どう見えるかではなく、何を見るか。



それに気付いたのは、きっと偶然。



人が言うには、俺の瞳孔は開いているらしい。

以前、隊士全員参加の健康診断のときも眼科の医師にジロリと見られた。

「瞳孔が開いてますね。」

放っておけ。

けど、医師らしくこうも続けた。

「昼間、特に真夏は眩しく感じられませんか?」



確かにそれはあった。

けど、みんな同じだと思っていたのだ。

瞳孔ってのはつまるところ目に入ってくる光の量を調節するところで。

それが開いてるって事は、普段から多い量の光が目の中に入ってくるって事。

夏場や昼間はサングラスをしたほうがいいと言われてそのとおりにしたら。

隊内でも、街中でも評判はすこぶる悪く。

仕方なくサングラスはやめた。

昼間は眩しさに目を眇めていれば、それはそれで『目つきが悪い』と文句を言われる。



全く俺にどうしろと言うんだ…。



ただ、良い事もある。

夜目が利くことだ。

これも、みんな同じだと思っていたらそうではなかったらしい。

わずかな光でもいろんなものが良く見える。



だから、それを見つけたのは偶然なんだろう。



…ってか、夜の夜中に白い着物は目立つだろう。



「何やってんだ、こんなところで。」



明かりのない真っ暗な河原の土手に座り込んでいる男。



「ああ、うん。…何、多串くんこそこんな時間にどうしたのよ?」

力なく答える。

こいつは常日頃から力が抜けているが、今はどうも様子が違う。

「………、見回りだ。」

「大変だねえ。」

「お前は暇そうだな。相変わらず。」



答えは無い。

けれど気にせず隣へ並んで座った。



「帰らねえのか?チャイナは?」

「新八のところ。」

「ふうん?で、お前は何してんだ?」

「夕涼み。」

「この寒いのにか?」

「それは多串くんが薄着だからだ…ろ…って、あれ?私服?仕事中じゃねえの?」

「最初に気付けよ。」

「っ。」

周りが目に入ってなかったことを指摘され、気まずげに目を逸らす。



「さて…と。行くかな。」

「?」

「明日はオフなんでな。飲みに行くところだ。…お前、どうする?」

「…金、ねえよ。」

「…奢ってやってもいいぞ。」

「…後が怖そうだからいいや。」

「こんなことは二度と言わねえぞ。後悔するぞ。」

「う…。」

分かりやすくぐらついてきたのが分かる。

分からないように小さく苦笑して。



「何をグチグチ考え込んでんだか知らねえが、テメーがそこでぐずついて事態が何かいい方向へ変わるってんなら俺の口出すことじゃねえが。そうじゃねえんなら、今夜くれえは黙って奢られろ。」



「ぐずついてるって何?銀さん湿気?ってか、雨雲?むしろそいつら敵だからね、俺の髪の毛の敵だから!」

ようやくいつもの調子を取り戻してきたらしく、滑らかに口が回りだす。



立ち上がって、着物の裾をパンパンとはたいて歩き出せば。

後ろでも慌てて立ち上がる気配。



「っ。」

後ろからぎゅっと抱き込まれる。

冷え切った体が冷たいはずなのに、触れ合ったところからじんわりと熱が広がる気がする。



「多串くんは俺のこと甘やかしすぎ。」

「…そうか?」

「本当に奢り?」

「ああ。」

「ふふ、じゃ、お返しに今夜は銀さんがんばっちゃうから泊まっていきなよ。」

「馬鹿っ。」



「ああ、もう。…誰にも見つからないつもりだったのに。どうして、多串くんには見つけられちゃうのかな。」



それは、俺の瞳孔が開いてて夜目が利くから。



見つかりたくないくせに、テメーが白い着物なんか着てるから。



でも、きっと本当は。



本心では。

寒くなってきたこんな夜に、一人で居たくないとお互いに思っていたから。





20071120UP

END


土方が最初に「見回り」と言ったのは、わざと嘘をついたんです。

ちゃんと土方のことを見てれば、その場で嘘と分かったはず。けど、銀さんの目には何にも映ってなかった…と。
さらに、「ぐずついた」→「低気圧」にしようかとはじめは思ったんですが、「不機嫌→低気圧」ってのは良く使われる表現なので。
あえて、はずしました。
(07、11、27)