全開LOVER

 

 

どおおお〜〜ん。

ワンブロック先の料亭から黒煙が上がった。

あれ、何事だ?

なんとなくバイクをそちらに向ける。

事件ある所に土方あり。これは真理だ。

案の定。『真選組だ!』と野次馬の誰かが言っていた。

近づけばやはり黒い集団が右往左往していた。

「ちょ、総悟は!?あんだけバズーカーは使っちゃダメだって言ったでしょうが!!」

「局長!テロリストたち、何名か裏へまわったみたいです。」

「原田?裏?何?逃げちゃったの?」

「や、裏は1番隊が固めてるはずなんですが…。」

「って、それ総悟でしょ?」

「ああ、もう。副長。何でこんな時に…。」

なんだか現場は大混乱の様相を呈していた。

近藤が一人でワタワタしている。

あれ、土方は?

「よ。」

「あれ、万事屋の旦那。」

「坂田?」

「何。どうしたの?」

「手伝ってって下さいよ!」

「や、坂田は部外者だろうが。」

「だって副長が…。」

「何、多串くんどうしたの?」

「あの人、根詰めすぎてさっきぶっ倒れたんっすよ。沖田隊長が屯所の布団でぐるぐる巻きにして置いてきたんですけど。」

「って過労!?」

「ここんとこ攘夷浪士たちの動きが活発で…。捕り物も続いてるし、内偵だって何件も…。」

ああ、きっと疲れてげっそりしながらも、現場では目を爛々と輝かせてたんだろうなあ。

ちゃんと仕事はこなしてたから、誰も休めって言えなくて…。近藤は言ったかもしれないけれど、「この件が終わったら」なんてダラダラと引きのばしているうちに限界がやってきたのだろう。

「そ、それより、逃げた浪士たち。どうすんですか、局長。」

「追いかけるしかないでしょうが。総悟に連絡。裏はどうなってんだ?」

慌ただしく無線でやり取りがなされる。

「あ〜。ただいま交戦中ですぜィ。」

時々声が詰まるのは、刀を振るいながらだからなのか?

「とにかく、主犯だけは逃がすなよ。」

「へい。………あれ…。」

プツンと無線が切れる。

「総悟!?ちょ、総悟?……今、『あれ』って言ったよね、ね、言ったよね!?」

「あああ〜〜、言ってましたね。」

「総悟〜〜!?『あれ』って何?総悟く〜ん!?」

近藤が無線機にすがりつくように叫んだとき。

パトカーが1台。ものすごいスピードで走ってきて、隊士たちをなぎ倒さんばかりの勢いで、止まる。

「な、なななな?」

バタンとあいたドアから山崎が転がり出てきた。

「……ちょ、副長。勝手に足のばしてきてアクセル踏まないでください!」

「うるせえ、ちんたら運転しやがって。」

珍しく煙草をくわえていない土方が、のそりと出てくる。

「トシ!!」

「副長!?あんた、何布団から抜け出して来てんです!!」

「捕り物があるってのに、のんびり寝てなんかいられるか!」

あああ、『土方』だ。

顔色は悪いし、少しやせたみたいだけれども。その眼はやはり爛々と輝いている。瞳孔は見事に全開だ。

ちょうどそこへ無線が入った。

「主犯がすばしっこいやつでさぁ、仲間囮にして逃げやした。」

「総悟!?」

「追ってください、隊長。」

「今、やってますぜぃ。」

普段仕事とはサボるもの。と言わんばかりの一番隊隊長も捕り物は好きだと見える。

走っているらしく、無線の声は少し弾んでいた。

「山崎、地図。」

「はいよ。」

土方の言葉にさっと反応したジミーがパトカーの屋根に大きな紙をガサガサと広げた。

「原田。無線機。」

「…ハイ。…くれぐれも、ご自分では出て行かないように。」

釘をさすのを忘れない原田をじろりと見返して、けど、そんなのじゃ動じない原田に小さく舌打ちをして。

渡された無線機に呼びかけた。

「総悟。」

「あれ、土方さんじゃねえですかい。よく抜け出せましたねぃ。」

「あとで覚えてろよ。……それより、今どっちへ走ってるんだ?」

「ええと、裏口を出て右ですぜぃ。」

「分かった。」

一つ頷くと、土方は立て続けに指示を出した。

「3本目の路地を左へ。次の路地を右。少し行った先に三叉路があるだろ、そこは真ん中の道を。」

「へえへえ。」

「原田。」

「はい。」

「お前は、こっちの路地から入って追い立てろ。行くのはこのルートだ。数名ずつ隊士を分けて、逃げ場をなくせ。」

「はい。」

地図を指しながら指示をする。

「近藤さん。」

「う、おう。」

「奴は多分この辺りに出てくる。あんたの隊はこっちへ。間違っても少し先にある川に飛び込ませるなよ。」

「わ、わかった。」

そういえば、このあたりの裏路地は入り組んでた。

犯人は隊士たちにあちこちから追い立てられて、徐々に逃げ場がなくなっていくのだろう。

袋の鼠ってやつだね。

「三叉路真ん中まで来やしたぜぃ。」

「そのまままっすぐだ、原田が行く。」

まるで、実際の町並みが目の前にあるかのように指示を出す。

「…副長。大丈夫ですか?」

「うるせえよ。」

「うるさくてもいいですから。ちょっと休んでて下さいよ。」

「んなわけ行くか。」

「まあまあ、多串くん。」

「万事屋?」

あれ、今まで気がついてなかったの?と内心へこむ。

「後ろでよければ、座っときなよ。立ってるよりいいよ。」

「………。」

むっつりと押し黙りながらも、バイクの後ろにベンチに座るように腰かけた。

「余計なお世話なのは分かってるけど、あんま無理すんなよ。」

「無理なんかしてねえ。」

「さっきまでの、奴らのバタバタぶりを見せてやりたかったぜ。多串くんがいないとだめなんだから。だからこそ体は大事にしないとね。」

「ち。」

「や、何でそこで舌うち?」

しょうがねえ奴だなあと苦笑した途端。背中に温かい重み。

土方が銀時に寄りかかってきたのだ。

や、ややややや、何だ、これはデレか?今はデレなのか?

しばらくして。

「主犯格を捕まえましたぜぃ。」

と無線が入る。

「じゃ、副長。帰りましょうか。」

「何言ってんだ山崎。これから後処理が…。」

「捕まえるまで…って約束でしょうが。」

「うるせえ、いいんだ。」

「良くありません。あんたまだ安静にしてないと…。」

「じゃあさ、銀さんが屯所まで送ってやるから。」

「「は?」」

「このままバイクで。」

「2ケツじゃねえか。」

「まあま、ほらメット。…大丈夫。布団の中にぶちこんどきゃいいんだろ?」

「はい。よろしくお願いします、旦那。」

「こら、山崎。」

「多串くん。何なら縄で縛ろうか?そういうプレイも嫌いじゃないけど、俺としちゃ、そういうのはベッドの上で…。」

「万事屋!何言ってんだ!!」

これ以上、余計なことを言われたくないと思ったのか。素直にメットを受け取る。

「じゃ、出すよ。」

「…。」

むっとしているのか返事はなかったけれど、小さくうなずいた気配はしたので、バイクを出す。

「………そういや、久しぶりだね。」

「………ああ。」

風に逆らいながらの会話。

けど。

そっと、土方の腕が回ってきて、背中に体が触れて。

ずっと会えなくて、悪かった。

言葉にしなくてもその気持ちは伝わってきた。

「せっかく会えたのに、こんなに弱ってんじゃ何にもできないなあ。」

「馬鹿野郎が。」

「いっぱい休んで、早く元気になってよね。…早く、抱きたい。」

「……っ、馬鹿野郎、が。」

真赤になっているだろう、その顔が見えないのは残念だけど。

身体にまわされた腕に少し力が籠って。

 

 

仲間だからこそ、組の奴らの前で甘えられないってんなら。

銀時はいつだって喜んで『部外者』でいてやろうと思う。

だから、どうにも辛くなったら。そっと休みに来たらいい。

 

さっき、そっと寄りかかってくれたように。

今、こうして甘えてくれているように。

 

 

「やっぱ屯所へついたら、チューくらいはしていい?」

「っ、この、くそったれが…。」

 

 

 



 

20090416UP

END

 






このところお仕事モードの土方がマイブームです。
こっ恥ずかしいタイトルですが。全開なのはもちろん土方の瞳孔です。
瞳孔全開で嬉々として現場に立つ土方が、銀さんは大好きって感じで一つ。
(20090417UP)