「お友達から」
ここどこだ?
と、思ったのが最初。
動きずらい体をあちこち動かして、漸く自販機の取り出し口に頭を突っ込んでいたのだと分かって。
なんだってこんなとこに?
いやいやいや、そんなことより、どうやってこんなとこに?
頭の中をクエスチョンマークでいっぱいにしつつ、ようやくもぞもぞと脱出を図る。
「ふう。」
あたりを見回せば、真っ暗で。
付近を見渡せば、そこは大きな公園のすぐそばにある自販機で。
ああ、そうだった。今日は花見をしたんだっけ、と思いだす。
そうだそうだ。
真選組がやってきて、なんだかモメて。
そうそう、飲み比べをはじめて………で?どうしたんだっけ?
途中からの記憶が一切ない。
うわあ、銀さんもまだ若いなあ。
とむちゃな飲み方をした自分にちょっと苦笑いしつつ。万事屋へ帰ろうと立ち上がったとき。
「あれ?」
銀時が首を突っ込んでいた自販機の屋根の上には、どっかで見た男が…。
「俺も人のことは言えねえけどよ。お前どうやってそこに乗っかったんだよ…。」
呆れた言葉は、熟睡しているらしい相手には聞こえてないようだ。
このまま置いて行っても良かったけれど。
一応、真選組という警察組織の副長なんてやってるし。
それなりに顔が売れてるらしいし。
全然知らない奴ってわけでもないし。
明日の朝に、どっかで死体で見つかったりしたら、やっぱりちょっと寝覚めが悪いし。
「おい、多串くん。おいって。」
ゆさゆさと体を揺すると、ううん。と身じろぎする。
「おい、そんなとこで動くんじゃねえよ。落ちるぞ。」
「………ああ?」
ぼんやりとあいた眼。
「え、や、ちょ。」
いつもは瞳孔全開のきっつい眼が。
焦点が合ってなくて、無防備にこちらを見ている。
や、思ってないからね。可愛いなんて!!!
「よろず、や?」
ひ、ひらがなだったよね。今の呼び方!!
バクバクと心臓が激しく鼓動するのは、酔いから来るものでは絶対にない。
「お、おう。…お前、動くなよ。」
「?」
や、だから小首を傾げるな〜〜〜っ。
「動くな……って?……なんで……っ、おあ!?」
「馬鹿、だから動くなって!!」
ずり落ちそうになった体を必死で支える。
「………。」
「………。」
とっさに伸ばした腕は、土方の両脇をすくい上げていて。
そのままとん。と地面へとおろした。
「………、どこまで馬鹿力なんだよ。」
「や、って、お前。俺と上背あんまり変わらねえのに…軽くね?」
「お前が太ってんじゃねえのか?ダラダラ過ごしてるから、たるむんだ。」
「えええ、たるんでないよ。銀さんたるんでなんかないからね。むしろアレだよ。腹いっぱい食べられない日だってあるんだから。天然のダイエットっていうか……や、やめろよ、その憐れみに満ちた目は。」
「お前にじゃねえ、ひもじい思いしてる子供らにだ。」
「う。」
そこを衝かれると辛い。
「それより、………いい加減離せよ。」
「あ〜。」
銀時の手は、土方を自販機から下ろしたときのまま土方の脇に差し入れられたままだった。
「あ、あのね。俺も離そうとはしてるんだけどね。何か、こう、離れがたいというか…。」
「は?」
や、だから!!小首をかしげるなあああ〜。
内心叫びながら、けど、離そうという意思に反して己の腕は土方の背に周り、そっと抱きよせていた。
「お、おい、万事屋?」
抱きしめた腕の中からは、少しのアルコールの匂いと。煙草の匂い。
全然いいにおいなんかじゃないはずなのに、なぜか甘く感じて。
ああ、俺重症だと、苦笑する。
離せよ、とじたばた身じろぎする土方をさらに抱きしめて、唇を寄せる。
「っ。」
相当驚いたのか、硬直した土方からの抵抗はなく。さらに深く唇を味わう。
ああ、やっちまった。と思いながらも、嫌悪感のない自分の気持ちを自覚する。
「………。」
「………。」
唇を離せば、気まずい沈黙。
「あ、あの。」
「お、前。……いったいどういうつもりだ。」
「どういう?…って、キスしたんだからわかるでしょ?」
「いやがらせか。」
「や、何で、いやがらせするのに、ここまで体張らなくちゃいけないのよ?好きだからに決まってんじゃん。」
「す、好き!?」
「うん。気がついたのは実はさっきなんだけど。」
「さっきィ!?」
「うん。できれば、もうちょっといい感じの関係になりてえな…って。」
「………。」
「ど、どうかな?」
返事を催促するように顔をのぞきこめば。
何やら考え込んでいる様子。
「あの、多串くん?」
「俺は、今の今まで、お前は、お妙さんが好きなんだとばかり…。」
「うええええ!?何で、俺があんなゴリラ女をっ!」
「婚約者って言ってたじゃねえか。」
「あれは、お宅のゴリラに困ってたお妙が勝手に!」
「けど、お前はそれを否定せずに近藤さんと決闘したろ。ってか、近藤さんはゴリラじゃねえ。」
「決闘は、あれで双方うまく収まると思ったからだよ。あれはゴリラだよ。」
「今日の花見にしたって一緒に来てたじゃねえか。それに、ゴリラじゃねえから。」
「あれはお妙が新八と花見するとこに、人数が多い方がにぎやかでいいって俺と神楽が混ざっただけだから。や、ゴリラ以外の何物でもねえから。」
「近藤さんはゴリラじゃねえ。」
「………。え、結論はそこなの?」
「………。」
「あのね、多串くん。」
「多串じゃねえって言ってんだろうが。」
「俺さっきからず〜っと多串くんを抱きしめたままなんだけど。…これが嫌じゃねえっていうんなら。それが答えじゃねえの?」
「っ!!?」
目を剥いて、銀時の腕の中から抜け出そうとする土方を逃すまいとさらにギュッと抱きしめる。
「は、離せ!」
「やだ。」
「や、やだ…って…。」
「だって、なんかいい匂いするもん。」
「た、煙草臭せえだけだろうが。」
「煙草の匂いはもちろんするんだけど…。それだけじゃなくて、多串くんの匂いがする。」
「ばっ!」
真赤になった顔が可愛い。
すっげえモテそうなのに。多分女の扱いなんて慣れてそうなのに。何でこんなに可愛いんだ?
ああ、そうか。男にこんなこと言われるのは、初めてなのかも?
「じゃ、多串くん。」
「多串じゃねえ!」
「うんうん、あのね。じゃ、こうしない?」
「…何だよ…?」
「俺、これからお前のこと全力でオトすから。」
「え。」
目をまっすぐ見つめて話す。
「だから、俺に、お前を口説く許可を頂戴。」
「…き、許可…って…。」
「ね、だから。つまり。」
銀時は、抱きしめていた腕を離し、右手を前に出した。
「『お友達からお願いします』。」
「………。」
昔どこかの番組で見た告白のシーン。
土方が手を取ってくれればOK。『ごめんなさい』と頭を下げればNO。
戸惑うように思案していた土方。
多分土方の頭の中は、今ぐるぐるとさまざまな思いがよぎっていることだろう。
けれど、抱きしめられて、キスされて。
それが嫌じゃなかったのだとしたら。
今すぐじゃなくていいから。
お前の中の気持ちが形になるまで待つから。
いつか。
そっと土方の手が動いた。
「ま、せいぜい頑張れ。」
そう言って挑発するように笑った。
いつもの勝気な瞳。
けど、銀時の手に添えられた手は、少しだけ緊張に震えていた。
その手を、その瞳を、その心を手に入れるためなら。いくらだって頑張れると思った。
20090408UP
END
大変に遅くなりました。「70000HITお礼フリー小説」です。
ここまでやってこれましたのも、連日来て下さる皆様のおかげです。ありがとうございます。
次のキリ番が来る前にかけて良かったです。
初心な二人。そして恐ろしいねる○んネタ。
知っている人はいるのか?お若い人は分からないよね。
フリーですんで、気に入った方はどうぞお持ち帰りを。
いつもの通り背景のお持ち帰りはNG。
文自体を変えなければ、その他はいい感じでお楽しみください。
もしもサイトなどをお持ちで掲載してくださるという場合は、隅っこの方にでも当サイト名と月子の名前をくっつけておいてください。
これからもがんばりますので、お見捨てなきようよろしくお願いします。
(20090409:月子)