その距離をゼロにする方法 後編

 

コンビニの駐車場に車を停めた。

俺のそっくりサンは目立つからといわれて羽織っている白い着物を脱いだ。

「木刀も置いていくか…。」

「………。」

大人土方が迷うように自分の刀を見つめている。

「…持っていく?」

「…いや、少しの間なら…大丈夫だ。」

「そうだよね。風呂に入ってる間は離れてんだし。」

「…どうかした?」

「や、これ本物の妖刀でさ。手放そうとしてもだめなんだよね。」

「よ、妖刀だったんですか!?」

「まあ、今は特に害はない。」

そういって大人土方は足元に刀を置くと車のドアを開けた。

それを合図のように俺達も車を出る。

コンビニの中で飲み物やら菓子やらを数種類買って、いざ会計となったときに土方が『あ、そうだ』と俺を見た。

「こっちとあっちのお金。違いますよ?」

「…そうなのか?」

「通貨の単位は一緒ですけど、デザインが…。」

大人土方が懐から財布を出し、中の札や小銭をいくつか出す。

「………そういや、そうだったな。」

色や大きさはほぼ一緒なのだが、書いてある図柄が違う。

「………ってことは…。」

「いやいや、悪いね〜〜。ゴチになります〜〜〜。」

「でええええ、俺!?」

「あ、あの、俺も少し出します。」

「イヤイヤイヤ。」

まさか学生に出させるわけにはいかないだろう。一応こちとら社会人なんだし?

多めに持ってきて余裕があるから、出すこと自体はまあ良い。…けど何だよ?この釈然としない感じ…。

いっぱいになったレジ袋を提げて、土方とそっくりサンが何やら楽しげに話しながらコンビニを出ていく。

仕方なく財布から金を出す俺に、大人土方が『悪いな』と声をかけてきた。

「あ〜〜いや…。」

「…金が違うことを失念してた…。」

「まあ、不可抗力っつーか…。」

「………けど…。クスクス、万事屋と同じ顔の奴に奢ってもらうたあ…なんか変な感じだな…。」

小さく笑いながら言う大人土方。

やあ、美人だなあ。土方も数年たったらこんな風になるんだろうか?

「万事屋…って、あいつのことか。」

「ま、何でも屋ってとこだな。ダラダラ暮らしてていつも金がないってぼやいてる。働かなきゃ金は手に入らねえ。当たり前だっつーのにな。」

「ふうん。」

「こうしてみると、お前の方は一応教師っていう定職についてる訳だし…あいつよりはまともなのかな…?」

「……なんかものすごく底辺で比べられてた気がすんだけど…。」

店員から受け取った釣銭を財布にしまいつつ溜息をつく。

「…気のせいだろ…。で、奢りついでにアレも奢れ。」

何で奢ってもらう方がこんなに偉そうなんだろう?そう思いつつ大人土方の指さす方を見ればタバコの自販機。

「ああ、はいはいはい。どれ?…って銘柄同じ?」

「ん〜〜〜〜、これが近い感じがする。」

「それ、結構強いよ?」

「望むところだ。」

「へえ、結構吸うんだ?」

「まあな。…ってお前も吸うのか?」

「ああ、…って、あいつは吸わねえの?」

「吸ったことくらいはあるらしいがな。…ただ単に金がないからだけなのかもしれねえけど。」

「………そんなに金ねえの…?」

「まあ、一人暮らしでもないしな。」

「ああ、神楽のそっくりサンだっけ?あと志村弟のそっくりサンね。」

「あいつにとっちゃ、トシヤ……ああ、便宜上違う名前で呼んでたんだが…。あいつも同列だろ。」

「そんなもんかね?」

「土方属性は坂田属性を見捨てられねえようにできてんだ。だから、いちいちぐらつくな。」

ニヤリと笑う大人土方。何だよ?坂田属性って…。

溜息で返して自販機でしか使いようのないカードを出す。

「何だ?それ。」

「煙草の自販機で使うんだよ。未成年がたばこ買えねえように。」

「ふうん?効果あるのか?」

「ねえな。」

そんなことを話しながら、大人土方は出てきたタバコに早速火をつける。

「え、何?それ、マヨネーズ型ライター?ちょ、見せて。」

 

 


 

「………何やってんだよ?あの二人。」

「…ああ、たばこ買ってるみたいですよ?」

「あ、くそ。くっつきすぎだろ。」

先に車に戻った俺ら。けど、あのダメ教師が戻らないと中には入れない。

自販機の前で、マヨライターを眺めながら二人で何やら楽しそうに話をしている。

「それにしてもお宅らもようやく初デートにこぎつけたわけね。」

「そんなんじゃないですよ。俺、そっちの世界から戻ってみたらやっぱり交通事故にあってて、病院のベッドの上だったんです。入院で休んでる間の補習とか、追試とか…そんなんがようやく終わったから誘ってくれたみたいで…。頑張ったご褒美だから…って。」

「だから、デートだろうが。」

「〜〜〜〜違います…って。」

「デートなんだよ。恋人同士が一緒にお出かけすればデート。」

「そんなことより、そっちこそデートなんでしょ?」

「まあな〜〜。今日は銀さんの誕生日だしなあ。多串くんにはきっちり有給取ってもらったしね。こっちに来ちゃってかえって良かったかも。ここなら携帯鳴らしてもつながりそうもねえし。」

「………え?誕生日?」

「そう、俺の誕生日10月10日。こっちは今日、何日?」

「………10月、11日。」

「じゃあ、きのうが誕生日だったわけだ。…あいつの誕生日が一緒なら…。」

「昨日…って、だって昨日は何にも…。普通に学校があって、俺は昨日まで追試で…。」

「いいじゃん、何?今日は土曜日なわけ?んで休みなんでしょ?何も当日に必ずしなくったってさ、休みの日にゆっくりドライブできればそれだって立派にお祝いでしょ?」

「…けど、俺何にも知らなくて…何も用意してない。」

「坂田属性は『土方十四郎』と一緒にいられることが一番のプレゼントなんですう〜。けどまあ、そんなに気になるんなら、これから一緒に選べばいいじゃん。」

「え?」

「ね?」

「………ハイ。」

その手があったか…とうなずく学生の多串くん。

相変わらず素直でかわいい。

以前万事屋にいたころよりも、ずっと落ち着いて余裕が出てきたように見える。

多分あのダメ教師が、ちゃんと大切にしてんだろうな。

俺の土方だってさ、なんだかこの頃眩しいくらいに綺麗になっちゃってさ。や、前から綺麗だったけどもっと綺麗になっちゃってさ。

本当、正視できないくらいに綺麗なんだよ。

それがさ、たとえば、俺と一緒にいる時間が増えたからだとか…そんなんが理由だったらいいなあと思うんだ。

 


 

それから再び車に乗りこんで、当初の予定通り海へとやってきた。

だいぶ涼しくなってきたからだろうか、浜辺には数えるほどしか人もおらずに静かだ。

ここは互いに邪魔するべきじゃないと、二人ずつに分かれて砂浜を歩く。

大人土方とそっくりサンは少し離れた岩場の上で二人で並んで座っている。

俺はというと、多串くんと並んで波打ち際をのんびりと歩く。

「先生。」

「ん〜。」

「昨日、誕生日だったんですか?」

「え?何で知ってんの?驚かせようと思ってたのに。」

「銀さんが…誕生日一緒で…。」

「あああ、そう。」

だから、何であいつが『銀さん』で俺が『先生』?そりゃ、俺先生だけど!

「あの、誕生日のプレゼント…何も用意してなくて…。その、帰りに何か…。」

「プレゼント?…ああ、いいよ。こうやって多串くんとデートできて嬉しいし。」

「けど…。」

「ん〜〜〜じゃあ…。手、繋ごうか。」

「え?」

「手、繋いで歩こう。大丈夫だって、誰も見てないから。」

慌ててあたりに視線を走らす土方。俺の言う通り近くに誰もいないのが分かると、真っ赤な顔でおずおずと手を伸ばしてきた。

つられて俺もドキドキする。

…ったくどこの中2だよ。手を握るだけでこんなにドキドキするなんて…。

そっと触れた手を、そのまま握りこむ。

「………こんなんで…いいんですか?」

「すっげえ嬉しい。」

そういって笑うと、土方もにこりと笑った。

そして、真っ赤な頬をさらに赤く染めあげながら、そっと顔が近付いてきた。

 


 

「なあな、俺達ちゃんと帰れるのかな?」

「さあなあ。」

どうでも良さ気に答えながら『けど』と眉間にしわを寄せた。

「警察が動いてるかどうか…だなあ。」

「ああ、駅でのこと?」

「無線傍受でもできれば状況がわかるんだけどな…。…まあ、こんな離れてるとは思ってないかもしれんが…。」

「何とか逃げ切れる自信はあるけど?」

「ただ、逃げりゃあいいんなら俺だって自信あるぞ。」

「へ?それだけじゃ、ダメなの?」

「俺やお前の容姿がきちんと判明すれば、トシヤや坂田に迷惑がかかるだろ。ここはあいつらの世界だ。あいつらはずっとここで生活していかなきゃならねえんだから。」

「そっくりサンだもんね。」

何でおれのことはかたくなに『万事屋』って呼ぶくせにあいつは『坂田』なんだ?

会ったばかりだってのに、馴染みすぎだろうが。

不満げな俺の気分がわかったのか、こちらを窺うように見る。

「…俺はトシヤの無事を確認できて嬉しかったんだが…。」

「そりゃあ、俺だってね。消え方が消え方だったからさ、無事だったかな?とは思ってたけど。」

「…じゃ、何が不満なんだ?」

「お前、アレじゃん?あいつと馴染みすぎ。」

「?坂田か?」

「そうだよ!何で坂田とか呼んでんだよ!俺のことはいまだに『万事屋』なのに!」

「………。まあ、なんつーか。…お前とも出会い方が違ったらこうなったかな…とか思ったから…。」

「こうなる…って?」

「気の合うダチ?」

「………。」

じゃ、何か。俺が高杉を『高杉』、坂本を『坂本』って呼ぶのと同じ感覚で呼んでるってことか?

「うう。」

悔しいんだけど!すっげえ悔しいんだけど…、けど、友人と思ってるから苗字を呼べるっていうんなら、『万事屋』の方がいいのか?

それって、俺だけの呼び方っていうか…。土方の愛情がある故の屋号呼び…ってことなのか?

あれ……そうだよね?あるんだよね?愛情?

「そういや、誕生日だったな。飯でもおごるつもりだったんだが…。何か欲しいものあるか?」

「ああ、うん。そうだなあ………、じゃあさ。チュウして。」

「は?」

「多串くんからチュウして欲しい。」

「〜〜〜〜てめえ。」

土方の頬が真っ赤に色づく。

みるみるうちに赤くなる肌を、綺麗だなあなんて眺めているうちに、土方の顔がゆっくりと近づいてきた。

 

 


 

土方からしてくれる初めてのキス。

唇が触れた瞬間に、何か遠くで異変が起きたのがわかる。

空気が動いたというか、空間がねじ曲がったというか…。

真赤になって目をつむる土方には気づかれないようにそっと目を開けると、遠くに見える岩場の上にいた二人が消えていた。

 


 

土方からしてくれる初めてのキス。

唇が触れた瞬間に、ぐらりと何かが動いたのがわかる。

俺たちの周りの空気というか、空間がねじ曲がったというか…。

頬を染めて目をつむる土方には気づかれないようにそっと目を開けると、俺たちの周りの様子が違っていた。

俺たちの周りを囲むのは、すっかり馴染んだ俺たちの世界。

 

 

 


 

 

 

20081010UP

END

 

 


「隣同士の距離」のその後。3Zバージョンでした。
本当は、ちゃんと(?)警察が追いかけてきて。で、逃げながら海へ向かう。
その間に、土方同士とか銀さん同士とか、いろんな組み合わせで言葉を交わし、相手のことや自分の気持ちを再確認する…みたいなロードムービー風にしたかったんですが。
力不足でした…。
リクエストをくださった「M.S」様。
こんなお話ですが気に入ってくださったならどうぞお持ち帰りください。
いつもの通り、背景のお持ち帰りはNG。文自体を変えなければその他はいい感じでお楽しみください。
素敵なリクエストありがとうございました。
(20081011UP 月子)