「ホワイトクリスマスってのは、そりゃあ、ムードがあっていいんだろうけどさ。」
「まあな。街も白一色ってかんじ?」
「だなあ。雪も溶けそうな熱い夜…ってか。」
「ほほう。」
「けどなあ。」
「ああ。」
「「何もこんなに降らなくたって…。」」
「…あ、はははは。」
中央司令部司令官エドワード・エルリック中佐と、その副官リチャード・モリス少尉。
二人の力の抜け切ったやり取りは、居合わせた部下たちすべての気持ちを代弁するものだった。
ハモった二人の声に、力ない笑い声が空しく響いた。
「聖夜のプレゼント」
クリスマスイブの今夜。
朝から降り始めた雪は、昼過ぎから勢いを増し、セントラルでは珍しく積もるほどの雪となっていた。
初めのうちこそ歓迎された雪だったが、元来雪が少なく、備えのないセントラル。
早速列車は止まり。街中の交通網もずたずたとなった。
また、雪に足を取られて転ぶ人間も多数病院に運び込まれはじめ、セントラルは混乱をきたし始めた。
「『ジュディ・M』のクリスマスコンサートも中止になっちゃいましたしね。」
「列車が止まった時点で、中止が決定したよ。」
元は士官学校での親友同士だ。一応他の部下がいるときは、敬語も使うが口調が砕けるのはいつものことだ。
「中止にしても混乱は起きるでしょうが、強行して怪我とかされるよりましですもんね。」
「まあな。こっちも、警備に廻してた人員を街の復旧に使えるから助かったけどな。…ともかく。除雪作業の進行状況の確認をしろ。遅れてるところには増員を。」
「了解です。」
慌ただしく働き始めた部下たちを横目に小さくため息。
背後の窓から外を眺める。
全く、いつまで降り続くのか…?
そろそろ夕方になろうかという時間だが、厚い雪雲のお陰で薄暗い街。
一瞬、焔を出すことしか能のない上官に、雪を焼き払ってもらうか?と考えてあわてて打ち消す。
あいつのことだ、余計なとこまで燃やしかねない。
それに、引っ張り出したら出したで、後までイロイロうるさく言われそうだ。
「マジで、視察に出るのかよ?エド。」
「出る。」
二人だけの時は相変わらずの旧友。
「まあ、その錬金術でぱぱ〜っと、雪を蹴散らしてくれよ。」
「ばあか。錬金術は魔法でも万能でもねえよ。」
それでも、少しでも効率の良い方法を見つけられないか?と、模索するのは無駄ではないはずだ。
「はあ。」
「ま、だいぶ雪の方も収まってきたしな。お疲れさん。」
町の中の惨状を見れば、黙っていられないのは自分の性分だ。
仕方がないとはいえ…。
「つ、疲れた…。」
「少し仮眠取ってくれば?どうせ夜は長いんだ。今できることはやったんだし、今のうちに寝ておけよ。」
「ああ〜、そうすっかなあ。…お前は?」
「お前と交代で休ませてもらう。」
「…じゃあ……。」
エドワードが腰を浮かせたとたん、内線が入る。
「ち。…誰だよ。」
受話器を取る。
『あ、ああああ、あの。交換手ですけれど。』
「ああ、何だ。外線か?」
『はははははい。あの、その、お、おお、おおおおお…。』
「はあ?」
『お、お、お、おく、おく、奥様から、あの、お電話ですッ!!!』
「奥様?」
一瞬だれのことだ?とおもって、はっとする。
「ジュディ?」
『あ、エド?』
「お、お前、どうした?何かあったのか?」
『あ、ううん。そういうわけじゃないんだけど…。あのさ、差し出がましいようだけど…いい?』
「うん?」
『外線つなげるの、もう少し早くできないの?ずいぶん待たされたんだけど…。緊急だったらどうするの?』
「あ、ああ。」
先ほどの交換手の慌てっぷりを思い出す。
「大丈夫だ。お前じゃなきゃ、あんなに緊張しねえから。」
『何、それ。』
「お前の声、耳元で聞いたから緊張したんだろ。」
『ふうん?』
「それより、どうかしたのか?」
『ううん。ただ、暇だったから。』
「あのなあ。」
『ふふ、あのね、一応伝えておこうと思って。私、今夜は事務所とかじゃなく家にいるから。』
「家?」
『そ、家。』
「誰かいんのか?」
『いないわよ。』
「じゃ、今一人なのか!?」
『そうよ。』
「何でそんな所にいんだよ。事務所でもホテルでも外にいれば、誰かそばにいんだろ。コンサートはだめになったかも知んないけど、パーティくらいは出来んだろうが。」
『雪の上にイブよ?今からホテルが取れるわけないじゃない。事務所だってコンサート中止の後始末でバタバタしてるし。ここが一番落ち着くんだもの。』
「………。」
それでも、聖夜に、たった一人であの広い家の中にいるのは…。
「食べるものはあるのか?」
『大丈夫、買ってきた。』
「飲み物は…あるな。」
『うん、たっぷり。』
セラーには、たくさんのワインが入っていたはずだ。
『あのね。大丈夫よ。だって、エドは戦場にいるんじゃなくて、同じセントラルにいるんだからね。』
「ん、おう。……ピアノの下なんかで寝るなよ。」
『分かってるってば。』
そう言って笑う彼女が、ほんの数年前までは、ベッドでよりピアノの下や、ソファで寝ることの方が多かったのを知っている。
一人ぼっちを嫌う彼女を、なんだって今夜一人にしておかなければいけないのか…。
「お前明日は?」
『ん〜今のところ予定はないけど。』
「分かった、なるべく早く帰る。」
『本当?』
「ああ、プレゼント買って帰る。…何がいい?」
『ああ〜、うう〜ん。あのね、一つ欲しいものがあるんだけど。』
「おう、何だ?」
『あのね。ふふ、赤ちゃん。』
「っ!!!!?」
ガチャンと大きな音がして、通話が切れた。
「あらあ?」
切れた…というよりは、なんか受話器を落としたみたいだったけど…。
たぶん、真っ赤になってるのだろう。
想像してクスクスと笑う。
これだからエドをからかうのはやめられない。
燃え盛る暖炉の火を見ながら、大丈夫なのに、と思う。
明るく部屋を照らすライト。暖かな暖炉。
目の前には大好きなレストランのデリバリーのメニュー。
赤ワインに、ケーキもある。
確かにここにいてほしい人はいないけれど、帰ってくると分かっている人を待つのは楽しい。
明日帰ってくるとき、エドは一体何をプレゼントに持ってきてくれるのかしら?
それを想像しながら待っていたら、きっと明日なんてすぐにやってくるわ。
20090127UP
END
久々の「鋼」の更新です。
リックの名前忘れてた………。
遅れに遅れて、いまさらのクリスマスネタです。
ジュディのびっくり発言の一部は、実は確信犯だったら楽しい。
(20090129UP:月子)