以心…伝 心…?
「あれ、多串くん?」
「お。」
街中で会ったのは偶然。
普通なら、ひとしきり言い合いをして別れるのだけれど。
土方の視線がスイと流れた。
銀時の後方を見て、一瞬目を見張った。
「?」
「来い!」
「うわ。」
土方が無理矢理銀時の腕を引いて、傍の狭い路地に引き込んだ。
「な、何?」
「しっ。」
黙っていろ、とその目が言う。
仕方なく黙って身を潜めていると、大通りを数人の男達が笑いながら通り過ぎていった。
と、土方の体が緊張する。
「?」
あいつらに何かあるのか?
銀時が首をかしげたとき、そのうちの一人がこちらを見た。
「…っ。」
土方が銀時の体の影に隠れるように少し移動する。
ああ、見つかりたくないわけね。とっさに気付いた銀時が土方の体を隠すように少しだけ動く。
傍から見れば、それはまるで恋人を他人の目から隠すかのようなしぐさにも見えたけれど、土方は気付かなかった。
男達の気配が去って。
「で?」
土方の体の力が抜けたのを確認して銀時が聞いた。
思いのほか近いところから声がして、驚く。
「あいつら、もしかして攘夷派の奴ら?」
「…ああ、まあな。」
気付けば何故か銀時の腕の中。
「で、何で多串くんが隠れるの?追いかけているのは君らの方でしょう?」
「…っ。」
今にも額が触れそうな距離で目を合わせられる。
赤味を帯びた珍しい瞳の色が、真直ぐにこちらを見ていた。
煌くというほどではなかったけれど、いつもの「死んだ魚のような目」ではなかった。
「何か、されたの?あいつらに?」
「?……いや?」
何を言っているのか?自分がやつらにどうにかされるわけがないだろうが!という抗議の気持ちをこめて銀時を睨みつける。
すると、途端にほっとしたような様子で銀時の目から力が抜ける。
あれ?まさか、心配したのだろうか?
「あのね、多串くん。改めて良く考えればさー。俺、一緒に隠れる必要無かったと思うんだけど?」
「………。」
銀時の言い分はもっともだった。だが、土方にも事情はある。
確かに先程のは攘夷派の面々だ。
たいしたことない小物の一派なのだが、嫌に金回りが良い。
恐らく、大きな組織か有力なパトロンが背後に隠れていると思われる。
先日、ようやく監察から一派の潜入に成功したと連絡があったばかりだ。
いま、下手に刺激したら。
そう、例えばオフとはいえ『真選組副長』の土方と遭遇してしまうなんて事になったら…。
得てして逃げる者というのは、小心者で用心深い。
警戒させてしまったり、怯えさせてしまったりしたら…。
再び姿をくらまし、せっかく掴みかけた尻尾を逃してしまいかねない。
逃してしまったら、又ゼロからやり直しだ。
今まで以上に膨大な時間と人員が必要になってくるだろう。
そうして手をこまねいている間に、テロなど起されたら目も当てられない。
実に、実に微妙な時期なのだ。
その上、目の前の男は。攘夷浪士の桂小太郎とどうやら親交があるらしい。
もしかしたら、先程のメンバーの中に知った顔があるかもしれない…。
銀時の方は知らなくても、相手の方が銀時を知っているという可能性もある。
声を掛け合ったりしたときに、土方のことを口にしないとは言い切れない。
そんなあれこれを考え、この男の顔を見せるのもヤバイ気がして、自分が隠れるときに一緒に路地に引きずり込んだのだ。
けれど、その辺の細かな事情を懇切丁寧に説明するのはなんだか面倒で。出た言葉は。
「つい。」
「つい?つい!?つ〜い〜!!?」
ああ、うるせえ。
思ったけれど、言葉にはせず。眉間にぎゅっと力が入った。
「うるさくないね。当然の抗議だろう?巻き込んでおきながら、説明責任を果たさないのは酷いんじゃない?」
やましいところは無い。と言うつもりで銀時の目を見返す。
悪かったと思うが、微妙な問題だから説明が長くなんだよ。
「悪いと思うんならさ。ファミレスでパフェでも奢ってよ。そうしたらゆっくり説明も聞けるし。」
にっこりと笑い返されて。
仕方ねえなあ、と溜め息を付けば。
「パフェ、パフェ。」
と歌うようにスキップしながら、土方の手を引いて路地から大通りへと出る。
あれ、そういえば。
自分はまともに喋っていないのに。どうしてこいつは俺の考えたことが分かったんだ?
…と、土方が首を傾げるのはファミレスに入って、頼んだものが届くのを待っている時だった。
そして、そして。
成り行きとは言え、銀時に抱きしめられていたのに。嫌じゃなかった自分に気付いて頭を抱えたのは。
ファミレスの後、並んで街中を散歩し。
夕方から一緒に居酒屋で飲んで、いい加減に酔っ払って。
夜になって屯所へ戻った後だった。
20070606UP
いつか逆バージョンにも挑戦したい!
(07、06、22)