『鋼の錬金術師エドワード・エルリック及び

その弟アルフォンス・エルリック

白昼堂々拉致事件』の舞台裏

 

 

 

「ジュディちゃん。今度のアルバムのイメージ。決まってるんですって?」

「はい!」

「珍しいわね。曲にはとってもうるさいけど、ジャケットや中の写真については何時もノータッチなのに。」

「なんか、今回はパーッと目の前に浮かんだんですよ〜。」

「そう。じゃ、明日スタッフの皆と打ち合わせをするから。」

「はい!!」

 

 

 〜翌日。〜

「で?どんなイメージなの?」

「男の子なんです。きれーな金髪のロングヘア。」

「そう。じゃ、モデルは金髪の男の子を何人か集めてくるわね。」

 と担当者が頷いた。

「で、色はぴかぴかの白。」

「分かった。衣装は白一色で統一しよう。」

 慣れた様子で衣装担当のスタッフが頷く。

「で、天使なんです。」

「ふ〜む。天使の羽を付けるか…?」

「絵の具で書いたように写真に書き足してみたら…。」

「ああ、それいいね。」

「天使なら背景は空が良いかな。」

 ジュディの感覚に頼ったあまりにも漠然としたイメージを、そんなジュディには慣れているスタッフが次々と現実的に決めていく。

「じゃあ、これで。撮影は3週間後に行います。」

 

 

 〜3週間後。〜

「………。」

「あら、ジュディちゃん。どうかした?」

「ラウルさん。…なんですか?これ。」

「何って?あなたの希望だって聞いたわよ?金髪のモデル。」

「金髪は金髪ですけど!」

 憤慨したようにジュディが叫んだ。

「何で、こんなに細いんですか!」

 びしっとモデル達を指差す。

 集められたモデルは、それはそれは見事な金髪ばかりではあったが。そこはファッション雑誌等を中心に活動するモデル達だ。スリムが売りのスラリとした体型の者ばかりだった。

「大丈夫よ。あなたの方が細いわ。」

「そうじゃなくって!ちゃんと鍛えてるって感じで、骨太って言うか頑張ってるって言うか…。」

「鍛えてる?」

「そうです。二の腕とかもがしっとしてて。」

「良いわね〜。私も細いのよりがっしりとしたほうが好きよ。」

 心当たりがあるから。とラウルが請負い。撮影は改めて…となった。

 

 

 〜2週間後。〜

「どう?がっしりしてるでしょ〜!」

「ラウルさん…。」

 不満げなジュディにラウルは困ったように首を傾げた。

「あら?ダメ〜? だってがっしりしてるのが良いって言ってたから。」

「だからって、何もここまで…。」

 集まったのは、ボディビルダーのようにすさまじい筋肉を持つ男達だった。

 他のスタッフも圧倒されて文句を言う気力すらないようだった。

「ラウルさんの趣味はともかく! 行き過ぎです!」

 ジュディが言い放った。

 普段ニコニコ笑って『はい』と頷くことの多いジュディの、珍しい様子に一同静まり返った。

 フウと、スタッフの一人が溜め息をついた。

「…分かったわ。でもジュディちゃん。とにかく、もう金髪には執着していられないわ。どうしてもって言うのならカツラにします。」

「う〜。」

 スケジュールはかなり遅れている。近日中にジャケット撮影を終えてしまわなければ発売までに間に合わない。

「体格については…、とにかく至急探そう。金髪にこだわらなければ案外見つかるかも知れない。」

「………。」

「モデルクラブに所属している人間のリストを出して! ジュディちゃん。イメージに一番近い子を選んでくれる?」

「………。」

「スケジュール調整して、一番早く撮影できる子で…。」

「………。」

「ジュディちゃん?」

「いや…です。」

「え?」

「代替じゃいや。エドじゃなきゃ、いや。」

「ちょっと…。」

「エドワード・エルリックじゃなきゃいや。」

「…エルリック…って、確か国家錬金術師の?」

「うん。」

「…そうか…。あなたこの間イーストシティに行ったわね。そこで会ったのね。」

「…うん。」

「分かったわ。…そうまで言うのなら…。本人を呼びましょう。」

「本当ですか!?」

「ええ。仕方ないでしょう?」

「ありがとう御座います。」

「いいのよ。普段我儘を言わないあなたの。珍しい我儘ですもの。それくらい叶えて上げられなければ、これだけ大人が揃っていて情けないってものよ。」

「ラウルさん。」

「軍部にも連絡しなきゃいけないかしら?国家錬金術師って軍属よね。」

「あ、兄に聞いてみます。」

「そう、そうね。それが一番早いかも知れないわ。…で?その、エドワード・エルリックって。今どこにいるの?」

「え?旅をしてるんだもの、今どこにいるのかなんて分かりません。」

「「「「「「ジュディ!!?」」」」」」

 

 

 〜さらに数日後。〜

「大変です!!今、事務所の電話に『エドワード・エルリック』とおっしゃる方から電話が入っています!」

「何だって!?」

「本当か!?」

「早く!ジュディを呼んで来い!」

「ジュディちゃん! エドワード・エルリックから電話よ!」

「エドから?本当!?」

「本当よ!早く出て!」

「はい!…あ、スタジオ押さえておいてください!それとラウルさんにも連絡を!」

「分かったわ!」

 ジュディは2・3度深呼吸すると受話器を握った。

「エド!今、どこ!!?」

 

 

 

 

20060123UP
END

 

 

ジュディが通した我儘。
撮影の時にジュディが切羽詰っていたのはこんな理由でした。
スタッフは勿論ですがたくさんいます。たくさんの大人たちがわあっと喋ってる感じでお読み下さい。
女言葉の人が全てラウルさんじゃありませんよ〜。
後、補足を一つ。
ジュディのすぐ傍にいるスタッフはジュディの兄がロイ・マスタングだと知っています。けど公には秘密。
軍のほうもロイ・マスタングに妹がいることは把握しているけれど、それが「ジュディ・M」だとは知らない。
(06、01、30)