僕の明るい家族計画

 


「金がねえなあ〜〜〜」

見上げる青空は、どこまでも高く澄んでいる。

さらに言うなら、俺の財布も。どこまでも高く飛んで行けそうだ。

そういえば、この前まで使われていたEDの曲。

フライング、フライング、高く高く………。って、あれ。俺の懐具合を唄った曲だったんだろうか…?

そんなくだらないことを、ぼおっと考えていたら…。

「銀ちゃ〜〜〜〜〜ん!!」

神楽の声が聞こえる。

「銀ちゃ〜〜〜〜ん、やったアル。財布ゲットしたアル!!」

「何!?でかした、神楽………あれ?」

向こうの方から、破壊的なパワーを持って走ってくる神楽。

神楽に置いて行かれないようにと、必死についてくる新八。

その後ろからは定春がついてきていて…。

その背中には……。

「あれ、多串くん。」

「多串じゃねえ〜〜〜、この、クソ天パ!!!てめえ、ガキにどんな教育してやがる!!!」

叫ぶなり、何かがものすごい勢いで飛んできてアッパーを食らう。

「がほっ。……何、……ってマヨライター??何てもの投げやがるんだ!!」

「うるせえよ!それより手前、久々のオフだってのに!!」

「ああ?そういえば何だって定春の背中なんかに乗ってんだよ?」

「だから手前んとこのチャイナに無理やり乗せられたんだよ!」

「銀ちゃん。お財布、ゲットしたアル。」

得意げに胸を張る神楽。

「す、すみません。止めようとはしたんですが…一応。あ、あの、土方さんもすみません。ほら、定春。土方さんを降ろして………って、(うわあ)。」

カプリと定春に頭を咥えられる。

「おい、放してやれ。」

「アン。」

呆れたように土方がいい、『ハイ』とばかりに定春が口をあける。

「ええ?何?定春、多串くんのいうこときいた?俺の言うこときいたことねえのに。」

「人徳だろう。ほら、降ろせ。」

「アン。」

『伏せ』の体制になって土方が降りやすいようにする。

唖然と見ている俺の隣で、神楽が当然とばかりにうなずいた。

「定春だってばかじゃないネ。誰がお金を持ってるのか知ってるアル。」

「………神楽、お前ね。」

「もう、ずっと酢昆布しか食べてないアル。」

「ぐ。」

「仕事の依頼もさっぱりネ。」

「う。」

「そしたら目の前にお財布が歩いていたネ。」

「……でかした、神楽。」

「拉致を認めてんじゃねえ!ライター返せ!」

「そっちがぶつけてきたのに、なんでそんなに偉そうなんだよ!」

「メシ、食いたくないのか?」

「え、奢ってくれんの?ハイ、ライター。」

「変わり身早ええな。」

「あ、あの、土方さん。良いんですか?神楽ちゃんすっごく食べますけど。」

「構わねえよ。ただし、場所は屯所だからな。」

「何であんなところ!」

「その前にスーパーだな。何食いたいんだ?」

「お財布が作ってくれるアルか?」

「その呼び方を改めろ。食わせねえぞ。」

「じゃ、トッシー。」

「………それも、微妙だな。」

「じゃ、汚職警官。」

「てめえの口は普通に名前を呼べねえのか?」

「じゃあ、お母さん。」

「はあ?」

「ご飯を作ってくれる人は、お母さんアル。」

「………、お前のこだわりはよくわからないが…。とりあえず俺は女じゃない。」

「そんなこと知ってるアル。胸がペッタンコネ。」

ぺたぺたと土方の胸を着物の上から触っている。

「もう、神楽ちゃん。失礼でしょうが。普通に『土方さん』でいいじゃないか。」

「これだから新八は新八アル。そんな普通じゃ、意味ないアル。」

「や、なんだよ、意味ないって!」

なんだよ?これは。

真選組の鬼副長とは、寄ると触ると喧嘩ばっかりで。

言い合いから殴り合いから斬り合いまで、数々の衝突を繰り返してきたっていうのに…。何で子供らには優しいんだ?

変な名前で呼ばれても、胸なでられてもしがみつかれても、拉致られても。しょうがねえなという顔で笑ってる。

しかもなんだ?腹が減った子供たちのために飯を作ってくれるってか?

「おい…。」

「ただし、メシを食わせてやる代わりに1つ手伝ってほしいことがある。」

ああ、そういうことか。つまり報酬ってことだな。

「いいけど、なんだよ?」

「とにかく話はスーパーへ行ってからだ。」

そう言われて俺たちは、大江戸スーパーへ連れ立ってやってきた。

「「「………。」」」

「お1人様2本までだからな。」

「お、俺たちにあれを持てと…?」

「メシ、食いたいんだろう?」

「食いたいけどよ…、それこそてめえん所の隊士たち使えばいいだろうが!!人海戦術なんか得意中の得意だろ!」

「みんな仕事中に決まってんだろ。それに、あいつらに頼んだらお前ら食事にありつけねえぜ。…いいのか?」

「「「………。」」」

俺たちの目の前には、でっかく『業務用』と書かれたマヨネーズがあった。よく見る家庭用サイズの2倍以上はあるだろうか?

あれを一人2本ずつ!?

「仕方ないネ銀ちゃん。背に腹は代えられないネ。」

「そうですよ。仕事だと割り切ればいいんですよ。」

「…しかし、人には譲れねえもんってのがあるだろうが。」

「………、てめえら。そんなに大げさなことかよ!ただマヨネーズの買いだめするだけじゃねえか。てめえらにマヨネーズかけて食えとは言ってねえ!!」

「ああもう、はいはい。しゃーねーな。ほら神楽持て。新八も。」

「銀ちゃんも持つネ。ハイマヨラの分。」

「メガネ、カート持ってこい。3台な。」

「はいいい?3台?」

「てめえらの食糧も買うんだろ?買わなくていいのか?」

「は、ハイ!」

「マヨネーズの恨みアルヨ、私たっくさん食べるアル!」

ハイテンションで土方に抱きつく神楽。その髪をワシワシとかき混ぜながら土方が笑う。

「おお、上等だ、腹いっぱい食え。何が食いたい?」

「私、卵かけごはん!」

「…おい。」

「ふりかけご飯も好きアル!」

「…お前…。」

土方の目が、『子供にちゃんと食わせてないのか』という非難を込めてこっちを見る。

「や、そいつがごはん好きなだけだからね。そりゃ、何にもなくてごはんオンリーになる日だってあるけど。ちゃんとおかずが付く日だってあるんだからね!」

「カート持ってきました。」

「メガネは?何食べたい?」

「ええと、出し巻き卵!」

「………てめえら嗜好が質素だな。」

「いやあ、姉上が作るとダークマターになるんで…。普通の黄色いおいしい卵が食べたくなるんですよね、アハハ。」

はあ、とため息をつきつつ卵を5パックカートに乗せる。

…何だかんだ言ったって、リクエスト聞いてやるんだ…。

「てめえは。」

「へ?俺?」

「何が食いたいんだ。」

「チョコレートパフェ。」

「それはメシじゃねえ。」

「俺的には主食にしたい。」

「うるせえ糖尿病。」

「まだ『病』じゃありません〜。予備軍なだけです〜。」

「それを自慢げに言える理由が分からねえよ。」

「いちご牛乳も好きだ。」

「…嫌いなものはねえな、適当に作るぞ。」

そういいつつもカートの中にはピンクの紙パックを入れてくれる。

あれなんだよ?

なんか今日はやけに寛大じゃねえ?

いつもならいちいち突っかかってくるのに。…まあ、それが面白くてつつくんだけどさ。

それから、子供らが、シチューだの、ハンバーグだの、酢豚だの、海老フライ、天ぷら、スパゲッティ、餃子……etc. etc.………。好き勝手言うのに頷きながら、何種類もの野菜をかごに放り込み、他にも肉やら魚やら、調味料類やらをがっつりと買い込み。

こんなんいっぱいになるわけはないと思っていた3台のカートはあっという間に食糧で山盛りいっぱいになった。

会計を終えて(あえて金額は聞かなかった)、大量のレジ袋をそれぞれが持ち。定春にもくくりつけ。屯所へと向かった。

「少し待ってろよ。」

そう言われて、大きなテーブルについて待つが、自分の家なわけじゃないので寛げるはずもない。

すぐに手持ち無沙汰となった子供らは、『手伝う』と土方にまとわりついた

俺はそんな気はなかったんでぼーっとテーブルに頬杖ついて、3人の背中を見ていたのだが。

『万事屋』と呼ばれる。

「んだよ?」

「そっちの奥の棚を開けろ。」

「はあ?何だ…よ……って、酒!」

「冷凍の枝豆買ってあるから、勝手に解凍して食ってろ。」

「やっほう!」

とたんにテンションあがる自分を現金だと思うが、これ、結構いい酒だぞ。

でかい炊飯器2台がフル稼働を始めるのを見て、どうして万事屋ではなく屯所の食堂を選んだのか理解し。

中庭で、すでに大袋のドッグフード2袋を完食している定春は昼寝中。

何だよ?このまったりとした心地いい空気は。

飲みながら待っていると。メシが炊きあがり、料理も出来上がり、いい香りが漂い始める。

「ほら、食え。」

とたんに、3人の箸が動き出す。

シチューもあった、出し巻き卵もあった。神楽の前には山盛りの生卵。たっぷりのごはんに、先ほどリクエストされたたくさんの料理が並んでいる。

「あ、肉じゃが…。」

ガキの頃、俺の面倒を見てくれていた先生は、基本的に何でも人並み以上に出来る人だったが料理だけはだめだった。

だから自然と俺が料理が作れるようになったのだけど。

そんな先生が唯一まともに作れた料理が肉じゃがだった。もっと簡単に作れる料理が失敗するのに、なぜ肉じゃがだけは上手かったのかは今でも謎だ。

甘党の俺に合わせて、砂糖が多めの肉じゃが。それが目の前にあった。

「独身男を落とすには肉じゃがが一番ネ。」

じーっと肉じゃがを見ていた俺に気づいたのか、神楽がしたり顔で言う。

「「「は?」」」

「マミーが言ってたアル。肉じゃがはオフクロの味ネ。それで、男を落とすアル。」

しょうもねえこと言ってんじゃねえよ。と土方が神楽を軽く小突く。

でも土方さん、おいしいですよ。料理うまいんですね。と新八も出し巻き卵にかぶりついている。

あれ、あれ、なんかいいんじゃね?

いい雰囲気なんじゃね?

子どもたちは 懐いているし、料理は上手い。肉じゃがもうまい。

それに今日だって、本当ならマヨネーズの買い出しなんか部下を使おうと思えばできたはず。それをわざわざ俺たちに振って、『報酬』としてこうして飯を食わせてくれたのは。たぶん俺たちが気兼ねせず食えるようにってことで…。(神楽は気兼ねなんかしやしないだろうが)

それによく見ればやたら整った顔してるし、ってか何気に俺のストライクゾーン?

子どもたちだけじゃなく、俺にも気を配ってくれるし。

元気に食べる子供たちを目を細めてみている姿は、いつものトゲトゲした副長さんとはまた違ってなんか良い。

そんなことをつらつらと考えていた俺は、じーっと土方を凝視していたらしい。

「何だよ?」

首を傾げて聞いてくるその表情が、かわいく見えて、心臓がバクバク言い始めた。

「や、あのね。」

「ん?」

「多串くん。」

「多串じゃ、ねえ。」

「多串くん。俺と結婚して下さい。」

「だから、多串じゃねえっていってんだろーがーー!!」

 

 

「………突っ込むところはそこですか?土方さん。」

「………あれ?」

 

 

 

 

20080929UP

END

 



お題に沿えているでしょうか?
嫉妬するというよりも、仲の良い3人(+定春)に銀さんがちょっと拗ねると多串くんが気にかけてくれるんで。
アレ?アレ?なんかいつもと違くね?…みたいな感じで、戸惑っているうちに『肉じゃが』で落とされてしまった銀さんです。
万事屋+土方が家族みたいなのがお好き…ということで、そちらの方で何とかご期待に沿えているといいのですが…。
ポロ様、気に入っていただけたならどうぞお持ち帰りください。
いつもの通り、背景のお持ち帰りはNG。
文自体を変えなければ、文字色字体等どうぞ御好きにお楽しみください。
もしもどこかに掲載してくださるという場合は、隅っこの方にでも当サイト名と月子の名前を隅っこにでも書いておいてください。
リクエストありがとうございました。
(20081001UP 月子)