『緊急指令 脱走したゴリラを捕獲せよ!』

 

 

チャララ〜〜ララ〜〜

 

………。

………。

………。

………。

 

不気味に静まり返った万事屋の室内に、鳴り響く不吉なメロディー。

 

「…すまねえ。」

土方が着物の袂から携帯電話を取り出した。

「…俺だ…。」

注目する万事屋3人の目線に耐えられなかったのか、土方は廊下の方へと移動しつつ会話を続けた。

「………そうか。」

土方の声が幾分ほっとしたように軽くなる。

大した用事ではなさそうだ。と思った時。

「………その程度なら別に俺が行かなくても………。」

そうだそうだと頷く神楽や新八の向こうで、土方はち、と舌打ちをした。

「ったく、あの人は〜。」

土方が『あの人』というのは、真選組の局長以外にいない。

決して悪い人間でも魅力のない男でもないのだが、困ったところも多々ある男だ。

しばらく何事か話した後、土方はぱちんと携帯を閉じた。

「………すまねえ。」

「仕事?」

「…ああ。」

「ゴリラは?」

「…行方不明だ…。」

普段なら『近藤さんはゴリラじゃねえ』と言い張る土方だが、今回は彼なりに頭にきているらしく、銀時のゴリラ発言はあっさりスルーされた。

「フクチョー……。」

「本当にすまねえな。チャイナ。」

不満たっぷりの表情で土方を見上げる神楽の頭にポンと手を載せる。

「………『四景島シーパラダイス』………。」

「…すまねえ、今度必ずな。」

「…仕方ないですよね、お仕事じゃ…。」

肩を落としつつ新八が言うと、もう一度口の中ですまねえ、と呟いて土方は銀時を見た。

「………行けば?」

「…ああ。」

後は任せておけと目で合図して土方を促す。

すまねえ。もう一度言って土方は万事屋を出て行った。

 

「………。」

「………。」

「………。」

「…もう3回目アル。」

「神楽ちゃん…。」

神楽が言うところの、『フクチョーがお嫁に来て』から数か月がたった。

今までに何度か全員で出かけようと計画を立てたが、そのたびに土方の仕事でつぶれていた。

前日に大規模なテロが起き帰ってこれなかった時は、さすがに仕方がないと諦めた。

将軍が急に視察を思い立ちその警備に駆り出された時は、これが警察官の悲しい性だと土方に同情すらした。

けれど今回は…。

「ゴリラのせいアル。」

「近藤さんがいれば、大丈夫そうな感じの話し方でしたよね。」

「まあ、いつものこと…っちゃあいつものことだがな…。」

真選組大事は土方と変わらないだろうに、いつもライフワークの方に精を出す近藤。

「捕獲、するアル。」

「え?」

「ゴリラを捕獲するアル。」

「神楽ちゃん?」

「………いや、いい案かも知れねえよ?」

「銀さん?」

「ゴリラがいればいいんだろ?…で、ゴリラの居場所は…。」

「姉上のとこですね!…姉上は今日、お店の友達と映画を見ると言っていました!」

恐らく近藤は映画館の中か、その付近にいるのだろう。

街中をうろついていれば隊士たちも見つけることができていたのだろうが、建物の中までは探せなかったのだ。

「今上映中か?新八、お妙の携帯に電話してみろ。」

「はい。」

かけてはみたが電源は切られていた。

「どこで見てるか分からないアルか?」

「うう〜ん。………けど、姉上はたいていいっつも同じ映画館へ行くと思うので…。」

「ま、とにかくそこへ行ってみようぜ。」

「そうですね。それに映画館なんてそう数があるものでもないし…。」

「しらみつぶしに探すアル!」

「…あ、そうだ、神楽。ゴリラ捕獲の際はちゃんと手加減しろよ。」

「え?なんでアルか?銀ちゃん。いっそ二度と逃げられないようにぎったんぎったんにするアル。」

「馬鹿。そんな使いもんにならないゴリラを連れていったって、多串くんを開放してくれるわけねえだろうが。」

「あ、そうですよね。せめて近藤さんが土方さんの代わりに指示を出せる程度には元気でないと…。」

「そっか、分かったアル。」

「よし、行くぞ!」

「「お〜。」」

 


 

溜息をつきつつ、土方は屯所の門をくぐった。

「あ、副長。お疲れ様です。」

「おう。」

「副長!すみません、オフなのにお呼び立てして。」

「…近藤さんは?」

「あの、それが…あちこち探してみたんですが…見つからなくて…。」

「お妙さんを探せばその傍にいるだろうが。」

「そのお妙さんも見つからなくて…。どうやら、どこか建物の中にいるみたいで…。」

「………そうか。」

買い物をしているのか食事をしているのか…。どちらにしろ店の数だけでも膨大だ。

さすがに1軒1軒の建物の中を捜索しろとは言えなかった。

出がけに見せた神楽のふくれっ面や、肩を落とした新八の苦笑いを思い出してズキリと心が痛む。

そして、いつも『行けよ』といってくれる銀時の溜息。

ふるりと頭を振ってそれらを振り切ると、土方は声を張った。

「報告しろ!状況はどうなってるんだ?」

「はい!」

それまでどこか騒然としていた屯所の空気がピシリと震えた。

 

状況の報告を受け、早急に対処すべきことを伝える。

はい!と隊士が駆けていった。

とりあえず、今できることは全てやった。

後は今後の状況次第だな…。と、いくつかのケースを予想して山崎や、原田に今後の指示を出す。

そこまでやって、ふと自分がまだ万事屋から来たままの私服姿であるのに気づいた。

「着替えてくる。」

「はい。」

自室へ向かう間も、更にいくつかのケースを想定して、ああなったらこう、こうなったらそうして…などと考えていると。

「あれ、土方さん?今日はオフじゃなかったんですかぃ?」

屯所の奥から沖田が出てきた。

「呼び出された。…ってか、お前は今まで何してたんだ!」

「寝る子は育つって言うじゃねえですかィ。俺はまだ育ちざかり何で…。」

「ち、向こう行って原田にいろいろ聞け。」

「大ごとですかぃ?」

「お前が暴れなきゃ大ごとにはならねえだろうよ。」

「へ〜え。」

ニヤリと笑った沖田を睨みつけるが、全く効いた様子もなく口笛を吹きつつ廊下をのんびりと歩いていく。

近藤が不在でも、沖田がしっかりしてくれていれば…。せめて沖田が暴れるかも…という不安要因さえなければ原田か山崎に任せられるのに…。

考えても仕方のないことが浮かび、溜息をついた。

………と。

「ふ、副長〜〜〜、た、大変です〜〜。」

「山崎?」

何かあったのか?

土方が聞く前に、『あ、フクチョー!』と神楽の声がする。

「お、お前ら?何で…。」

「ゴリラ捕まえたアル〜〜。」

「は?」

「今日姉上は映画を見に行ってまして…。」

「映画館のロビーでうろつくゴリラを見つけたってわけ。」

「………万事屋………。」

見れば3人の後ろには頬に青タンを作っている近藤がいた。

『捕獲』の際に1発殴られたのだろうが、『いや、俺はお妙さんのボディーガードをだなあ!』などと叫んでいる近藤は結構元気そうだ。

「フクチョー。」

神楽が土方の着物をツンツンと引っ張った。

「フクチョー、これで四景島シーパラダイス、行けるアルか?」

「チャイナ…。」

すると、それまで『お妙さんのところへ戻るんだ!』と暴れていた近藤も、近藤が殴られたことに対して文句を言っていた隊士たちも、ふ、と口を閉じた。

「トシ。」

「…近藤さん…?」

「行って来い。」

「え?」

「あとは俺たちで何とかする。」

「大丈夫ですよ。もう一通りの指示は貰ってますし。」

山崎もそう言い、原田も頷いた。

「嘘臭い家族ゴッコは、俺らの見えねえところでやってくだせえ。」

背筋がかゆくなりまさあ。と沖田がそっぽを向く。

「行くアル。フクチョー。」

「行きましょう、土方さん。」

「行こうぜ。」

銀時が土方を即すようにそっと背を押した。

「あ、………ああ。」

「楽しんで来い、トシ。」

「ああ、じゃあ、近藤さん、後頼んだ。」

 


 

屯所を出ていく4人の姿を見送って。

「副長、案外ちゃんと家族やってるんだ。」

「全く、万事屋に行く…って言いだしたときにはどうなることかと思いましたけどね。」

「上手く行ってるなら、何よりだ。」

わはは、と笑う近藤の隣で、ちと沖田が舌うちをした。

 

 

 

 

 

20100430UP

END

 


土方大好きの万事屋3人となったので、『フクチョー〜』シリーズ設定でのお話にしました。
リクエストをくださったのは桜凛様。リクエストは『真選組に反抗する万事屋』でした。
ちなみに『四景島』は『シケイジマ』とお読みください。何かちょっと行きたくない感じがする不吉な名前です。(オイ)
楽しんでいただけるといいのですが…。
気に入っていただけましたなら、どうぞお持ち帰りください。
いつもの通り、背景のお持ち帰りはNG。
もしもどこかに掲載してくださるという場合は隅っこの方にでも当サイト名と月子の名前をくっつけておいてください。
リクエストありがとうございました。
(20100505UP:月子)