誕生日にもらったものは? 後編
「ただいまヨ〜。」
「ただいま、銀さん。」
「おい、いねえのか?」
しばらくして3人が返ってきた。
「ん〜〜〜、おう。お帰り。」
半分寝ぼけた声で返すと、あ〜銀ちゃん寝てたアルナ〜。と飛びついてきた神楽の後ろで、土方が微妙に赤くなっている。
…何だ?
「はい、銀さん。」
デンとテーブルの上に置かれた白い箱は…まぎれもなく。
「ケーキ!?」
「フクチョーが買ってくれたアル。」
「え、多串くんが…?」
「ケーキの上の文字。僕たちが書かせてもらったんですよ。」
新八が大きめのホールのケーキを箱から出す。
普通ならその上に文字の書かれたチョコレートのプレートがあるのだが。
『銀さん』(←ちょっとよわよわしい細い線で)
『たんじょうび』(←『じ』は完全裏返し、『ょ』は逆回転で)
『おめでとう』(←お手本のようなきれいな字で)
と、チョコレート色の文字がケーキいっぱいに書かれていた。
「お前ら…。」
「今すぐ食いてえだろうが、もう少し待ってろよ。これから晩飯作るから。」
「え、もう、晩飯の準備?」
「今夜は、銀ちゃんのお誕生日パーティーネ!!」
「え…。」
「土方さんがご馳走作ってくださるそうですよ。」
「材料、たくさん買ってきたネ!」
3人の後ろ、廊下に置いてある大量のスーパーの袋。驚いて、でもとっても嬉しくて。
感無量だった俺は、そのあと土方が荷物がどうとか言っている言葉を聞き逃していた。
いつもより時間をかけて作られた、手の込んだ料理がテーブルの上に所狭しと並べられた。
「…あれ、この食器…。」
俺の記憶に間違いがなければ、今日買い込んだ食器だった。
「これ、私のごはん茶碗ネ。」
ピンクとオレンジの中間くらいの色は確かにかわいいけれど。多分、夏場とかにそうめんを大量に盛り付けるような…そんな大きな器。
「僕のは、これです。」
白地に紺で模様の書かれたシンプルな茶碗。
「俺のがこれで、お前のがこれな。」
「………。」
青い地に白い魚が何匹か描かれている茶碗。そのうちの1匹だけが色違いという、お揃いの茶碗。
「で、お箸がこれです。」
「お椀はこれネ。」
子供らが先を争うように食器を指差す。
今まで家で使っていた食器は、元は揃いだったのに数が欠けたものなどを、下の飲み屋からもらったお古だった。
別に不便はなかったけど、『どれが誰の』と決めて使ってはいなかった。
なんと言ったら良いか分からず、言葉を探しあぐねていると玄関の戸が叩かれた。
「万事屋さ〜ん、お荷物です。遅くなりました〜。」
「あ、来たアル!」
「良かったですね。間に合って。」
「え、何?」
訳も分からず、3人について玄関へ行く。
すると、今日買ったふとんやら、タンスやら…。大きくて持てなかったものが運び込まれていた。
「え、何?これ、屯所へ運ぶんじゃねえの?」
「はあ?あそこにはもうあるだろうが。」
「銀ちゃん、大ボケネ。」
「そうですよ。一人増えるんですから。」
「へ?」
「フクチョー、やっとお嫁に来てくれることになったアル。」
「嫁じゃ、ねえよ。」
「えええ!?」
「改めていろいろ揃えるとなると、結構な物要りだったな。どうせならと思って鍋や調理器具まで買い足したらかさばるかさばる。」
少し照れくさそうに笑う土方を抱きしめようと手を伸ばしたら、一瞬早く神楽が土方に抱きつく。
「フクチョー!また公園にお迎えに来てくれるアルか?オムライス作ってくれるアルか?」
「ああ、いいぜ。」
神楽の頭を優しくなぜる土方。その様子もほほえましいけど…。
「ちょ、神楽どけよ。」
「駄目アル。フクチョーにプロポーズしたの私ネ。」
「は?」
「銀ちゃんの所にお嫁さんに来てって頼んだのは私アル。だからフクチョーは私の物アル。」
「銀さんが愚図愚図してるから神楽ちゃんに先越されるんですよ。」
や、何だよ?いつの間にそんな話になってんだよ?
唖然と土方を見ると、今日ずっと見せてくれていた穏やかな表情で…。
ああ、これは嬉しい顔なんだ。って分かった。
嬉しくて、照れくさい顔。んで、幸せな顔。
「ああ、ご飯が冷めるアル!」
「大変だ!」
子どもらが居間へと戻る。
「多串くん…。」
「屯所へ泊まりこむことになる日も多いだろうし、どれくらいこっちへ、か、帰ってこれるか分からねえけど…。」
そうか、さっき帰ってきたときに赤くなってたのは、俺が『お帰り』って声をかけたからか…。
「うん、ありがとう。嬉しいよ。」
チュッとキスをすると、居間から神楽の声がする。
「早くしろよコラ!」
「おう、今行く。」
居間へ戻って、改めて『誕生日おめでとう』とみんなで乾杯して。
たくさん食べて、たくさん笑って。ちょっと食べ物取り合って。
五臓六腑にしみわたる甘いケーキの味と、幸せをかみしめた。
「………あの〜もしもし?」
「ああ?何だよ。」
「これは…。」
「何だよ?なにか文句あっか?」
や、あるよ、大ありだよ!!!!
全員たらふく食べて。後片付けをして、風呂に入って。
あれ、なんか今日新八帰るの遅いな…。ってか、今夜も神楽連れて行ってもらうようだな…。とか思っていたら。
3人は奥の和室にいそいそと布団を敷き始めた。
俺の布団と神楽の布団と今日買ったばかりの多串くんの布団と、3組をくっつけて敷く。
「結構広さあったな。」
「これなら全然余裕ですね。」
うんうんと頷き合う3人。
「何だよ?これ、何でこんな敷き方…。」
「今日はここでみんなで寝るアル。」
「はあ?」
「川の字ってやつ?4本だけど。」
「銀ちゃんも寝るアル。」
神楽に引っ張られて布団にダイブ。
うお、と思っているうちにみんなも布団にもぐりこんでくる。
俺の両隣りに新八と神楽。で、神楽の向こうに土方。
『お休み』を言い合って程無くして部屋は静かな寝息で包まれる。
土方がお嫁に来たってことは今夜はいわゆる新婚初夜ってやつだ。
普通新婚初夜と言えば、甘くまったりする大人の夜になるはずだろう。
なのに、何だよ。しかもこの順番、隣ですら寝れないのかよ?
すっかり主導権を子どもらに奪われてしまった俺は。
割り切れない思いにもんもんとしながら、目を閉じた。
それでも自分でも分かっていた。
俺には家族ができたのだ。
食事のときに決まって座る席があって、決められた箸に茶碗。
使い勝手を考えて整えられる台所。
自分のものだけではない、布団に家具。
『ただいま』と言えば『お帰り』と迎えてくれる人がいて。
『お帰り』と迎えてあげたい人が返ってくる場所。
とにかく守らなければと思っていた子供らだけではなくて。
俺を幸せにしてくれようとする手がある。
「……眠れねえのか…?」
俺の気配に気づいたのか、土方のひそめた声がする。
「ちょっと興奮して、幸せすぎて眠れねえかも。」
「……バカ。」
小さく笑う気配がして。土方は静かに体を起こした。
なので俺も起きる。
「たぶんお前のことだから、…初夜…なのに…とか考えてんだろうけど…。」
「あれ、良く分かったね。」
「ち、やっぱりか。」
新妻のはずなのに、舌打ちとかしやがりましたよ、この子。
「今夜は二人きりで過ごすより、みんな一緒の方がふさわしいと思ったんだ。」
「ん?」
「俺がこの家に来たって、お前と二人暮らしをするわけじゃない。チャイナがいて、メガネが通う。そういう『万事屋』に俺は…。」
「嫁いできたってわけね。」
「ち、だから。」
「うん、わかってる。」
これから土方は、ここから屯所へ『行って』、屯所からここへ『帰って』来るのだ。
ここの住人になるのだ。
全員一緒に寝るのは、そのための儀式のようなもの。
「ね、そろそろ名前呼んでくれてもいいんじゃない?」
「………ち。」
暗くて実際には見えないけれど、土方が真っ赤になってるだろうことは分かった。
「……くそ、手前こそ、俺を名前で呼んでみろよ。誰だよ、多串って…。」
「十四郎。」
「っ。」
「十四郎?どうしたの?」
「〜〜〜手前。」
俺があっさり呼んだのが悔しいのだろうし、照れくさいのだろう。
少しためらうような気配がして。
「銀時。」
「………、ああ、本当だ。テレくさいね。」
「ち、手前が呼べっつったんだろうがよ。」
「うん。嬉しい。」
「……ああ、クソ。」
神楽越しのまま、土方の方へ顔を寄せれば、土方もこちらへ上体を近づけてくる。
「ん〜。」
もう少しで触れ合う、という時。
「…ん、フクチョー?」
「う、お、ああ。」
「もう、寝るアル。」
「うお。」
神楽にグイと布団に戻されて、土方が横になってしまった。
ああああ、後ちょっとだったのに。
なんだか、いやな予感がする。
俺、これからも日常的にこうやって子供らに邪魔され続けるんじゃないだろうか…?
20081023UP
END
軽〜い気持ちで『フクチョーと遊ぼう』シリーズで書こうと思い立ったものの。
どうせならちゃんとこのシリーズで書く意味を…と思いまして…。
このシリーズが他と違うのは、神楽が言葉に出して土方を銀時の恋人だと認めていることなので。
今回こんな風になりました。蔑ろ加減がちょっと弱かったかしら…?
きっとこれから日常的に蔑ろにされていくものと思います。
リクエストをくださった『mono』様。ありがとうございました。
気に入っていただけましたら、どうぞお持ち帰りください。
いつもの通り背景のお持ち帰りはNG。文自体を変えなければ、その他はいい感じでお楽しみください。
もしもどこかへ掲載される場合は、隅っこの方に当サイト名と月子の名前をくっつけておいてください。
(20081024UP 月子)