あなたが私にくれたモノ 後編

 


「土方さん。探しましたよ。」

「…メガネ…。」

「ほら、神楽ちゃん。」

「………。」

息せき切って声を掛けてきた新八と、その後ろでそっぽを向いている神楽。

「どうかしたか?」

「お誕生日、おめでとうございます。」

「あ、…ああ。なんだ、お前らまで知ってるのか…?」

「先日、山崎さんや沖田さんに教えていただきまして…。…で、ほら、神楽ちゃん。」

「………。」

「どうした?チャイナ。」

普段、臆面もなく言葉を発する彼女にしては珍しく口ごもっている。

「………コレ、あげるアル。」

そっぽを向いたまま神楽が背中から差し出したのは、小さなこいのぼりだった。

「あ…あの、僕らお金が無くてですね。…こんなものでアレなんですが…。」

決まり悪そうに新八が頭を掻く。

それは茶封筒をこいのぼりの形に切り、割り箸にタコ糸で繋げた手作りのものだった。ぐりぐりとマジックで書かれた目と、色紙を切って貼り付けられた鱗が不ぞろいなところが幼稚園児の工作のようでかわいらしい。

「僕も少し手伝ったんですが、神楽ちゃんが自分で作るって言うんで…。」

馬鹿力で戦闘能力は高い少女だが、細かい作業は苦手なのを知っている。

コレを作るのにどれだけ苦労しただろう。

「大変だったろ?」

土方の言葉に、パッと神楽の顔がほころぶ。

「また、ご飯作ってくれるアルか?」

「え?」

『金が無い』『米が無い』と嘆く彼らを見るに見かねて何度か上がりこんで食事を作ったことがある。

その度に『おいしい、おいしい』と信じられない量を食べていた神楽。それほど土方の料理を気に入ってくれていたとは思わなかった。

そういえば、ずっと休みが取れていなかったので食事を作るどころか万事屋を訪れることすらしていなかった。

『仕事だ』などと言う言い訳は、子供には何の意味も成さない。

「ああ、又作ってやる。……そうだ、今日は休みだから、これから何か…。」

皆まで言わないうちに『本当アルか!?』意気込んだ神楽に手を引かれた。

「どうせ冷蔵庫は空なんだろう?スーパーに寄って行くか。」

「うん!」

「すみません、土方さん。」

「いや、いい。どうせ暇をもてあましてたところだ。」

申し訳なさそうに新八が頭を下げる。

ちゃちなこいのぼりで土方を釣ったように思えたのかも知れない。

「ああ、もう。銀さんも家にいたらいいのに。」

「…あいつ、いねえのか?」

「ええ、なんだか朝から『用がある』とか言って出かけてまして…。どうせパチンコかなんかだと思うんですけどね。」

「…相変わらずだな…全く。……働けよ。」

「本当ですよね。…けど、このところは多少真面目に働いてたんですよ。」

「へえ?」

「けど、甘味屋の手伝いとかばっかり。報酬は安かったんですけど、やたらとご機嫌で…。僕たちに黙ってつまみ食いでもしてたのかなあ?」

「あいつのことだ、甘い匂いを嗅いでるだけで良かったんじゃねえか?」

「ああ、かも知れませんねえ。」

なんでもない振りして歩きながらも、ほんの少し心の隅ががっかりしていた。

別に誕生日を祝って欲しいとは言わない。知らせていないから知らないだろうし。

けれど、久々の休みで。…ということは、ゆっくり会えるのも本当に久しぶりで。

時々街中で見かけたり、二言三言言葉を交わしたり…それだけじゃ足りなかった。そう思っているのは自分だけなのだろうか?

大量の食料を買い込んで万事屋の台所に立つ。

変な話だ、自分はここに住んでいるわけでもないのに既にどこに何があるかすっかり把握している。

手伝うと纏わり付く子供たちに適当に仕事を割り振って作業を進めていく。

量が半端でないために、かなりの時間を食ってしまったがようやく料理が出来上がった。もう、昼食なのか夕食なのか良く分からない時間だ。

処狭しとテーブルの上に並べられた料理を今まさに食べ始めようとしたとき。

ドスドスとものすごい勢いで階段を上がってくる音がした。

「くおらーっ、銀時!もちっと静かに上がんな!階段踏み抜いたりしたら承知しないよ!」

階下からお登勢の怒鳴り声が聞こえてくる。

「うるせえ、ババア!」

思いのほか近くから声がして、ガラリと玄関の戸が開いた。

「あれ、銀さん帰ってきましたね。」

「あいつの分なんか無いアル。マヨラが作ったご飯は皆私のものある。」

神楽が毒付いたとき、居間の襖が開いて意気を切らせた銀時が駆け込んできた。

「お…おおおお、多串くん。」

「………多串じゃねえ。」

とりあえずそう返しておくと、がっくりと銀時が膝を付いた。

「……屯所に行けば出かけたって言われるし、心当たりを探したっていないし、お妙はお前に会ったって言うし、そっちの方向に行ってみればいねえし。副長さんがスーパーで買い物してた〜って女の子がぎゃーぎゃー喜んでたからスーパーに行ってみてもいねえし。もう夕方だからって帰ってきてみれば、3軒先まで多串くんの作る料理の匂いが漂ってんし…。」

「………。」

1日出かけていたのは土方に会うためだったのか…。

「…匂いで作ってる人間が分かるのか?」

「…突っ込みどころはそこなのかよっ!?」

「銀ちゃんの分は無いアル。」

「えええ!?」

「うるせえ、あるから座ってろ。」

「ええ、私の分が減るアル。」

「食いきれねえほど作ったろうが、見ただろあの量。」

「アレ位ちょろいアル。」

3日分食べるのだと意気込む神楽も本気で銀時に食べさせないつもりはない。

土方が銀時の分のご飯と味噌汁をよそってくるのを、涎をたらさんばかりの顔で待っていた。

「ほら。」

「サンキュ。」

いただきまーす。と3人分の声がハモってものすごい勢いで食事が始まった。

「…こらチャイナ、ちゃんと噛め。手前ら、量はちゃんとあるから落ち着いて食え。」

呆れる土方に瞬く間に「おかわり!」と3つの茶碗が差し出される。

ため息をつきつつ、台所に立つ。

それから何度彼らのためにおかわりをよそっただろう。

合間に自分の分の食事もきっちりとりつつ、怒涛の食事はその量がすごかったわりには短時間で終わった。

作る苦労を思うと、多少むなしくはなるが。ひとかけらも残さずたいらげてくれたことが嬉しかった。

食後にお茶を飲みながらしばらく皆でアレコレ話していると。

「じゃあ、僕は帰ります。」

「あ、私も行くアル。」

「チャイナ?」

「あねごに柏餅をご馳走になる約束してるアル。」

これ以上まだ食べるのか?と呆れる土方をよそに新八が笑った。

「父の古い知り合いが毎年この時期に柏餅を下さるんですけど、量が半端じゃなくて…。姉上と二人では食べきれないので神楽ちゃんにも食べるのを手伝ってもらおうと…。」

その理由はウソではないのだろうけど、本当でもないのかもしれない。

その証拠に、甘味と聞いたらいの一番に乗るはずの銀時は気をつけていけよ〜とか言って手を振っている。

子供にまで気を使われているのかと思うと、いたたまれない気持ちもある。

けれど、急にシンとした部屋の中で二人きりになって。

それが随分と久しぶりなのだと気づくと、途端に心臓がバクバクと激しく鼓動を始めた。

「え…と、なんだ。多串くん。」

「…多串じゃねえ。」

「誕生日、おめでとう。」

「…っ、知ってたのか…。」

照れてそっぽを向きつつ言う銀時。そんな様子に土方の方まで照れくさくなる。

「プレゼント渡そうと思ってさ。1日探し回っちゃったよ。」

「……手前が?」

「ん、まあ。金はないからさ、たいしたもんじゃねえんだけど。」

そういって銀時が差し出したのは…。

「………、甘味処のタダ券…って。」

いくつかの銀時の気に入りの甘味屋のタダ券だった。それも50枚ばかりはあるだろうか?

「こんなもの…しかも大量に貰ってどうすんだよ?俺は甘いものは…。」

「それ、上げるから。俺に甘いものご馳走して。」

「は?」

結局は自分のためなのか?そう思って怒鳴ろうとしてふと気づく。

コレを使って銀時に甘味をご馳走しようと思ったら、二人で会わなければならない。

土方が仕事中に制服で甘味屋に入れる性格ではない事くらい銀時は分かっている。

それはつまり、休みの日は会おうということで…。

券の有効期限は1年くらいのものがほとんどで、それが50枚もあるということは週に1回程度は休みなさいよということで…。

「お前が仕事命なのも知ってるし、忙しいのも知ってる。それをとがめるつもりはねえよ。

けどなあ、俺だって放って置かれれば淋しいし。ずっと休んでないお前の体だって心配なんだ。」

「…このところ甘味屋の手伝いしてた…って。」

「ああ、ガキ共に聞いたのか?あいつらには内緒だぜ。金の報酬は割り引いてくれてかまわねえからタダ券くれって頼んだんだ。」

「…万事屋…。」

抱きしめられた腕の中で、真っ直ぐに見返せばすぐに落ちてくる唇。

少し甘ったるい銀時の香りに包まれて、ああ、この匂いも久しぶりだとため息が漏れる。

いつもより少しだけ急性に求められれば、会えなくて心の中にやもやしたものを抱えていたのは自分だけではなかったのだと知る。

いつもは力の無い目が、欲望をたたえて土方を見る。

背筋がゾクリと震えた。

「……っ…あ……。」

「っ、…すげ……今日は積極的だね。」

「……バ……っ、アッ……ヤ… 。」

「やだって言っても、今日は止まらないからね。…ずっと俺をほっぽっといたんだから、責任とってよ。」

甘えたように言う銀時。

何が責任だ、こっちは仕事だったんだ。

そう言い返そうかと思ったけれど、『仕事だ』との言い訳は子供にも意味をなさないが、恋人にも利かないのだろう。

「……っ、上等…だ。」

挑むように笑って銀時の頭を引き寄せれば。

「おっとこ前な恋人だこと。…銀さん、メロメロだよ。」

耳元で囁かれれば、そこから体が溶けそうになる。

 


 

素直でない自分はそういえば誰にも礼を言えてなかった…。

 


朝から貰った数々のプレゼントを思い出す。

高価なものなど一つも無かったけれど、そんな物いらない。

 


ただ、皆が笑ってそこにいてくれればいい。

 


だとしたら自分は普段から最高のプレゼントを貰っていることになる。

 


明日にはちゃんと皆に礼を言わなきゃな。

 


そして目の前のこの男にも。

 


彼が、いつまでも彼らしくいてくれるのならば、それでいい。

それが一番嬉しい。

 


だって自分は多分。この男の魂のあり様を好きになったのだから…。

 


 

 

 

 

 

20080410UP

END

 

 


セラフィナ様。リクエストありがとうございました。
リク…という企画のご提案のような感じでしたね。
折角のお誕生日ですし、皆でプレゼント攻撃とか・・・。誰がどんなものをあげるのか・・・。
…で、こんなんできました。
出来上がってから、「…あれ?もしかして女土方で書いたほうが良かった?」とか思ったのですが…。
そして、「女土方でもイケるかも…」とも思ったのですが。
やっぱり男土方の方がしっくり来たので原作設定ということになりました。
気にっていただけましたら、どうぞお持ち帰りください。セラフィナ様のみ、お持ち帰り自由です。
(08、05、01:月子)

 



 

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