OH! MY GIRL!! 後編

 

 


そこは大型のショッピングモールで。何でも宇宙でも数本の指に入る大きさなのだそう。

買い物のできるスペースあり、食事できるスペースあり。その上、ゲームセンターやボーリング場、映画館…といった遊べるスペースもある上、屋上にはなぜか観覧車があるというとんでもなく広い場所だった。

とても手が出ないようなブランド物の店の前で、いったいあれは何に金がかかっているのか?と言い合ったり。

流行りのショップで超ミニの着物を指差し『あれ今の土方に似合う』と言って殴られたり。

ロフトで、アイディアグッズをやたら感心して眺めてみたり。

ずっと手をつないで、腕を組んで。

普段はない身長差が今日はあるから、話すときはちょっと顔を寄せてみたりして。

男同士で気兼ねなく…っていうのもいいけれど。いつもとはまた違う『デート』を楽しんだ。

途中、休憩ってことでジェラードの店へ行く。

「シャーベットとどこが違うんだよ?」

「や、なんかがちがうんだろ?俺は甘けりゃそれでいい。」

適当な会話をかわしつつ店の前のベンチに座る。

「あ、うめえ。」

「…人が多いと疲れるな。」

…だから、さっきから少し口数が少なくなってきてるんだろうか?

「な、土方。」

「ああ?」

「そっち、どんな味?」

「うめえぞ、食うか?」

「食べさせて。」

「はあ?」

「『あーん』ってやって。」

「ばっ!」

「最初に言ったよね。やってくれるでしょ?」

『はい、あーん』も含んだデートをしたいと俺は言ったし、あいつはそれを了承したはずだった。

「〜〜〜〜、今日だけだからな。」

「うんうん。」

ジェラードについていたプラスチックのスプーンに一口分乗せて、こっちへよこす。

できれば、事務的にではなくもうちょっと可愛らしくしてほしかったけど、そこまで贅沢は言うまい。

あーんとあけた俺の口の中に、少し甘さ控えめのジェラードが乗せられる。

「うめえ。」

「そうか。」

照れくさそうな、それでいてなにやら複雑な表情を浮かべてふいと視線をそらす。

…あれ?…照れてるだけじゃなさそうな……?

どうしたのか聞こうとしたとき、土方が『げ』と顔色を変えた。

「土方?」

「お前さっき観覧車に乗りたいとか言ってなかったか?」

「うん、言ったけど?デートの締めは観覧車でしょ。」

「見てみろよ、あれ。あの行列、観覧車の列じゃねえ?」

「へ?」

俺達が座っていたのは、ちょうどテラスのように張り出した部分で、屋上の観覧車が見えた。

その下から始まっている行列は屋上だけでは収まりきらず、その脇の非常階段にまでつながっていて、しかも数階分下まで続いていた。

まだオープンして間がないからというのもあるのだろうが、それにしてもアレっていったい何時間待ちになるのだろうか…。

「………並ぶのか…?」

「う…。」

甘味のためなら並んでみせる。…けど…。

「今日は諦めるか…。」

「いいのか?」

「まあ、二人で並ぶのも楽しそうではあるけどさ。そろそろ腹減らねえ?」

「まあな。」

「じゃ、メシにしようぜ。んで、飲もう。」

「ああ。」

「ちょっと惜しかったけどな。観覧車と言えばチュウだろう。」

「はあ!?」

「え、そこんところは基本だろ?」

「何の基本だよ!?」

「デートの。…ええ、副長さんったらおモテになるくせに、知らねえの?」

「ち、んなもんに頼らなくったっていいんだよ俺は。」

「ああああ、そう。」

姿かたちは可愛い女の子なんだけど、その中身は全くの『土方十四郎』で。乱暴な言葉にぞんざいな表情。

けど、そんな土方を可愛いと思ってしまう俺はきっと重症なんだろう。

 


 

ショッピングセンターの中は高いから…と、結局落ち着いたのはいつもの居酒屋だった。

「アレ銀さん。今日は女連れかい?」

「おう、俺の恋人な。」

「隅におけないね。」

馴染みの親父は、やはり顔を知っているはずの土方だとは気付いてないらしい。

『美人にはサービスしとくよ』なんて言って1品余分に出してくれる。や、今日これで何度目だよ?美人は得だよな。

礼を言ってニコリと笑いながらも、土方は複雑な表情をしている。

気付かれても困るだろうから、気づかれないことで不機嫌なのではないだろう。

………だったら、何?

「疲れたか?」

「まあ、少しな。」

「普段あんなに人に揉まれることないだろう?副長さんの前は、ザザ〜〜っと人がよけるもんねえ。」

「……そう、か?」

「え、自覚なし?じゃ、案外人ごみ苦手な方?」

「…かもな。もともと田舎の出だし。」

「そっか、だったら、もっと静かな所にすれば良かったな。」

「え…?」

あれ、何でそんなに驚いてこっちを見るんだ?

「あ…え…、何驚いてんだよ?」

「や、てめえがそんな殊勝なことを言うとは…。」

「あのね。せっかくの『デート』なんだから、どうせなら二人とも楽しみたいでしょうが。俺は別に土方に負担をかけたいわけじゃねえんだから。」

「………。別に、楽しくなかったわけじゃねえ。」

少し視線をそらすようにして言う土方。照れも半分あるんだろう。けどなんか『デート』って言葉が出た時に。ほんの少し表情がこわばったような………??

何なんだ?何がこいつの心に引っ掛かってるんだ?

 


 

土方の様子に気になる部分はあったものの、始終和やかな雰囲気のまま居酒屋を出た。

「泊まれるんだろう?」

「………ああ。」

万事屋への道をたどりながら、土方の手を取った。

すると、スルリと外される。

???

もう一度手をつなごうとすれば、やはりスルリと逃げられる。

「…土方?……手、つなごうよ。」

「………。」

途方に暮れたような表情で立ち尽くす土方。

「…どうした…?」

「別に、どうもしねえ。」

「ああ、わかった。腕組んで歩きたいんだ。」

わざと明るく言うと、『ちげえよ!』とか返されて。

「なあ、なんかあったのか?さっきから、なんか考えてんだろ?」

「………。何でも、」

「なくないよね。」

「………。」

「土方、言って。……どうした?…もしかして、俺のこと嫌いになった。」

思いもよらないことを言われたという顔で、あわててブンブンと首を横に振る。

「じゃ、好き?」

「ば、…何言って…。」

「嫌いじゃないんなら、手つなごう。でないと、ここで濃厚なチュウするぞ。」

「………。」

少ないとはいえ人通りはある。

恋人同士が手をつないで歩くくらいならどうということもないが、キスなんかしてたらさすがに酔っ払いに絡まれるくらいのことはありそうだ。

一瞬ためらうような表情をしたけれど、土方はそっと手をつないできた。

「よっし、万事屋へ帰ろう。」

ぶんぶんと腕を大きく振って歩くと、しばらくして土方が小さく笑う。

ようやく少しほっとして、帰路についた。

 


 

「で?何があったの?」

万事屋のソファに座って、改めて聞いてみる。

「別に…。」

「誤魔化すのなし。ついでに隠すのもなし。言って、土方。」

「………。」

「あ〜あ、俺誕生日なんだけどな〜。こんな気分のまま終わるのはイヤだなあ〜。」

「〜〜〜〜、別に、大したことじゃない。」

「大したことじゃないんなら、言えんだろ。」

「〜〜〜やっぱり、大したことだった。」

「じゃあ、言って。二人で解決しなきゃね。」

「…結局言わせるんじゃねえか。」

「当然でしょうが。」

絶対に引かない姿勢を見せれば、諦めたように溜息をついた。

「本当に大したことじゃない。……お前楽しそうだったから。手つないだり、腕組んだり。肩抱いたり…。『あーん』ってしたり。そんなことが楽しそうだったから…。

本当は…俺じゃなくて…女と付き合う方がいいんじゃねーか…って。」

「………そんなこと考えてたの?」

「悪かったな、『そんなこと』で。」

「本当だよ。馬鹿だなあ、土方は。」

そういって俺は土方の、今日はやたらと頼りなげな細い肩を抱きしめた。

「俺は土方といちゃいちゃしたいの。けど、まあ。そりゃあ、普段はそういうわけにはいかねえだろ。だからいちゃつくのは人目の無い時って決めてるけど…。

だからって、土方じゃない女といちゃつきたいわけじゃねえんだよ。

俺はね。本音を言えば土方が女だって男だって別にどっちでもいいんだ。

それが『土方十四郎』って人間であるなら、どっちだってね。

けどまあ、たまに人目を気にせずいちゃつけりゃあ、そりゃそれも楽しいかなって思っただけだし。

…土方は?腕組んで歩いたり、顔くっつけて話したり…。普段できないことできて楽しくなかった?」

「…楽しいっつーか、…まあ、面白かった…、かな。」

「土方美人だから、いっぱいサービスしてもらったしね。」

「…お、女の方がいいか?」

「ん〜、男の方が…いい、かな。」

「何で。」

「今日街中で何人の男がお前を振り返って行ったと思うんだよ。あれが日常になったら、銀さん心配で昼寝もおちおちしてられないよ。もう、それこそ、ゴリラ並にあと付いて回るよ!

 男の姿なら、女の子の視線はいっぱい集まるだろうけど。一部邪に見る男もいっけど。そのくらいなら、まあ…。」

許容範囲内、かな。

そうつぶやくと少し呆れたように首をすくめる。

本当は許容範囲なんかじゃない。

至極ムカつくけど、でもそれすら我慢できないようになったら。俺は土方を束縛してしまうだろう。

だれの目にも触れないように。誰とも会えないように。

それこそ、神楽や新八がなつくのだって許せなくなってしまうかもしれない。

けど、そうやって束縛して閉じ込めて。ひっそり暮らす土方は、俺の好きな土方だろうか?

姿かたちだけの問題なら、俺はたぶん土方を好きにはならなかった。

幕府なんかどうでもいいと思ってるくせに、組の存続のために仕事熱心なとことか。

どうでもいいことは必死で隠してるつもりのくせに、ダダ漏れだったりとか。

肝心かなめのことは隠し通そうとするくせに、でもやっぱりダダ漏れだったりとか。

絶対に弱音を吐かない。他人のせいにしない。組のすべてを自分でかぶるつもりのところとか。

そして、まっすぐに、俺を見る目とか。

数え上げたらきりがない。

表面よりもたぶんその内側にホレてしまったから。

「万事屋…?」

考え込んでしまった俺をきょとんと見返してくる。

ああ、かわいい。

さらに力を込めて抱き締めれば、すっぽりと腕の中に納まる身体。

「ま。サプライズだと思えば、こんなんもアリじゃね?」

「仕方ねえな。お前の誕生日じゃ。」

珍しく素直な言葉に、気分を良くして唇を寄せる。

甘いキスを堪能すれば、苦しそうに土方があえぐ。…そんなにしつこくはしてないつもりだけど…?

「…酔った?」

「かもしんねえ。…帯が、きつい。」

おお、なんだ積極的に土方が誘ってる!!

手早く土方の帯を解き、着物を緩めていく。

………あれ?

「お?」

土方が自分の体を見て目を見張る。

「戻ったか。」

「えええええっ!!!?」

「うるせえよ。」

「めったにないのに、女の子の土方なんて!ここか!ここで戻るか!何で今!?」

「仕方ねえだろうが。」

喚く俺にうるさそうに眉をひそめる。

「………てめえ、やっぱり、女の方が…。」

「違うって!!俺だって男だから良く分からねえけど、女ってセックスの時はそりゃあイイらしいんだぜ。せっかくだから、そういう体験を土方にさせてやりたかったのに!」

なんだあ、そりゃあ?と呆れる土方。

「けど、ま、いっか。土方は男の体だって十分敏感だしね。」

「てめっ。」

「照れない照れない。」

「照れてねーっ!……ちょ、てめ、どこ触って…。」

「土方のイイトコロですう。」

「あ、…ばかっ、ヤメ…。」

「やめませんよー、銀さんスイッチ入っちゃったからね。」

「おい、」

「俺、誕生日なんだけど?」

「う。」

365日のうち、今日しか使えない伝家の宝刀を突き付ければ、なんだかんだいったって優しい土方は仕方ないなとおとなしくなる。

 


「では、いただきます。」

 

 


 

 

 

20080926UP

END

 


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リクエストをくださった恵美様、こんな感じになりましたけど、いかがでしたでしょうか?
特に誕生日と絡めて…という指示はなかったのですが、勝手に誕生日に絡めてしまいました。ほんの少しだけですが…。

気に入っていただけましたらどうぞお持ち帰りください。
いつもの通り、背景のお持ち帰りはNG。
文章自体を変えなければ、文字色字体などはどうぞ御好きにお楽しみください。
そしてもしもどこかで公開なさる場合は隅っこの方にでも当サイト名と月子の名前を書いておいてください。
楽しいリクエストありがとうございました。これからもよろしくお願いします。
(20081001:月子)