なんて綺麗な おまけ
「っん、…ああ……もう、…っ。」
「だめ、だよ。1ヶ月分、だからね。」
「あっ、 や………ウン、……も、やめ……。」
ぐったりと布団に沈む土方。
まだまだ1ヶ月分の、俺の淋しさの埋め合わせは出来てないけど。これ以上やったら多分気を失ってしまうので。
久々に会ってそれはいやだったから、渋々と体を離した。
「なあ。何で透子を探そうと思ったんだ?」
「…お前は割りと…、人当たりはいいくせに誰かに深く入り込まれるのは苦手だろう?そんなお前が以前に付き合ってた女性がいるのなら、ましてや生死が分からないんだったら心のどこかに引っかかってるだろうと思って。」
「…ん〜、まあ。安否を気にしてはいたけど。」
「お前言っただろう?俺『も』その髪を気に入ってるんだ。…って。『も』ってことは他にもいたって事だ。多分、その彼女だろうと思って。」
たった一言。
『は』ではなく『も』という言葉を使ったがために?
わずかに背筋がぞっとした。
けれど、きっと彼は。真摯な気持ちで、銀時の発する言葉を一言一句も漏らさぬように。銀時のしぐさの一つ、目線のちょっとした動きにまで心を砕いて。真っ直ぐに銀時と対峙してくれようとしているのだ。
「透子がお前に『ありがとう』って伝えてくれって。」
「?」
「やっと止まってた時間が動き出した。…ってさ。」
「………。そう、か。」
彼の真摯さ、真っ直ぐさは時に周りを巻き込んでしまう。
礼も言っていたが、透子は最後に苦く笑いながらこうも言っていた。
「あの子。本当に、かわいい人よね。かわいくって、綺麗で。そして、とっても残酷な人。」
「残酷?」
「私ね、あの頃銀時のこと本当に好きだったわ。今でも時々思い出すのは楽しいことばかりよ。…戦争中だったのにね。
だから、あの子が来てあなたの住所を教えてくれたとき、その夢の続きが見れるような気がしていたの。
だけど実際にあなたに会って見れば、あなたは随分と変わっていて。変わってないところもあるけど、変わったところもあって。そして私もやっぱり変わってたり変わってなかったりして。
…ああ、ごめん。何か何言いたいのか分からなくなってきたけど。」
「いや、分かるよ。多分分かると思う。夢じゃ、なかったんだよな。」
「そう。あの時と同じドキドキであなたを見れなかった自分に失望した。
私もあなたも、現実を生きてる。それぞれに大切なものがあって、違う価値観があって。…夢の中へは、戻れなかった。
あの子が来なければ、ずっと夢を見続けられたのに。」
「その方が良かった?」
「ううん。目が覚めてよかった…って思ってしまったから、悔しいんじゃない。」
そういって透子は、目尻に溜まった小さな涙をぐいと拭って笑った。
「あの子を泣かせたら承知しないからね。…ってか、そん時は私がもらうから。」
「げ、ライバル?」
「あの子のそばにいると、自分もまっすぐで綺麗になれそうな気がするのよ。」
「んじゃあ、俺もそうなるかな?」
「あんたは無理よ。もう修正きかない位にバキバキに折れ曲がってるし、その目なんか澱んでるもの。」
「ひでェ。」
「1ヶ月前のあんたなんか知らないけどさ。しゃんとしなさいよね。
あの子は凛として綺麗だったわよ。そんな薄汚い感じでいたらすぐに振られちゃうんだから。」
「…おい?」
黙り込んでしまった銀時を不思議そうに見つめる。
「ん、ああ、ごめん。考え事。」
「…お前、その…本当にいいのか?」
「ああ、もう、この子は〜。俺、足りなかったかな?ちゃんと気持ち伝えきれてなかったかなあ?もう銀さんは多串くんにメロメロでグチョグチョなんですけど!」
「…何か、汚ねえ。」
「仕方ないから、その体に…。」
「うわ〜、ちょっと待て。まだやんのかよ、…ってか何時間たってんだよ。腹減ったってんだよ。テメーだってこの頃ロクに食ってねえんだろ。何か食おうぜ。」
「え、何で知って…?」
「チャイナとメガネがな…。」
「ああ。全くもう、あの子等だって分かってるのに、どうして本人が分からねえかなあ。」
「んん?」
「凹んだ俺を元に戻せるのはお前だけだって分かってるから、お前のところへ注進に行ったんだろうが。」
「………あ…。」
「…ねえ、多串くん。俺、多串くんがいないと本当に本当のマダオになっちゃうからさ。だから、ね。ずっとそばにいて。」
「…仕方ねえな。餓鬼どもがかわいそうだからな。」
柔らかく笑った顔は綺麗で。
本当だな、透子。
なんてかわいくて。
なんて、綺麗で。
なんて、残酷な子なんだろう。
20071109UP
END
銀さんにとってどうして土方が残酷なのかといえば、銀さんの気持ちなんかお構いなく銀さんの幸せを決めようとしたからです。
何かもうちょっとやりようがあったんじゃないかと、ひどい後悔の残るお話になってしまった…。
(07、11、22)