夕焼け小焼け



日が暮れるまでの公園は子供達のものだ。

けど、どんなに楽しい時間にも終りは来る。

○○ちゃ〜ん。夕ご飯ですよ〜。」

そう呼ばれて、一人又一人と帰っていく。



 

今日は。

「あら〜」何て笑って。

迎えに来た母親達は井戸端会議を始めてしまった。

「もう少し遊べるね。」

そう笑ったのは、もうお迎えのマミーが来た子。

恐らくあの井戸端会議は後20分くらいは続くだろう。

神楽も勢いよくブランコをこいだ。



 

神楽の母親はいない。

だから、この場に迎えに来るマミーはいない。

けれど、時々通りがかった銀時や新八が当たり前に声を掛けてくれる。

「神楽〜、帰るぞ〜。」

「神楽ちゃん。夕食作るから手伝って。」

淋しくは、無い。

血の繋がりなど無くたって、二人は自分を愛してくれて大切にしてくれていると分かるから。



 

いかにもお兄ちゃん然とした新八はともかく。

銀時は、お迎えに来る者としては失格だ。…と神楽は思っている。

和洋折衷の独特の服装は、見慣れた自分は違和感もないが。

奥様連中にはすこぶる評判が悪い。

いかにも、プータローとか遊び人に見えるらしい。

「そんな事無いネ。」と否定できないところが、また微妙に悔しい。

さらに、下手に打ち解けて話し始めた日にはもう…。

所謂『奥様』同士の会話になってしまうのだ。

決して銀時が女のように話すのではなく、適当に相手の話に相槌を打ちそれなりに話をあわせてしまうために。井戸端会議に混ざっている銀時は『背の高いおばちゃん』に見えてしまう。

 

むう。

先日の井戸端会議の異様な盛り上がりを思い出して、神楽は唸った。

その時。

「あ。」

「お。」

公園の前の道を通りがかったのは土方だった。

「フクチョー、今帰りアルか?」

「ああ、まあな。何だ、お前も子供同士で遊ぶんだな。」

何故だか安心したような表情で笑う。

…あれ?静か?

ふと気付けば、にぎやかに笑い合っていたおば様連中がし〜〜んと静まり返っていた。

その視線の先には土方。

「?」

なんだろう?と首を傾げつつ友達に別れを告げて、土方の傍へと歩いていった。

横目で窺ったおば様の頬は、ぽおっと真っ赤に染まっていた。

認めたくはないが、まるでアイドルを見るような視線だ。

 

うお、な、なるほど。

 

土方に近付いた神楽はマジマジと彼を見上げた。

「?どうした?チャイナ。」

確かに彼の顔は整っている。

足が長くてすらりとしていて、スタイルだって良い。

しかも、高給取りだ。

『鬼』とか言われているくせに、案外優しいし。料理も上手い。

…ふむ。」



 

 

『おまわりさ〜〜〜〜ん』と呼んで来てくれるのは、通常は『見回り組』とか『派出所』勤務の警察官だ。

彼らはおおむね和装で髷を結っている。

その上、武家の次男三男が多いので(つまり家を継ぐことの出来ない者たちの就職先なのだ)どこか頼りない感じだし。意外と年齢の高い者が多い。

それに引き換え真選組は…。

実に目立つ黒の洋装。

『武装警察』と言われ対テロの警察だけあって、攻撃的な分、行動的だ。

そして局長ですらギリギリ20代の若い集団。

恐らくその辺りが、おば様連中のツボなのだろう。

世間一般で言われているほど、女性からの評判は悪くないのだ。

そして…。

どうしてもむさくるしい連中の多くなる武装集団の中で、約2名だけビジュアル的に鑑賞に堪えうる者がいる。

その内一人はまだ10代となれば、もうおば様連中の妄想(恐らく、若いツバメを持ちたい願望)のターゲットはこの男一人。



 

「フクチョー、手、繋ごう。」

「ああ。」

神楽に対しては、甘いといえるほどに優しい土方。アッサリと手を繋いでくれる。

後ろでは、溜め息の混じったどよめきが起きている。

凄いアル!何だ、この優越感!!!

ふふと笑うと。何だ、随分ご機嫌だな。と笑われる。

 

「お願いがあるネ。」

「何だ?」

「時間が合う時だけでいいから、又一緒に帰りたいアル。」

「え?」

土方は一度視線を上げて公園を見やった。

迎えに来たおば様連中の井戸端会議の輪。

……俺でいいのか?」

「フクチョーが良いアル。銀ちゃんは失格ネ。一緒に井戸端会議するアル。」

「ぷ。」

おば様に混じる銀時を想像したのか、小さく噴出す。

「いいぜ、万事屋に泊まるときはこっちを通るようにする。」

「本当アルか?やった!」

もう、思いっきり見せびらかしてやる!!!

「後、もう一つ。」

「何だ?」

「今夜はオムライスが良いアル。あのふわふわ卵がトロってなる奴。」

「ああ、良いぜ。…材料あるか?」

「冷蔵庫には苺牛乳しか入ってないアル。」

「仕方ねえな。スーパーに寄って材料買っていくか。お前も一緒に来い。」

「うん。」

 



 

「ね、フクチョー。」

「何だ?」

「いつ、ウチにお嫁に来るアルか?」

「はあ?」

「フクチョーが銀ちゃんのお嫁さんになれば、いっつもおいしいご飯が食べれるアル。」

それに、毎日こうして手を繋いで帰れるかもしれない…。

………。」



 

黙り込んだ土方の顔が真っ赤だったのは……。

夕日のせいだった…ということにしておこう。と思った神楽だった。

 

 

 

 

20070623UP
もっと、こう。夕暮れ時の独特の雰囲気のある話にしたかったのに…。おかしい…。
奥さんに逃げられた男やもめの新しい恋人が、男の連れ子に結婚を許されたような微妙な話に…。
コレにて「フクチョーと遊ぼう」シリーズは終了です。ありがとうございました。
(07、06、28)