極上の時間。

 

 

 

珍しく重なった二人の休日。

簡単に取ったブランチの後は、それぞれ思い思いに過ごす。

 

今日は天気が良いから、洗濯なんかしちゃおっかな…。

 

 

朝食の後、そそくさと書斎に向かって気に入りの本を持ち出して来た彼。

それを、書斎ではなくリビングで読む…ってあたりが。

『やりたいことは勝手にやるけど、傍に居たいんだ』って言われているようで嬉しい。

そんな彼には、とびっきり張り切ってコーヒーを入れてあげて。

私は、機嫌よく鼻歌を歌いながら洗濯物を干し始めた。

 

洗濯を終えて、植木に水をやったり。

 

ふと思いついたフレーズを楽譜に書きとめたり。ピアノで弾いてみたり…。

 

 

そして、何気なく覗いたリビングでは。

彼が分厚い書物を読んでいた。

錬金術の研究書。

普通の人には暗号にしか見えないソレを。

寛いだ様子で読んでいる彼は、やっぱり天才なんだと思う。

以前のように必要に迫られて…では無く。

自分の研究のために、探究心を満たすためにそれらの書を開く様子にほっとする。

 

 

『ああ、楽しそうで良かった…。』

 

 

幼い頃に一緒に暮らしていた兄も、大学で錬金術の研究をしているときはとっても楽しそうだった。

そんな兄の横顔を見ていたくて、兄の机の隣に椅子と絵本を持っていって。大きな声で読んだ。

「今の発音は違うよ、ジュディ。」

そう優しく私の間違いを直してくれながら。

結果的に邪魔をしている私を叱らずに、笑ってくれていた兄。

その兄も、錬金術を軍のために使わなければならなくなってからは、読みたい本を読んでいても。どこか楽しそうではなかった。

 

 

そして、この人にも辛そうに錬金術の本にかじりついていた時期があった。

それを見る機会はそれほど多くはなかったけれど、やっぱりちょっと辛かった。

 

だから。この人が今、楽しそうに錬金術の本を読んでいてくれるとほっとする。

 

 

でも、でもね。

そんなに本の相手ばかりしていないで、ちょっとは私のことも見て欲しいの。

 

 

「エード、今度こそ自信作よ。

豆乳とライチジュースを混ぜてみたの。ね、飲んでみて!」

 

リビングのドアを開けて、そう声をかけると。

なんともいえない表情で顔を上げる。

「………。何と、何だって?」

「豆乳とライチジュース。」

「美味いわけ無いだろーが!」

「あ、やっぱり?」

「…って。ジュディ?」

「だって、嘘だもの。」

「はあ?」

「エド、本ばっかり読んでてつまんないんだもん。」

「何言ってんだよ。お前だって、好きなことしてたくせに。」

「あら、どうして分かったの?」

「歌が聞こえてた。」

「………。そっか。」

本に集中していても、意識のどこかで私を感じていてくれた…ってこと?

 

思わず笑ってしまった私に、照れたように真っ赤になる彼。

こんな時だけ、1コ年下なんだな…なんて思ったりして。

 

 

普段は、お互いのスケジュールすらまともに把握していなかったりもするのだけれど。

 

こんな風にのんびり笑い合っていられる、偶の休日が。

私にとっての極上の時間。

 

 

 

 

 

20060921UP
END

 

 

連載終了記念SS第2弾。…って、遅。
ジュディバージョンです。
彼女は、兄にしてもエドにしても。難しい本を楽しそうに読んでいる人の横顔を見ているのが好きみたいです。
初めはその辺のところをごちゃごちゃと書いていましたが、削って削ってすっきりさせました。
(06、10、03)