「ユメウツツ」

 

「ん………。」

寝返りを打とうと思って、叶わなかった。

あれ、と思ったが何しろ眠い。

徹夜明けで、漸く休もうと思った所にテロの一報。それから走り回ること、約1日。

結局眠れたのは1時間ほどだったろうか?

ほぼ2日の徹夜は、心底体を重くしていた。

半ば強制的に自室へと押し込まれ、ぼんやりと夜着に着替えている間に延べられた布団。

倒れこむようにもぐりこんで、どれほど経ったのだろう。

身体はまだ睡眠を要求していた。

そのうちほっこりと体が温かくなる。

その安心感に、わずかに浮上しかけた意識がまた眠りに戻ろうとする。

誰かがそばにいる気配はする。

屯所という場所で暮らしている以上、それは当り前のことだったけど。

その気配は、真選組のうちの誰でもない気がする。

なのに、意識が目覚めないのはたぶん殺気がないから。

ただちょっと、楽しげな気配が伝わってくるだけ。

それはけして不快なものではなかったから、ほおっておいて眠ろうとしたとき。

ん?

あらぬところが反応する。

何が起こっているのかは分からなかった。

ただ、異様に気持ちが良くて。

あ。

と、声に出たのか出なかったのか。

そういえばこのところ、夜の町に繰り出すこともしていなかった。

たまってんのか? そう思うと単純な男の性がばかばかしいやら、情けないやら。

何もこんな疲れているときでなくても…。

しかし、何やらさらに気持ちが良くなってきて、さすがに焦る。

夢なのか?これは。夢なだけならいいが、本当に出してしまったら…。

けれども、疲れた思考はそれ以上に深く考えられない。

「あ。」

と、たぶん今回は声が出たと思う。

そして同時に…。

ああ、やばいなあ。布団汚したかも。

そうは思うが疲れた体は動かない。

とにかく夢でも何でもいい。すっきりしたことだし、今度こそ本格的に眠ろうと思った時。

首筋に何かやわらかいフワフワしたものが触れる。

毛足の長い犬のような柔らかい感触。

気持ち良くてそのままにしていると。

そっと、唇を舐められた。

犬?本当に犬がいるのか?

何となく子供のころ実家で飼っていた犬を思い出し、顔を擦り付けると。

ぴくと相手が動く気配。

………相手………?

やはり誰かいるのだ。

そう思った時に、唇をふさがれる。

「んん。」

唇をなめられ、舌が入ってくる。

頭の隅で、抵抗しろ、と声がする。けれど、その気持ち良さに思わず口を開けて受け入れてしまう。

キスに夢中になっていると、後ろの方に何かが押し当てられた。

「っ。」

ビクリと体が震える。

けれど、そっとなぜるようにほぐされて、キスで翻弄されて。

もともと混濁していた意識だったのもあって、何かが入ってきたのも、何か滑っとしたものが塗り込められるのも、ただ受け入れてしまう。

ガクガクと震える体をなだめるようになぜられて。

そしてギュッと抱きしめられた。

「…多串くん。」

「っ。」

その声を聞いた途端、それまで、どれだけ開けようとしてもだめだった目が、パチリとあいた。

「どこまで色っぽいの。」

「あ、……な……?」

「もう、やめろって言われたって無理だからね。」

「よ…ろず……や……?」

「そう、銀さんですよ。お前を抱いてんのだ誰なのか、ちゃんと分かって抱かれてね。」

「だ……く……?」

訳も分からず見上げた先には、真っ赤な瞳。

これまでに、見たこともない光を放っていて、ゾクリと背筋が震えた。

それまで、体の中で蠢いていたものが引き抜かれた。

「あ。」

間髪入れずに何か違うものがあてがわれ、押し入ってくる。

「んんん。」

「力抜いてよ。」

耳元でささやかれて、少し体の力が抜ける。

その隙にさらに奥まで入ってきたソレが何なのか、漸く理解する。

「や、め。」

「無理、っていったじゃん。」

もがく体をがっちりと固められ、どうにも逃げられない。…どんだけ馬鹿力なんだか…。

「動くから、ちゃんと掴まっててね。」

「て、め。……ああ!」

身体の中で、大きくて熱いものが動く感触に、思わずその背中にしがみついた。

多分、これ以上動いてほしくなくて、動きを止めようとしたのだと思う。

けれども、更に激しくなる動きに、体が付いていけなくなって力が抜けた。

そうすると、それまでの苦しいだけだったのとは違う、別の感覚が体を支配し始めた。

「ああ、あ、あ。」

「すっげ、最高。気持良すぎて、意識飛びそ。」

「ば、か、もう。」

前も刺激されてイッた時、体の中に、何か熱いものが流れ込んでくるのが分かって。初めてのその感覚に、うろたえる。

なんだ、今のは。

「ああ〜、ごめん。まさか、今夜こんなことになるとは思わなかったからさ。ゴム持ってきてなかったんだよね。今度はちゃんとするから。」

「………。」

「ちょっと待っててね。今、キレイにしてあげるから。」

そう言うと、自分の服を整えて部屋を出て行った。

………。

一体何が…。

停止した思考は現状把握を拒否するように、全く機能しない。

ただぼんやりとそのままの姿でいると、ほどなくして万事屋が戻ってくる。

その手にはどこから持ってきたのか、濡らしたタオル。

それで体中を拭いてくれて、そして、あらぬ場所もきれいにし、中から掻き出したものもきちんとふき取る。

「………。」

「体、どうだ?どっか痛くねえか?……おい?」

「………。」

「あ、あのね。うん、いや、そのね。寝込みを襲っちゃったのは、そりゃ、うん、あの、ごめん。」

「………。」

「や、あのね。いい月だったからさ、酒でも飲もうかと思ってさ、来たんだ。」

真選組の隊内のゴタゴタの解決を手伝ってもらった報酬を『ちびちび回収する』といった男は。

以来、時々ともに飲みに行っては飲み代を奢らせるようになった。

はじめは一体どれだけ奢らされるのかと思っていたのだが、連れて行かれたのは普通の居酒屋で。むしろ、相場より安いような店で(だが味は良かった)。

穏やかに過ごす時間が増えるにつれて、二人で飲むのが楽しくなってきたところだった。

だから、たぶん今日もふらりと誘いに来たのだろう。

そうしたら、早い時間から寝ていたから…。

「なんか、徹夜明けらしいってのは、テレビに映ってた凶悪な顔で分かってたからね。今夜は外へは出なくても、ここで飲んだっていいかなあとかも思ってたんだけど…。」

「………。」

「で、でもさ、多串くん寝てたし。うん、なんか、あの、すっげ、かわいい顔でさ。うん、あの、据え膳?みたいな…。」

「………。」

「あ、……ああ〜、もう。ちゃんとさあ、俺だってね。手順ってやつをさ、踏むつもりだったんだよ。」

「………手、順?」

「そうさ。はじめは喧嘩相手だったけどさ、この頃じゃ、飲み友達〜みたいな感じになってきたじゃん。

でさ、もうちょっとこう、仲良くなれたらさ、ちゃんと気持ち伝えてさ。お、お付き合いってのしてさ、デートして、手ぇつないでさ。

ちゃんと俺を好きになってもらって、ぴったり気持ちが重なったら、体も…なんて。」

「………。」

どこの少女漫画だよ?

「そ、それがさ。何か無防備に寝ちゃってるしさ。ふざけて、布団にもぐりこんで、ぎゅって抱きしめたら、なんかすりって可愛くすり寄ってきちゃうしさ。

駄目だ、駄目だ、って思いながらも、あっちこっち触ってたら『あ』なんて可愛く声あげちゃうしさ。もう、我慢できなくて…。」

「………。」

「ごめん、ちゃんと、お前の気持ち確かめなくて。」

「………。」

ちゃんと分かってたわけじゃない。

けど多分。

真選組の誰のものでもない気配。

犬っころみたいな柔らかい毛。

わずかに甘い香り。

始終優しかった手。

多分、誰かなんて眼がさめる前から分かってた。分かってて…。

身体を起こそうとすると、腰に痛みが走って思わず呻く。

そんな体をそっと支えてくれる手。

その手が小さく震えていることなんて、丸分かりだっつーの。

「ちゃんと言え。」

「え?」

「手順踏むんだろ。聞いてやるから、ちゃんと言え。」

「………っ。」

一瞬言葉に詰まった様子。けど、すぐに満面の笑みを浮かべる。

「大好きだよ。」

「ん。」

そんなにストレートに来るとは思わず、赤面する。

かわいい、とか叫ぶ甘い香りに抱きしめられながら、次はデートか?と言うと。

ええ?そこまで戻る〜?できれば続けてもう1回。とか言いやがる頭をぽかりと殴ってやった。

 

 

 

 

20090127UP

END

 


遅ればせながらの、65000HITお礼フリー小説です。
ここまで来れたのも、訪ねてきてくださる皆様のおかげです。ありがとうございます。
たまにはちょっと色っぽい話を…。(色っぽいか?)
してるだけという、やおいの王道を行ってますな。
以前から考えていたネタではあったのですが、男女でやると生々しい上、一歩間違えば犯罪なので。
この二人でのご披露となりました。
気に入っていただけましたならどうぞお持ち帰りください。
いつもの通り、背景のお持ち帰りはMG。文自体を変えなければ、その他はいい感じでお楽しみください。
もしも、サイトなどに載せてくださるという場合は隅っこの方にでも、月子の名前とサイト名をくっつけておいてください。
ではでは、これからもよろしくお願いいたします。
(20090129UP:月子)