秋だね。
あ、いた。
町の中で、つい目が行ってしまう黒い制服。
対テロリストの武装警察真選組。
町の治安を守るのだそうだ。
そんな事をいいながら、バズーカーぶっ放す奴もいるけどな。
バズーカーとまでは行かなくても、時々やり過ぎて、ちょっと迷惑だったりもするけれど。
嗤いと親しみ、嫌悪と信頼、そんな雑多な感情とともに町に受け入れられつつある奴ら。
それを実質的に率いるのは副長のアイツ。
土方十四郎だ。
クールぶってるくせに、ちょっとつつくとすぐに食いついてくる瞬間沸騰型。
それが面白くて、ついちょっかいを出してしまう。
ああ、ほら又。
眼が合っただけで、ギンと睨まれる。
そのきつい視線にドキドキする。
けど、そんな高鳴る鼓動を悟らせる俺じゃない。
余裕の顔で笑って見せれば、更に目つきが鋭くなって…。
おいおい、瞳孔ガン開きだってば…。
真面目で真っ直ぐ。
そんなんで疲れないのかな…って、いつも思う。
もう少し肩の力抜いて。ついでに仕事の手も抜いてしまえばいいのに…。
けど、そうできない理由も分かってる。
アイツはそれが、自分の大切なものを守る手段だと思ってるから。
大切なものが守れるのなら、自分が大変だって何でもない。
いや、きっと大変だとも思ってないだろう。
何でそんなこと分かるのか?…って?
だって、それは。
今のあいつは何年か前の俺だから。
あの頃の俺は、自分がもっといろんな事が出来ると思っていた。
大切なものを一つ残らず守りきることなんか、ちょろいと思っていた。
俺が頑張れば。俺が、多くの敵を討てば。
それで大切なものが守れると思っていた。
そのために、どれほど危険な最前線へ送り込まれようと。
睡眠時間もほとんど取れないままで、戦い続けようと。
辛くはなかった。
大変だとも思わなかった。
むしろ、それは至極幸せなことだった。
あーあ、やだね。
アイツを見てるといつもそうだ。
昔の自分を思い出す。
青臭くて、一生懸命で。根拠のない自信に満ちていたあの頃。
今思い出すと、こっ恥ずかしいガキでしかなかった俺。
だけれども、あの頃がなければ良かったなんて思わない。
思い出すと、叫びたくなるくらい恥ずかしくなるけど、辛い記憶も蘇ってくるけれど、あの日々があったからこその今の俺なのだ。
一生懸命な土方を見ていると、ついあの頃のハズカシイ俺とダブって見えて、ほおっておけなくなる。
そんな、どこか出来の悪い弟分というか、頼りない後輩を見守ってるようなスタンスでいるつもりだったのに…。
気付けば、青天の霹靂。
なんか、がっつりホレちゃって。
ただいま絶賛片思い中だ。
や、さすがに俺もいい歳だからさ、この気持ちが世間一般に認められるようなもんじゃないことは分かってる。
伝えるつもりもないし、答えてもらおうとも思っちゃいない。
だったらちょっかい出さなきゃいいのに…って話だけれども、そこはソレ、俺も大概ひねくれ者だからさ。
つい、構っちゃって。からかっちゃって。
アイツも全力で返してくるから。
売り言葉に買い言葉。
やらなくていい喧嘩ふっかけて、浴びせられる罵声に自分で傷ついてりゃ世話ない。
馬鹿だね、本当。
『は〜あ』と、溜息をついて視線を上げた。
………あれ?
土方がいない?
んん?と思ったら、目の前で何かがヒラヒラと動いていた。
「……い、おい、万事屋?」
「う…え?」
「いいのか?残りの団子、総悟が食っちまってるぞ。」
「へ?」
団子屋の長いすで、まったり休んでいた俺。隣に置いてある皿にはもう1本団子があったはずなのに…。
「無い!?」
「旦那ぁ、油断大敵ですぜぃ。」
「ちょ、総一郎クン!?何してくれちゃってんの!?」
ちゃっかり隣に座ってるドS王子の口には、もう半分食われてしまった団子が…。
「俺の貴重な糖分が!!!」
「だから、いいのか?って聞いたんだ。」
「…ってか、気が付いてたんなら止めてよ!」
「何で、俺が…。」
「この子はお宅の管轄でしょうが!」
「馬鹿言え、近藤さんの管轄だ。」
「ゴリラはほとんど仕事してねえじゃん。」
「近藤さんはゴリラじゃねえ。」
ああもう、お前がゴリラ大事なのはわかってるけどさ!!面白くねえんだよ!
「親父!団子もう1皿な。代金は副長さんが払ってくれっから!!」
「んな!!勝手なこと言うな!」
「勝手じゃありません〜、この間の借り、ちびちび払ってもらうって言ったじゃんか!」
「そうですぜ、借りはちゃんと返しておかなきゃいけませんぜぃ、土方さん。」
「ち。」
舌打ちをすると、土方は奥から出てきた親父に『団子2皿』と言うと、ドS王子とは反対側の隣にドスンと座った。
「へ?」
「んだよ、なんか文句あるか。」
「いやいや、全くありません。税金泥棒なんてこれっぽっちも思っちゃいません。」
「思ってんじゃねえか!何なら今すぐ帰ってもいいんだぜ!そん時ゃ団子代は手前で払いな!」
「や、うん。副長さんも大変だよね。どうぞお座りください。」
「もう座っとるわ。ったく。今日は、昼飯も食わずに仕事してたんだ、休憩するくらいいいだろうが。」
「あ〜らら。」
俺たちがそんな会話をしているうちに、団子を食べ終わったらしいドS王子が席を立った。
「俺は静かな昼寝場所を探してきまさぁ。」
常備しているのか、ポケットからあの変なアイマスクを出して指でくるくるとまわしながら、どこかへ行ってしまった。
「いいの?サボり、止めなくて。」
「元々あいつは、午後はオフだったんだ。午前中の事件の処理が長引かなきゃな…。」
「ふうん。」
出された団子を1皿づつ食う。
ぽつりぽつりと交わす会話に意味はなかったけれど、静かでゆっくりとした時間が流れる。
あれ、土方と二人でいて、こんなに穏やかな会話を交わせたのは初めてじゃね?
マヨネーズをたっぷりかけた団子を食べ終えた土方が、煙草に火をつける。
ゆらゆらと上がっていく煙を何とはなしに見送って…。
「ああ、空が高けえなあ。」
「秋、だな。」
「うん、秋だねえ。」
土方が俺の隣でくつろいでくれているのが嬉しい。
「「金木犀の香りがする…。」」
あれれ、ハモっちゃったよ…。
思わず見合わせた顔が、お互い赤くなってたような、なかったような…。
20091009UP
END
リクエストは「土方と似ているところに運命を感じる銀さん」。
リクエストをくださったのは美久季様。ありがとうございます。
美久季様には本当に申し訳ないのですが、いただいたリクエストを何度も何度も読み返したのですがどうにもはっきりリクエストのイメージがつかめませんで…。
読解力がなくて本当に申し訳ありません。
上記のように要約させいていただきましたが、本当はもっとたくさん書いてくださっていました。
美久季様のイメージと、ものすごくかけ離れていなければいいのですが…。とっても不安です。
一応、銀さんが土方を好きで、土方は気が付いてなくて…。
な雰囲気はでいているんじゃないか…と思ったり…。
気に入っていただけましたなら、どうぞお持ち帰りください。
いつもの通り背景のお持ち帰りはNG。
もしもどこかに掲載してくださるという場合は、当サイト名と月子の名前をくっつけておいてください。
(20091010UP:月子)