朝方見た夢
「今朝ね、夢をさあ……見たんだよね〜〜。」
「ほお?」
のんびりと口にする銀時に、土方の眉間の皺はますます深くなった。
昨夜は大きな捕り物があって。捕り物が終わってからもイロイロと後始末があって。
結局寝たのは、白々と空が明るくなってから。
今日は昼からの勤務だったので、それまでゆっくり寝ようと朝寝坊を決め込んでいたら。
こいつにしては珍しく『朝』と言える時間に目を覚ましたらしい。屯所の土方の部屋へと忍び込んできたのだ。
アッサリ屯所の警備が突破された上、自分は眠い。
その上、相変わらずの能天気顔でどうでも良いように話す銀時に、さらに機嫌は下降の一途を辿る。
「あのね、夢でさあ。どうやら、俺。死んじゃうらしいんだよ…。」
「………。へえ?」
「こう、布団だか地面だかわかんないけど横になっててさ。半分くらいしか見えない視界の中で、神楽とか新八とかが俺を覗き込んでる訳。『死なないで〜』とか言ってさ。
あんま良く覚えてないけど、多分下のクソババアとかキャサリンとかお妙とかお宅のゴリラとか沖田君とかさあ。知ってる人の顔が次々見えるのね。」
「ふうん。」
「なのにさあ。多串くんの顔だけ、見えないんだよね。…何でだと思う?」
「はあ?」
「俺の視線は多串くんを探してキョロキョロしてるわけよ。なのにさあ、多串くんだけその場に居ないみたいなんだよね。酷くね?一応恋人同士なのに…、かなりコレって酷くね?」
「まさか…。」
「うん、それで文句良いに来た。」
「っこの!腐れ天パ!そんなくだらねえことで人が徹夜明けでようやく眠ったところを邪魔しに来やがったのか!!!」
「や、ここは文句を言っておくとこでしょ。仮にも恋人がさあ、死ぬかも知れないって時にだよ?その場に居ないってどういうことよ。」
「アホか。手前の夢だろう。俺を信用してねえのは手前の方なんじゃねえのか!」
「………。えー。そう?そんな事ないハズだけど…。」
「…仮に、本当にそんな事があったとして…だ。」
「うん?」
「手前が死ぬって時に俺が居ないってんなら、そりゃアレだ。俺の方が先に死んでんだろ。」
「………。」
「だから、未練タラタラ残してねえで。とっとと俺んとこへ来い。あの世の先輩として、たっぷりしごいてやっからよ。」
「………。」
潔い君が好き。
だけど、君が先に死んじゃったら残された寂しさに俺は耐えられそうにないな…。
言葉が返せない銀時の目の前で、土方がくああああと大きな欠伸をする。
「とにかく寝るぞ俺は。お前も寝て行け。」
「あ…うん、………へ?」
ぐいと腕を引っ張られて布団の中にダイブする。
そのまま土方の腕の中に抱き込まれて、ほとんど抱き枕状態。
「………生きてるうちから死ぬ時の心配なんかすんな。…時間の無駄だ。」
「ん。」
体に直に響く声。
ぽふんと布団をかけられて、冷えた身体が温まる。
実は小さく震えて強張っていた身体がゆっくりと弛緩していく。
「お休み、多串くん。」
「………ん。」
もう、寝息が聞こえる。
好きな人が出来たら、強くなれると思ってた。
けど、いざ好きな人が出来たら、彼を失ってしまうかも知れない不安に苛まれる。
一人置いていかれるかも知れない恐怖を、いつも感じる。
だってよりにもよって、毎日命がけの仕事をしてる人だから。
抱きしめられる腕の力強さに、ゆっくりと眠気がやってくる。
そうだよね。
したって仕方のない心配は、時間の無駄。
本当、そうだよね。
不安になるのは、君の事。けど、その不安を消してくれるのも、君だね。
規則正しい鼓動を感じながら、愛しい身体を抱き返した。
20070629UP
拍手SSのつもりで作ったのだけど…。中途半端な長さになったのでこちらに…。エッチに突入させるべきだったか?
(07、07、15)