しろと、くろ。

前編



 

注:W副長設定です。この二人はくっついてません。

 

 


真選組には二人の副長がいる。

日頃から規律に厳しく、隊士たちにも厳しく当たる『鬼』と呼ばれる男と。

普段はダラダラとサボりまくるくせに、いざ剣を振るう段になれば他の追随を許さない剣の腕から『夜叉』と呼ばれる男。

一見相反する二人。

普段は、ことごとく意見を対立させ反目しあう二人だけれども。

互いが互いを一番認めていた。

自分にない部分。自分では気づけない部分。自分とは違うモノの見方。そう言うものに価値を見出していた。

どちらかが暴走すれば、片方が止める。

どちらかが躓けば、片方が支える。

そんな二人の副長ががっちりと固める真選組は、短期間で組織内の結束を固めて行っていた。

 


 

「…悪い…。」

ポツリとつぶやいたのは銀時だった。

「………。」

『トシが暴走した時は、お前が止めてくれよな。』

常日頃、局長である近藤からそう言われていたのは銀時の方だった。

気が短く、つい血の気の多い行動をとりがちな土方を、のらりくらりとかわして宥めるのはいつもなら銀時の役目のはずだった。

ただ、今回だけは我慢がならないと。そう言ったのは銀時の方だった。

銀時には、家族同様に大切にする子供たちが二人いた。

血のつながりなど無い。

けれど、本当の家族のように大切に思っていることなど、真選組のメンバーなら皆知っていた。

その子供たちが襲われたのだ。

実際の怪我は大したことはなかった。擦り傷切り傷、そのくらいだ。

けれど、銀時は激怒した。

『真選組』という組織ではなく、そこに所属するものの家族。ましてや成人していない子供をターゲットにするなど!

子供たちを襲ったのは、真選組を目障りに思っていたであろう組織だ。

麻薬や御禁制の商品の売買の噂のある組織。その利益がテロリスト集団へと流れているのは明白だった。

なんとかその証拠をあげ、検挙しようと躍起になっていた真選組とは常に一触即発の状態が続いていた。

その憂さを晴らそうとでも思ったのだろうか?

どんな理屈をこねようと、子供を襲うことの理由として認められるものではなかった。

子供たちは、隊士たちにとっても弟妹のようなものだった。

勿論土方も、目をかけていた。

だから、土方自身だって内心は怒り心頭していた。

けれども、普段『面倒臭いじゃん』の一言で、さまざまなことをスルーするのが常な銀時が『許せねえ』と低くつぶやいた声に、逆に平常心を取り戻していた。

「俺たちが目障りだから…って、子供に手を出すなんて…。」

確かに真選組に入ったときから、その可能性を恐れなかったわけではない。…けれど。

「お前の考えは分かった。」

土方が低くつぶやく。

「今回のことを許しちまったら、類似の事件が起こらねえとも限らない。」

「じゃあ、俺の隊を出すことを許可してくれるのか?」

銀時の声が弾む。

「それは駄目だ。」

「土方!」

「奴らは、幕府要人が後ろだてになってる麻薬売買組織だ。今、証拠固めをしてるが、まだ検挙ができるほどのものは集まってない。」

「神楽と新八が襲われたことは…。」

「怪我が軽すぎる。傷害事件にも出来ねえ。」

「っ!」

「馬鹿、勘違いすんな。二人に怪我が無かったことは本当に良かったと思ってる。ただ、口実にするのには無理がある…って言ってるだけだ。」

「ち。」

忌々しげに舌うちをする銀時。

それは普段俺の専売特許なんだがな。と、土方は内心溜息をつく。

銀時の気持ちは良く分かる。

銀時が言い出さなかったら、自分が乗り込んでいきたいくらいに苛立ちは募っていた。

けれど、明快な理由がないままに隊を動かすわけにはいかないのだ。

そんなことをしたら、その後どんな咎めを受けるか分からない。

最悪、真選組お取りつぶしという可能性だってある。

それだけは避けなければならなかった。

銀時もそれは分かっているから、事前に土方に報告に来たのだ。

せめて組への影響が少しでも小さくなるように、何か対策がとれるように…と。

事前に全く知らされず、事が起こってから慌てるのと。

前もって何らかの根回しが出来ているのとでは、得られる結果に大いなる違いがあるからだ。

「お前の隊を出すことは許可できねえ。」

「土方!」

「けど…。」

「?」

「………俺が行く。」

「はあ?」

「真選組とは別だ。」

「別…って?」

「坂田銀時に土方十四郎が加勢する。」

「………土方…。」

土方は机の引き出しから1枚の書類を取り出した。

「俺とおまえは、今からオフだ。」

『休暇願』と書かれた書類にサラサラと二人分の名前を記入する。

そこへ、普段から預かっている局長印をポンと押す。

「いい、のか…?」

「『真選組』として動くわけにはいかねえ。だったら個人で行くしかねえだろうよ。」

「…だったら、そこに俺の名前も書いといてくだせえ。」

いつからそこにいたのだろうか?

部屋の入り口に、気配を消して立っていたのは沖田だった。

「総悟?いつからそこにいた?聞いてたのか?」

「そんなことはどうでもいいんでさぁ。」

面倒臭そうにそう言うと、深々と溜息をついた。

「それなりに体裁の整ってる組織へ乗り込んでいくのに、たった二人でなんて…。あんたたちどんだけチャレンジャーなんですかぃ。」

「…お前に心配されるとは…。」

「心配なんかしちゃいませんぜ。死んでしまえ、土方コノヤロー。」

「総悟!」

「今、副長二人を失うわけにはいかねえんだそうですぜ。」

「え?」

「は?」

「近藤さんに頼まれたんでなけりゃ、誰があんたたちの加勢になんか行くもんか。」

「近藤さんに…?」

「バレバレ…ってか……。」

『かなわねえなあ』

剣の腕だとか、仕事のスピードだとか…そんなことではなく。

こういうときに、いつも思う。

本当にあの人にはかなわない…。

「ただのゴリラのくせにな。」

「近藤さんはゴリラじゃねえ。」

「あらやだ、土方は相変わらずゴリラ大好きで…。妬けちゃうわ。」

「馬鹿だろお前。」

「馬鹿とは何だ。」

「馬鹿なのはあんたらでさあ、行くならとっとと行きやすよ。」

「ああ、着替えてくるからちょっと待ってろ。」

夕刻を過ぎているのに今だ仕事中だった土方と、仕事上がりに土方の部屋へ押しかけた銀時がそれぞれ自分の隊服を示した。

仕事を離れて行動する以上、隊服ではまずい。

3人は落ちあう場所を決めて、それぞれ別に部屋を出て行った。

 

 

 

 


 

 

 

20091018UP

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 後編

 


もう少しお付き合いください。
(20091921UP:月子)