あげたいものは

 



「あれ、多串くん。」

「多串じゃ、ねえ。」

「久し振りだね。」

「そうだったか?」

「仕事中?」

「見りゃ分かんだろうが。」

「次の休み、いつ?」

「さあな?」

………さあな。…だってさ。

「そっけないなあ。」

「分からねえものは分からねえ。」

「シフトとか多串くんが組んでるんでしょ?」

「多串じゃ、ねえ。シフト通りに休めたことなんざねえよ。」

「忙しいんだねえ。」

「お前は暇そうだな。」

「それなりに仕事はしてるよ。昨日も屋根の修理とかしたしね。」

「ふうん。」

「で、次はいつ休み?」

「だから、分からねえ…って。」

「予定は?」

「………明日。」

「ええええ!!!?」

「うるせえ。」

「何でそういうことを黙ってるかな!」

「今言ったろうが。」

「じゃあさ、今夜いつもの居酒屋でね。」

「………何もなければな。」

「あのさ、もう1回言うけど。久し振りなんだよ?」

「………そうだったか。」

「そうなんだよ!もうちょっとこうさあ。会える努力…ってのをしてくれないかなあ。」

「俺が努力しようとしまいと、事件が起これば休みは無しだ。」

「………。そりゃそうだろうけどさ…。」

本当にそっけない。

銀時は心の中で盛大に溜息をついた。

これが恋人同士の会話だなどと。誰が思うだろうか?

わずかに、会えるための努力をしてくれたことがあるのかなあと匂わせる程度で。

町で見かけて声をかけるのもこちらから。

休みを聞き出し約束を取り付けるのも、好きだといい、夜の誘いをかけるのも。

全て銀時からで、土方からのアクションはない。

はあああ。

心の中でもう一度ため息をつく。

 


 

プライドの高い土方が、自分に抱かれてくれるということは、これはもう好きでいてくれるということだろう。

どれだけそっけなくされても、銀時が土方の気持ちを疑わないのはそれがあるからだ。

好きでいてくれるのは分かる。

けど、分かるだけでは足りないと思うのは贅沢だろうか。

自分と同じだけ、とは言わない。

けれどもうちょっと、優しい笑顔だとか、可愛く甘えてくれるとか、会える機会が少なくて残念だとか…。

そう言うのを見せてくれればいいのに…と思う。

約束の居酒屋で。

少し遅れてやってきた土方を満面の笑みで迎えながら。

ああ、きっと。

この後行くホテルで、しつこい抱き方をしてしまうのだろうと。

心の中でもう一度ため息をついた。

 








 

 

 

たとえ口から出る言葉が、思っていることとは正反対だとしても。

自分の気持ちを見誤るような年齢ではないつもり。

そうでなければ、男である自分が同じ男の下に組み敷かれるなどあり得ない。

他の誰かであったなら決して容認できない行為を、こいつだけには許しているというのに…。

会う約束にしてもそうだ。

約束をすること自体は構わない。

ただ自分の仕事柄どうしても守れない時が出てくる。…それも頻繁に。

初めのうちはきちんと交わしていた約束を、最近しなくなったのは…。

それを反故にした時の、ガッカリした声を聞きたくないから。

がっかりした気持ちを、必死に隠そうとして。でも隠しきれてないゆがんだ顔。銀時にそんな顔をさせるくらいなら、初めから約束などしなければいい。

そう、思っただけで。

決して会えないことが平気なわけでも、会おうとする努力をしてないわけでもないのだけれど。

 

どうして分かんねえかな…。

 

気だるい身体を起こして、ベッドサイドに置いたタバコを取る。

今自分が、こうしてここにいるということ。

それこそが自分の気持ちだというのに。

欲しい欲しいとねだる必要などもうないのに。

それとも。分かっていてそれでもさらに、というのなら…。いったいどれほど強欲なのだ。

仕事以外の時間のほとんどを。

この身体を。

そして、この気持ちも。

とっくに手に入れているのに。

煙を吸い込んで、ふうと吐く。

吐いた煙は、そのつもりではなかったのになんだか溜息のようだった。

銀時に要求されるものを次々と差し出して行って、いつか自分の中に差し出すものがなくなってしまったら…。

二人の関係は、どうなってしまうのだろう。

なんとなくゾクリと背筋が震える。

 

 

ンググ…

すぐ隣から聞こえる間抜けな寝息に、ガクリと力が抜ける。

全く、悩んでいるのがバカバカしくなる。

煙草を灰皿に押し付け、暢気に眠る銀時の鼻をつまんでやる。

苦しそうにグググともがくが起きないのがおかしい。

手を離せば、プハアと息を吸いながらも何かムニャムニャと寝言を言っている。

ククク。

おかしな奴だな。

素直に気持ちを表に現す奴がいいなら、そう言う奴を探せばいいのに。

なんで寄りにも寄って、自覚のある天の邪鬼を恋人にしたんだか…。

 

「………本当、馬鹿な奴だな……。」

思わず出た声は、ひどく甘くで自分でテレくさくなる。

だが、まあ良いか。

どうせ、聞いている者などいないのだ。

そう思ったら、少しくらい素直になってみてもいいかもしれない…という気分になってきた。

口を半開きにした間抜けな寝顔をじっと見る。

そんな顔すら愛おしいと思う自分を、末期だな…と揶揄しておいて。

そっとその額にかかる前髪をすくい上げ、あらわになった額に唇を寄せた。

 

チュっと触れて、すぐに離れる。

 

自分にはこれが精一杯だ。

たったこれだけで、カッカカッカと熱くなる顔を手で撫ぜていて、ふと気付く。

薄暗いのに分かるほど、銀時の顔が赤い。

 

「…う、わ、ちょ、なに、これ!」

「〜〜〜てめ!起きてやがったな!」

 

大好きだ〜と抱きしめてくる手から、慌てて逃げる。

けれどそれが、ただの照れ隠しなのだとバレてしまったから。

今までとは違って、ためらわずに伸ばされる腕にあっという間に捕らえられる。

 

「可愛すぎなんですけど。」

チュッチュチュッチュと顔中にキスしてくる銀時を鬱陶しいといわんばかりに押しやる。

けれど、まっすぐに向けられる意思表示は確かに心に安心をもたらしてくれる。

 


銀時が欲しいのはこの安心なんだろうか?

だとしたら、これからは少しくらいは素直になってもいいかもしれない…。

 



土方の心にもほっこりと温かい気持ちが灯った。

 

 

 

 


 

 

 

あまりにもしつこく懐いてくる銀時に、耐えかねた土方が。

アッパーをくらわせて銀時を布団に沈めたのは、それから数分後のことだった。

 

 


 

 

20101008UP

END


せっかく可愛らしいリクエストを頂いたのに、なんか雰囲気が…。
リクエストをくださた姫桃様。
ピュアなリクエストありがとうございました。
(20101212)