お持ち帰り

 

 


 言いだしっぺが誰だかなんて知らない。

 ただ、俺を含めた幼馴染み4人組と、その誰かと仲良くなった奴の幼馴染み4人組とで、飲み会をしようということになったらしい。

 んで、男ばっかりじゃ何だから〜と、女の子も呼ぶことになって…。

 総勢15人の合コンと相成りました。

 


 

「え〜土方くんも、あの授業取ってるの〜。気づかなかった〜〜あ。」

 明らかに嘘で〜す、ずっとチェック入れてました〜。と、言わんばかりのわざとらしさで、俺の隣の土方某くんに擦り寄る女の子。

「ええ、あんたいっつも土方くんの傍の席取るのに必死だったじゃん。」

 ほらほら、女の友情なんて顔のいい男の前ではシングルのトイレットペーパーより薄いよ?

 途端に『あんたこそ』と始まった言い合いに辟易したようにため息をつく土方。

 おモテになる方は大変ですね。

 俺なんか、合コンで見事女の子をお持ち帰りなんて、出来たためしがねえよ。

 ダチの高杉とヅラと。そっちも幼馴染みだとかいう土方と沖田と。

 おそらくはその4人の顔で集めた女の子たちなのだろう。

 その選に漏れた男たちには見向きもしない。ええ、もう、いっそ清々しいほどに。

「は〜い、では。『第1回チキチキ当たるも八卦当たらぬも八卦ビンゴ大会〜〜〜』ィ。」

 沖田と坂本がいつの間にか用意していたらしいビンゴカードと、番号の書かれた玉の出る小さなおもちゃを取り出した。

 『行くぞ』と言われて『おう』と付いてきた俺は知らなかったが、この二人が幹事だったんだろうか?

「そっちに回してくれ。」

 土方の方からビンゴカードが回ってくる。

「はいよ。」

 自分の分を1枚とって、残りを反対に座っていた女に回す。

 コレが、土方と交わした最初の会話だった。

 

 


 順調にビンゴ大会は進行されていった。

 ビンゴを当てた者からくじを引いていくというルールで。

 くじの中身は豪華景品だったり、罰ゲーム的なことだったり…。

 なるほど、だから『当たるも八卦当たらぬも八卦』なのかと妙に感心していたら…。

 俺と土方が最期に残った。

「じゃあ、2人にはここで濃厚チュウをしてもらいやしょうかね。」

 半笑いの沖田が言った。

「はああああ!?」

「バカ言ってんじゃねえ、総悟!」

「二人とも、4つもリーチ掛かってるのにビンゴを逃すとはありえねえドン臭さでさぁ。」

「まあ、厄払いだと思ってぶちゅっとやっちゃってよ。あははは。」

「あはは…じゃねえ!この、もじゃもじゃ。」

「もじゃもじゃは手前もじゃねえか。」

「ええ!?俺?…土方くん、ここは一緒にあいつらに抵抗するところでしょうが。」

 しまった、そうだった…的な顔、今更したって遅いっつーの。

 で、さっきまで土方の顔にきゃあきゃあ言ってた女の子たちが、目の色変えてこっちを見てくる。

 や、なんだその興味津々って顔は!!!

「女って、こういうネタ好きだよな。」

 土方がボソリと呟く。

「こういうネタ?」

「ホモっての?俺と総悟とか、結構言われる。」

「違うんだろ?」

「当たり前だろうが!何、確認してきてんだ、ボケ!」

 顔きれいなのに、恐ろしく口が悪いよ、この子。

「ほら、何をこそこそ話してんですかぃ、土方コノヤロー。とっととブチュッとやってしまえ!」

「そ〜う〜ご〜っ!」

「あはは、トシ、頑張れ。」

 ゴリラな男がおおらかに笑う。確か近藤とかって言ってたか。

「土方さん、男らしく潔くどうぞ。」

 なんか地味な男が、デジカメを構えつつ言う。

「山崎!手前、何撮ろうとしてんだよ!」

「や、だって沖田さんに撮れって言われてるから…。」

「いいから、諦めろ。土方。」

 土方の隣を陣取った女をあっさりとどけて、高杉が寄ってきた。

「そうだぞ、銀時。ルールだからな。ルールは守らないといかん。」

 俺の後ろにはヅラがいて、せーのとかいらん掛け声をかけつつ背中を押してくる。

 土方の背中も高杉が押しているらしく、途端に顔が近づいた。

「うおおお、くっつく、くっつく。」

「くっ付けろといってるんだ、バカ者。」

 いまさら、しないわけにもいかない雰囲気だ。

 見ると、土方もどこか諦め顔で。

 いつまでも愚図るより、あっさりキスしちまったほうが、酒の席での笑い話ですむだろう。

 そうだ、男同士なんだから。これ以上ごねるより、やっちまった方が傷は浅く済む…はずだ。多分。

 俺も諦めて体の力を抜いた。

 くちゅ。

 唇が触れ合った途端。『きゃ〜〜』とか明らかに嬉しそうな女の子たちの悲鳴が上がる。

 すぐに離したかったけれど、互いに背中を押さえつけられているため、それも適わず。仕方なくしばらくキスを堪能する羽目になった。

 




 

「よう、土方。」

「坂田…。」

「まさか、アレだよな。モドしてねえよな。」

「ねえよ。」

いくら男同士の不本意なキスとはいえ、キスの後にモドされたりしたらショックだ。

 わいわい囃し立てられて、で、場が落ち着きを取り戻した頃。

『トイレ』とか言って席を立った土方がしばらく戻ってこないので、様子を見に来たのだ。

 …が、トイレの中ではなく。その入り口に設置されている吸殻入れの隣に立っているところを見ると、トイレというよりは煙草を吸いに来たのかもしれない。

 別に店内禁煙とかではないけど、女の子のいる場でパカスカ吸うのも躊躇われたのかも…?

 まあ、ヘビースモーカーと言っていいくらいには吸っていたけれど。

「煙草吸うんだ?」

「まあな。」

 そっけなく答える土方は、こちらも見ずに所在無げに立っている。

「あんまり戻らないと、さすがに皆騒ぎ出すぜ。」

「…ああ。」

 それでも、戻ろうとしない土方に首を傾げる。

「あ〜、目当ての子でもいた?」

「いや。」

 狙ってた子に男同士のキスを見られて、気まずいのかと思ったがそうでもないらしい。

「…じゃあ…。」

 尚も言い募ろうとすると。

「もう、戻る。」

「………。うん。」

 や、なんだこの微妙な空気は。取り繕うように口を開いた。

「けど、アレだよなあ。口なんて男も女も一緒なんだな。」

「うん?」

「男同士なんて、って思ったんだよ最初は。けどさあ、まあ、なんつうか…。男だからどうってほど、違いがあるわけでもねえんだな。」

「…そうかよ。」

「まあ、土方は気持ち悪かったかもしんねえけど…。」

「………。唇の形なんて性別で変わるもんじゃねえからな。」

 それは…、あれ?つまり、どういうこと?

 土方が、探るように聞いてくる。

「お前、今まで男とキスしたことあるか?」

「いや。ねえけど?」

「…てめえらも幼馴染みなんだろ?…その…、ダチと…ってどうだ?」

「あいつらと…?」

 ちょっと想像しただけで、ゾワリと鳥肌が立った。

「土方、ひでえ。鳥肌たったじゃん。」

「…ああ、本当だ。」

 半そでのシャツから出た腕にそっと触ってくる。

「………っ。」

「………。」

 ああ、なんだコレ。心臓がやたらバクバク言ってうるせえ。

「あのさ、土方は?お前らも幼馴染みなんだろ?」

「山崎は高校からだけどな…。…俺も同じような感じだった。」

 じゃあ、なんだ。俺ら、お互いは平気だけど他は駄目って事か?………それって……。

「あのさ、土方。その…もう1回、試してみる?」

「………ん。」

 おそるおそる言った提案は、ためらいがちに、けどはっきりと頷いて受け入れられる。

 いくつか並んでいる個室の一つに一緒に入り、改めて見詰め合う。

 本当、キレイな顔してるよな。

 ゆっくりと顔を近づければ、向こうも同じだけ近づいてきて…。

 重なった唇に嫌悪感はない。

 舌を絡めあえば、土方の手が俺のシャツをきゅっと掴んで…。

 甘く漏れた吐息にあおられる。

 ゆっくりと唇を離せば、目の前には上気した土方の顔。

 ああ、やばい。

 身体の奥のほうから何か熱いものがじわじわとこみ上げてくる。

「坂田…。」

 小さく呼ばれた名前。ただ、それだけのことが嬉しいなんて…。

「なあ、このままばっくれねえ?俺の部屋で飲みなおそうぜ。」

「ん。」

 男なんて普段特に荷物なんて持っていない。

 財布もケイタイもGパンのポケットに入っているし、土方は必需品らしい煙草もライターも持っていたから。

 二人でそのまま店を出た。…まあ、後で何か言われるかも知れないけど何とかなるだろう。

 




 俺の人生で初のお持ち帰りは、なんと同じ男だった。

 




 

 

「げ、何でそんなにマヨネーズかけんだよ!」

「手前こそ、おにぎりに餡子ってどういう了見だ!」

 

 

 

 互いの味覚にドン引きしたりもしたけれど。

アレからずっと、俺たちは案外上手くやっている。

 




 

 

 

 

 

20080716UP

END

 

 

 






突然出来たお話。
自分のネーミングセンスのあまりのひどさにがっくり。何だよ…。「お持ち帰り」って…。
(08、07、23)