欠伸の「あ」は愛情の「あ」
…ああ、まただ。
内心溜息をつく。
好きだと告白して、押して押して押して押しまくった。
そんな俺に無理やり承諾させられたような感じで頷いたアイツ。
それ以来週1のオフには必ず会ってくれるようになった。
キスもしたし、ぶっちゃけそれ以上のこともしちゃってる。
そう言うのを受け入れてくれるってことは、少なくとも嫌われちゃあいないんだろうな…とは思うのだけど…。
正直あいつの気持ちを量りかねているところは、ある。
なぜなら、デートのとき。アイツはいっつも、ぼーっとしてる。
時々生欠伸を噛み殺したり。それに失敗して、でっかい欠伸をしたり。
一応こちらには気づかせないようにしているのか、顔をそらしたり、俺が反対側を見てる時とかにそっとやってるみたいだけど。
もう、丸分かり。
欠伸した後のうるんだ眼が、もう。
誘ってんの?っていうくらいに色っぽいのだ。
や、本当に誘ってくれてんなら、何も文句はねえんだけどさ。『欠伸』で…って………なあ。
俺といるのは、本当は退屈なんだろうか?
実は全然楽しくないんだろうか?だったら、何で俺とデートとかしてんの?
何で俺の誘いに乗ってくるんだ?
くあ。
またしても、欠伸。
「おい。」
「何だ?」
「お前、そんなに俺といるのが楽しくねえのかよ!」
「…はあ?」
「だったら、もういい!!」
「おい?何言ってんだ?訳分かんねえよ。」
「ああ、お前には分らねえよ。俺の気持ちなんてな!」
「…んだとう?」
とたんに土方の目がギンと強くなる。
「じゃあ、お前には分るのかよ?俺の気持ちが!」
「分かるに決まってんだろうが。デート中に欠伸ばっかりしやがってよ!つまんねえならつまんねえって言えよ。会いたくねえならそう言えよ!我慢していられたって迷惑なんだよ!」
「んなこと俺は一言も言ってねえだろうが!」
「言わなくたって態度で分かるんだよ!」
「全く分かってねえのは、お前の方じゃねえか!頭冷やして出直してこい!」
帰る!
そう吐き捨てるように言って、土方は行ってしまった。
「俺は悪くない。」
デート中に欠伸ばっかりするアイツの方が悪いんだ。
「あんた、子供ですか…。」
万事屋に帰ってくるなり愚痴った俺に、呆れたように新八が言った。
「どうせ、銀ちゃんが悪いネ。」
「何でだよ!」
「恋人を楽しませられない銀ちゃんが、カイショナシなだけアル。」
「う。」
「あれだけ銀さんが猛烈アタックかけたんですから、土方さんは銀さんの気持ちをちゃんと分かってるはずですよね。」
「ああ?」
「銀さんの気持ちを分かってるのに、それをもて遊ぶようなこと、土方さんがするとは思えないんですけど…ね。」
そんなことお前に言われるまでもなく分かってる。
アイツは、相手の本気を笑うような奴じゃない…。
少しずつ気持ちが収まってくるのがわかる。
「大体、銀さんと会いたくないなら土方さんだって誘いにOK何か出さないでしょ?」
「え?」
「会いたくないなら断ればいい話じゃないですか。」
それもそうだ。
断ったからと言って、アイツが何か困るわけでもない。
「まあ、なんでそんなに欠伸ばっかりしてるのかまでは分かりませんけど…。」
「だから、銀ちゃんがカイショナシなだけネ。」
「おい、神楽!」
「カイショナシな銀ちゃんが悪いんだから、銀ちゃんが謝ればいい話ネ。」
「っ。」
「そうですよ。ちゃんと謝って、で、何で欠伸ばっかりするのか聞いてくればいいじゃないですか。」
「とっとと行ってこいや。…っていうか、これ以上ここで愚痴られたらウザいアル。」
「ちょ、ひどっ!」
二人に背中を押されるように、万事屋を出た。
そうか?本当に俺が悪いのか?
ついさっきまでは100%土方が悪いんだって思ってたけど…。
そっと忍び込んだ屯所。
アイツの部屋は、確かこっちの方。
以前あった幽霊騒ぎのときの記憶を掘り起こし、向かった先はどうやらビンゴ。
土方と、もう一人の人の気配にとりあえず隣室にそっと滑り込んだ。
「あれ、副長?今日はオフでしたよね、お出かけだったんじゃ…?」
「うるせえ。」
ああ、これは、超不機嫌な土方と、それからジミーの声だ。
「出先で何があったか知りませんが、せっかくなんですから少し休んだらどうですか?すごいことになってますよ?眼の下のクマ。」
…クマ?あったか?そんなもん。……っていうか、あいつの欠伸ばっかり気にしててあいつの顔を俺はちゃんと見てない……?
「以前はほとんど休みを取らなかったのに比べれば、この頃はちゃんと休みを取るようになったんで、それは喜ばしいことなんでしょうが…。休む為に数日前から寝不足になるほど仕事してるんじゃ本末転倒なんじゃないですか?」
「………うるせえ。」
「そうやってせっかく確保した休日もどこかへ出かけて行っちゃって…。全然身体休めてないみたいですし…。いつか倒れますよ…。」
「………。」
「…まあ、とにかく。今日の予定がなくなったんなら、少しでも休んでください。…布団敷きますか?」
「…いや、いい。」
「分かりました。とにかく、ちょっとでも休んでください。」
「……ああ。」
ジミーの気配が遠ざかって、部屋からは土方の疲れたような溜息が聞こえた。
俺は…。
俺は、すぐには動けなかった…。
アイツの欠伸は俺のせい…?
俺はとにかくあいつと付き合えるようになったのが嬉しくて。休みのたびに、あっちへこっちへと連れ出した。楽しんでほしくて必死だった。
けれど、それがあいつに負担を強いてたのかも…。
あたりに土方以外の気配がないことを確認して、そっと土方の部屋の障子を開けた。
「…お前!?」
「ごめん、土方。」
「…いや…俺の方こそ…。」
「や、お前は悪くないから!悪いのは俺だから!!俺、俺のことしか考えてなかった!」
改めてちゃんと見た土方の顔色は悪く、目の下のクマだってひどいものだった。
そう、させたのは俺だ。
「お前、無理なんかしなくていいから。」
「…無理でもしなきゃ、休みなんか確保できねえ…。」
「そんな、俺の我儘に付き合うために、体壊したら…。」
「そうじゃねえ!」
「え?」
「お前の為なんかじゃねえ。………俺が、…お前に会いたいから…。」
だんだん小さくなる声。でも、ちゃんと聞こえたよ、土方。
「うん、ありがと。でも、お前の体の方が大事だ。…だから、疲れてる時はそう言って。」
「………。」
「会わない…なんて言わねえよ。俺だってお前に会いたいもん。」
「万事屋…。」
「お前が疲れてる時はゆっくり過ごそう?別にどこか出掛けなくたって、二人でのんびりまったりするのも良いじゃねえか。」
「………うん。」
嬉しそうに頷く土方。ほんのり頬が赤く染まってって…畜生、可愛い!!!
欠伸なんか、いくらしたって構うもんか。それは土方が俺に会いたいと思ってくれてるってことなんだから。
俺と会うために頑張ってくれた…ってことなんだから。
「これから一緒に昼飯食ってさ、万事屋へ行ってゆっくりしようぜ。」
今日はもともと神楽も新八も午後には新八の家へ行ってそのまま泊まってくる予定になっている。
いつ仕事が入ってくるかわからない屯所にいるより、万事屋にいる方がゆっくり出来るはずだ。
出かける予定なんて全部キャンセル!!
それでも全然惜しくない。
笑って頷く土方を即して、立ち上がった。
もう、絶対、絶対、絶対に、この手を離したりなんてしないと心に誓って、ギュッとその手を握り締めた。
20090923UP
END
リクエスト内容は『デートのたびに眠そうな土方。「せっかくのデートなのに楽しくないのか?楽しくもないのに何でデートなんかすんの?」な銀時。それが原因で喧嘩。神楽や新八に「どうせ銀さんが悪いんでしょ。謝ってこい」と追い出され屯所へ。そこで土方がいつも眠そうなのは、デートするために徹夜しまくっていたことが判明。で和解する。』でした。
まんまでしたね。
というか、ストーリーのすべてを支配するリクエストでありましたので、月子が手を加える部分はほとんどなく、リクの通りに進めさせていただきました。
リクエストをくださったのは、Mira様。ありがとうございました。
いつもの通り、背景のお持ち帰りはNG。
もしもどこかに掲載してくださるという場合は、当サイト名と月子の名前をくっつけておいてください。
(20091010UP:月子)