桜の下で
桜の名所で知られる広い公園。
銀時、新八、神楽、お妙。それに今年は、階下の飲み屋の3人も加わり花見に繰り出した。
するとそこへ真選組御一行もやってきた。
その時土方はおらず、何でも急な仕事で遅れてくるとのこと。
銀時は、もちろん。できることなら土方と一緒に花見をしたいなあとは思っていたが、特に何か画策したわけではない。
普通に花見の予定を決め、決行すれば、お妙にくっついているストーカーが無理にでも予定を合わせてやってくるのは目に見えていた。
大きなシートを何枚も敷いて腰を落ち着け、真選組が持ってきた花見弁当に舌鼓を打つ。神楽は、特別に作ってくれたらしい巨大おにぎりを嬉しそうにほおばっていた。
銀時たちが花見を決めたのは2日前。
突然近藤が言い出した花見決行のために、土方は割を食っただろう。
多分大慌てでシフトを組みなおしたり、弁当の手配をさせられたのに違いない。
けれどきっと、土方は分かっていたはずだ。
これほど突然に言い出し、しかも強行するという近藤の花見の目的が何か…。
お妙が来るとなれば、その弟や、勤め先の人間がいることだって、想定済み。
その証拠が神楽用巨大おにぎりだ。あんなもの、神楽以外の誰が食べるというのだ。
近藤の意をくんだように見せかけ、特に反対もせず、予定変更もせずに、花見を決行したということは。
土方も一緒に花見をしたかった…と思って良いのかね?
それぞれが酒や料理を堪能し、万事屋一行、真選組入り乱れて盛り上がり始めたころ。
土方をはじめ数人の隊士たちが、遅れて到着した。
「よ、お疲れ。」
「みんなは……?」
「ああ、そこらで好きにやってるよ。」
闘ってる者、ミントンをやるもの。踊るもの、歌うもの、殴られて伸びているもの…。
それぞれ好き勝手に、桜そっちのけで楽しんでいる。
そんなみんなを、目を細めてみる土方。
鬼と言われているが、隊士たちを本当に大切にしている土方。
それに、新八や神楽たち子供たちにもやたらと甘い。
その甘さを少しはこっちにも分けてくれたらいいのにとも思うが、そうはならないところが土方なのだろう。
「ほら、こっち来て飲めや。」
「ああ。」
お妙に殴られて、顔じゅうぼこぼこになって転がされている近藤をちらりと見て、あきれた溜息をひとつついた土方は、割と素直に銀時の隣へとやってきた。
まあ、静かなのは銀時の周辺と、あとはお登勢のいるシートくらいなので。ほかに行きようがなかっただけなのかも知れないが。
「仕事は終わったのか?」
「とりあえずは、な。この後は、…今後の展開次第だな。」
「ふうん。」
何人かの隊士たちが副長様へ酌をしにくる。
二言三言言葉を交わしながら杯を傾ける。
けれど、以前のような無茶な飲み方はしない。
官僚たちによるいやがらせなのか?それとも案外有能なのか?
このところ真選組の仕事の範囲が広がっているらしい。
いつ呼び出しが来てもいいように、酒の量を控えているのだ。
それはほかの隊士たちも同じだった。
本当に非番のものは、近藤と一緒になって大騒ぎをするが。待機組のようなメンバーは、酔い過ぎることなく大人しく飲んでいる。
全員で馬鹿騒ぎしたころを、少しだけ懐かしく思ったりもするが、『警察』という仕事柄仕方ない部分もあるのだろう。
「これ、花見弁当、うまいな。」
「ああ、あんまり急だったんで外に頼めなくてな。うちのまかないで作ってもらったんだ。」
「えええ、いいなあ。普段からこんなに美味えもん食ってんのかよ。」
「美味いは美味いが…。お前の場合は、もうちょっとちゃんとしたもん食えるように働けよ。」
「ええ、銀さんこの頃がんばってんよ。何か、神楽の食欲前より凄くてさ。何?あれ、成長期ってやつ?」
「え……さらに凄えのか…?」
「うん。ほら、お前が用意してくれた巨大おにぎり。あれもあっという間だった。」
「そ、べ、別に、俺が用意したわけじゃ…。」
「そりゃ作ってくれたのは、まかないのおばちゃんかもしれないけどさ。お前が頼んでくれたんだろ。」
「〜〜〜。」
「神楽の食欲、いやってほど知ってるもんなあ。」
金のない銀時たちを哀れに思ったのか、何度か万事屋で食事を作ってくれたことがある。あっという間になくなったごはんに唖然とした土方の顔は、やたらとかわいかった。
と。
チャララ〜 ララ〜
すっかり耳になじんだ土方の携帯の着信音。
その音は銀時にとって、忌わしいメロディー。
土方の忙しい仕事の合間を縫って、ようやく二人きりの時間が取れたとしても、この音が鳴ると、土方は『仕事だ』の一言で帰ってしまう。
近藤が…。
テロが…。
指名手配犯が…。
内偵の報告を…。
指示を…。
………。
ああ、今回は一体なんの要件だ?
うん、とか。ああ、とか。頷いている土方。
数名の隊士はそんな土方の様子をうかがっている。
多分、土方が一言『行くぞ』といえば、この場を離れなければならないメンバーなのだろう。
「………分かった。御苦労だった。その件は、一旦保留だ。元の持ち場へ戻っていいぞ。」
ポチと、通話を切った土方に、銀時はそっと聞いてみた。
「何?仕事?」
「ああ、いや、報告だけだ。」
「そ。」
銀時がほっとしたのと同時に、耳を澄ませていたメンバーもほっと肩の力を抜いた。
そうして、土方が帰らずにすんで良かったとほっとしたのもつかの間。
ふと見ると、土方の目の焦点が合ってない。
……ああ、また、飛んでっちゃった。
時々土方は、こんな状態になる。
一緒にドラマの再放送を見ているときだったり、食事の最中だったり、時には道端を歩いているときだったり。
初めてこうなった土方を見た時は、いったいどうしたのか!?と驚いたものだが、さすがにもう慣れた。
恐らくは今報告を受けた件について、今後の作戦などを練っているのだと思う。
瞳孔は全開で、瞳は物騒に煌いている。
『まったくもう。楽しそうに…。』
心ここにあらずな土方に溜息と苦笑。
ひとしきり仕事のことを考え、満足すれば戻ってくる。
出会ってしばらくは、土方が銀時の前で気を抜くことなんてなかった。
その頃から考えれば、こうして無防備になるってことは、大分銀時を信頼してくれているということなんじゃないか?と。実はちょっと嬉しくも思ったりしている。
それに。
普段は、その顔をじっと見ようものなら『なに、じろじろ見てんだよ!』とか言って足蹴にされたりするのだが。こうなってるときはじっくり見放題だ。
やたらと整った顔は、いくら見ていても飽きない。
すっかり短くなった煙草をそっと土方の口元から外して、灰皿がわりの空き缶に落とす。
今日は一体どんな作戦を考えいてるのやら?
隊士たちを守りつつ、組織を守り、そして最大限の成果を得られるように。と思考をめぐらす。
ずっと以前、自分にも覚えがある感覚。
大切な仲間が失われていく日々に、募る焦燥感。
これ以上大切なものを失くしたくないと思ったら、自分が無理するしかなかった。
必死になっているときは、自分が疲れているのだとも、無理をしているのだとも気付かないものだ。
あまりにも似ている思考の持ち主である土方を見ていると、時々必死だった自分を思い出して、むず痒いような恥ずかしいようななんとも言えない気分になる。
だからこそ、今。必死で自分の大切なものを守ろうとしている土方の仕事の妨げにはなりたくない。と思う。
やりたいように、やったらいい。
どうにも、無理のしすぎだと思った時には、そっと休ませてやるから。
しばらくして、土方の目に力が戻る。
銀時が覗き込んでいるのに、少し驚いたように引く。
「な、何だよ。」
「頭、桜の花びらが乗ってる。」
「え?」
素直に頭に手をやる土方。可愛いなあ、と笑みが漏れる。
「そっちじゃねえよ。…こっち。」
手を伸ばすと、またしても素直に頭を近づけてくる。
や、も、ちょっと、かわいすぎ。
花びらを取るふりをして、チュっと額にキスを落とす。
「な、な、何すんだ〜!」
「ぐええ。」
真赤になった土方に、殴り飛ばされた。
「ああ、またやってるネ。」
「見ていて恥ずかしいんですけど…。」
「バカップルが。死ね土方。」
「お妙さ〜〜ん、俺たちもあんな風に……グエ…。」
「ああもう、局長、いい加減にしてくださいよ。」
満開の桜が、そんな彼らを見て笑うようにハラハラと花びらを落とした。
20090329UP
END
大変にお待たせいたしました。
以前「888888番」でいただいたリクエスト「えろくないけど大人な銀土(お酒とか)」のお話です。
当時、もしかしたらこちらのエラーかも?との疑念もあったので受けさせていただきました。
リクエストをくださった「きりやま様」大変お待たせいたしました。本当に本当にお待たせいたしました。
大人な二人になったかどうかわかりませんが、季節がらお花見の話にさせていただきました。
本来の「キリ番」とはちょっと違うので「銀魂」のページ内に入れさせていただきましたが。もちろんこのお話は「きりやま様」のみお持ち帰りいただけます。
気に入っていただけましたらどうぞお持ち帰りください。
いつもの通り、背景のお持ち帰りはNG。文自体を変えなければその他はいい感じでお楽しみください。
もしもサイトなどをお持ちで、載けってくださるという場合は隅っこの方にでも当サイト名と月子の名前をくっつけておいてください。
リクエストありがとうございました。これからもよろしくお願いします。
(20090331:月子)