ゆでたまご (芙蓉編その後)
「………。ったく、又ありえねえ怪我しやがって。」
「あ…ははは。」
「何をしたら、体にこんな穴開くんだよ!?」
「へ、へへへ。」
気まずそうに頭をかく銀時。
土方は、はあと溜め息を付いた。
話す気ならとっくに話してくれているだろう。
言わないという事は話す気が無いということだ。
心配させない為と言うより、恐らくは自分が『真選組副長』だから話せない、いわくのある怪我なのだ。
こんな時だけは、自分達の立場の違いがわずらわしくなる。
「病院には行ったのか?」
「ああ、うん。すぐに治るよ、こんな怪我。だから、心配しないで。」
「し、ししし心配なんかするか!」
慌てて叫んだ土方。けど、赤くなったその顔に説得力は無い。
嬉しそうに銀時が笑う。
「だって、非番でもこっちが押しかけなきゃめったに会ってくれないのに、珍しく多串くんから来てくれたって事は、心配してくれたんでしょう?」
きっと、神楽か新八から銀時の怪我のことを聞いたのだろう。
黒の着流しで万事屋に現れた土方は、家に上がりこんだ途端に正確に銀時の怪我の場所を言い当て服を脱がせた。
エッチとか何とか、冗談でかわすことが出来ないほど土方の表情は真剣で。
それだけ心配をしてくれていたのだと。不謹慎かも知れないが嬉しくなる。
「まあ、暫くはおとなしくしてろよ。」
「う…ん。…って事はエッチもなし?」
「当たり前だ!」
「ちえっ。」
「『ちえっ』じゃねーよ。だったらそんな怪我すんな。」
「うん。ごめん。」
「………。」
けれど、互いに分かっていた。
又、怪我はするだろう。
銀時も土方も。
「………。あ〜、遠出は出来ねえけどさ。下くれえなら行けるよ。」
「下?」
「そ、ババアんとこ。なんか食おうぜ。」
「奢りか?」
「んな金あるか!」
「…ったく。しょうがねえなあ、今日は奢ってやる。特別だぞ。」
「へ?」
「ちゃんと食わねえと、治るもんも治らねぇだろうが。」
「多串くん。」
ガバリと抱きついてくる銀時の背中をポンと叩く。
「多串じゃねえ。行くぞ。」
「本当、ごめん。」
「バカ、もう良い。」
事情は分からないけど、その怪我を後悔していないのは分かるから。
「あのさ、チュウして良い?」
「ダメって言ってもするんだろう?」
「うん。」
二人はそっとキスを交わした。
まるで始めての時のように、震えているのは。
互いに生きて、相手に触れることが出来る喜びを知っているからかも知れなかった。
二人連れ立って外階段を下りる。
「おや、ウチで飲むなんて珍しいね。」
キャサリンは使いにでも出ているのか、お登勢がカウンターの向こうから笑う。
開店して間もない時間。
客は銀時と土方が一番乗りのようだった。
「酒は俺だけだ。こいつには何か食わしてやってくれ。」
「え〜、俺だって飲みてえ!」
「傷口からこぼれるぜ。」
「こぼれるか!」
「お前さんはもう少し我慢しておきなよ。」
お登勢にも言われて、銀時は盛大に溜め息を付く。
「ん?」
土方の視線が店の奥に向けられた。
「何だ、アレは?生首?」
「カラクリだよ。」
「カラクリ?…って、この顔どっかで…。」
「拾ったんだ。」
「拾ったってお前。」
呆れたように銀時を振り返る土方。
「そういや、闇ルートでは今カラクリが凄ェらしいな。」
「………。取り締まる?」
「いや、そっちはウチの管轄じゃねえ。」
土方の仕事への割り切り方は独特だ。
自分の仕事に対してはバカが付くほど真面目なくせに。
わずかでも自分の仕事の範疇から外れれば、違法だろうがなんだろうが途端に取締りの対象から外してしまう。
「動かねえのか?」
「額のほくろが起動スイッチになってんだよ。」
「へえ。」
興味深そうにポチッと押している。
「始めまして。卵といいます。」
「タマ…?もう少しまともな名前をつけてやれよ。」
「神楽がつけたんだよ。卵割り器のタマ。」
「卵割り器?」
「そいつ、まっさらだからさ。色々教えると面白いくらいに覚えるぜ。」
「へえ?」
「あなたの顔は、初めて見ます。」
「ああ、土方だ。よろしくな。」
「土方様、ですね。」
「ああ、………へえ。こうしてみると結構可愛い顔してんじゃねえか。」
土方が間近で覗き込むように見ると。
「あ………。」
タマの顔が一気に赤くなり、耳や鼻や口から湯気が出始めた。
「お、おい。タマ?どうした!?」
「おやおや。カラクリも美形には弱いのかい?」
面白そうにお登勢が笑う。
…ってか、どこまで人間臭くなる気だよ?
「ヒジカタサマ ヒジカタサマ 」
と、うわごとのように呟くタマに銀時は呆れて溜め息を付いた。
20070904UP
ゆで卵はタマさん。…っていうか、我ながら何というネーミングセンス…。題名つけるの苦手っす。
(07、09、06)