子供の領分(柳生編その後)



 

柳生の道場へ押し入った後、初めて土方が万事屋へ来た。

そして、銀時に愛の言葉を吐く間もなく。

…って言うか、視線をくれる間もなく。

神楽を見て一言言った。

「お前、髪、ボサボサじゃねーか。」

「うるさいアル、ミイラ男。」

「いつものお団子はどうした?」

「手首ボキッてなったアル。さすがに1日2日では治らないヨ。」

神楽は柳生邸へ乗り込んだときに、手を骨折したらしい。

しかも、それを真選組のサド王子が余計に悪化させた。

その辺の事情を知ってか知らずか、土方は暫く神楽をじっと見た後ぼそりと言った。

「やってやろうか?」

「「「へ?」」」

その場に居た万事屋3人衆が同時に声を上げた。

「やってくれるのカ?」

「いつもみたいに、両方にまとめればいいんだろう?」

「そうアル。」

やおら神楽はいつも髪を結わえるゴムを持ってきて土方に渡す。

土方は、普段の粗雑さなど物ともせず。

ていねいに神楽の髪をとかしたと思ったら、意外と起用に髪をまとめている。

…こんな感じか?」

「そうアルね。…で、これで止めてほしいアル。」

「ああ。」

唖然と銀時と新八が見つめる中。土方は器用に神楽の髪を整えていった。

「お前、上手いアルな。」

「昔は、良くやってたからな。」

「女にカ?」

「馬鹿、違う。」

「馬鹿と言う奴が馬鹿アル。」

「黙ってろ。」

「なあ、誰にやってやったアルか?」

「自分だよ。前は髪が長かったし。」

「ええええええ!!!多串くん、髪長かったのおおおお!!!?」

「な、何だよ、急に大きな声を出しやがって!俺の髪が長くちゃ悪いかよ!!ってか多串じゃねえ。」

「悪くないよ、ちっとも!何で切っちゃったんだよ!銀さんも髪の長い多串くん見たかったのに!!!」

「何言ってんだよ。長かろうが、短かかろうがどうでもいいだろうが!」

「良くないね!絶対に良くないね!今だってそんなにフェロモン垂れ流し状態なのに、髪の毛が長かったら犯罪だよね。何つーの?公序良俗違反?猥褻物陳列?」

「ンだと、コラァ!!!切ってイイか!?切ってイイか!?…って言うか、切るぞ!」

「丈夫に出来てるんで、切ったところでどうという事はないと思いますが。この性格はそれくらいじゃ直らないと思いますよ?」

新八のフォローとも言えないフォローに、土方はがっくりと肩を落とした。

 



 

「フクチョー。」

「ああ?…チャイナ?」

「フクチョー、探したアル。」

巡回中の土方に神楽が駆け寄ってきた。

「何か用か?」

「コレ、又やって欲しいアル。

ザンバラ髪の神楽の手には髪留め用のゴムがあった。

……もう、手は治ったんだろ?」

「今日は、アネゴみたいにして欲しいアル。」

「『アネゴ』?」

「新八の姉御アル。」

「ああ、お妙さんか。」

名前がどうこうより、近藤が呼ぶ『お妙さん』で覚えてしまっている自分が悲しい。

「ポニーテールか…。かまわねエが…。ここでか?」

ここは街中&道端。

「細かい事は気にしないのが、イイ男アル。」

「くくく。分かった。ゴム、貸せ。」

それでも一応往来の邪魔にはならないように、端の方に避けて土方は神楽の髪を梳き始めた。

………。フクチョー、ありがとう。」

かわいらしく、ポニーテールが出来上がったが何か物足りない。

「おう。………。」

「?」

「ああ、そうか。」

いつもはついている大きな髪飾り。さすがにアレをそのままポニーテールには使えない。

「チャイナ。買い物に付き合え。」

「酢昆布3箱で手をうつアル。」

「ちゃっかりしてんな。」

まずは、すぐ傍にあった駄菓子屋に寄り、酢昆布を買う。

そして、本来の目的であったスーパーマーケットについた。

………やっぱ、赤だよな。」

……フクチョー?」

店内に小さく設けられた雑貨コーナー。そこで、土方は赤い太めのリボンを買った。

会計を終えて、すぐに封を開け神楽のポニーテールに結び始めた。

店員に強引にハサミを借り、丁度良い長さに切ってやる。

「ほら、見てみろ。」

店内に設置されている鏡の前に連れて行く。

「わあ。可愛いアルか?」

「おう、可愛い、可愛い。」

怪力だし、大食漢だけど。その容姿は幼い女の子だ。

そして、恐らく彼女の現在の保護者はこの子を可愛いと思いつつも、女の子らしく飾ることなど思いもつかないだろう。

なら、気付いたものがやってやればいい。

幼くして親元から離れているこの子が、寂しさなど感じなくて良いように。

「本当に?本当に可愛い?」

「ああ。………あいつなら、今の時間なら屯所でサボって昼寝してるから行ってみろ。」

………褒めてくれる…アルか?」

「ああ、きっとな。」

沖田は馬鹿だが、聡い。

ちゃんといつもと髪型が違うことにもすぐに気付いてやれるだろう。

それに…。

男ばかりの屯所。

この頃頻繁に出入りするようになった神楽は半ばマスコットとなりつつあった。

むさいオヤジばかりだが、ちやほやされて悪い気はしないはず。

「ありがとう、フクチョー。」

走り去る小さな背中を見送る。

そうやって、いつも笑っていろ。

そうすればお前の保護者は。結果的に親元から離してしまった事を、悔やまなくてすむから。

 

 



 

 

20070511UP
とことん神楽には甘い土方。土方は神楽の良いお兄さんだったらいいなあ。
(07、06、04)