からなくて。

言われて嬉しい言葉も、そのまま喜んでいいのか分からないし。

そっけない言葉に傷ついても、次の瞬間には優しく笑ったりする。

それに、こっちが何も言わなくてもこっちのことは何でも分かっているような余裕綽々の顔をしている。

だから本当はどうでもいいのか?と、飽きたらすぐに気持ちが変わってしまうんじゃないかと疑っていたのかもしれない。

けれどあの時。

普段は先回りして察してくれる一言を、ただ辛抱強く待ってくれたあの時の不安そうな顔。

それを引き出したのが他の誰でもない自分であることに、心が喜んだ。

けれど、同時にもうこれ以上こんな顔をさせてはいけないのだとも…。

アレ以来、それまで以上にかまいたがる銀時をちょっとうっとウザいと思ったりもするが。

その気持ちを疑って不安に思うことは無くなった。

 

 

 

 

 

 

20081127UP

END

 

 


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(20081205:月子)