付き合いが長いのも考えモノ

 

 

「ひさしぶり〜」

「おおお、元気だったか?」

「まあなあ。」

コージーとイズミンとは、中学卒業して以来の再会。

まあ、メールではしょっちゅう連絡取ってたけど。

それぞれ高校でも部活動に励んでいて、今まで休みが重なることがなかった。

だが、さすがにお盆の時期は数日休みとなる。

駅前のハンバーガー店で集まった。

3人とも違う高校へ進んだので、まずは近況報告。

学校がどうとか、クラスがどうとか、そういやこの間町で会ったあいつが彼女連れてたとか…。

そして自然と部活の話に。

「翔陽、高校では念願のバレー部に入れたんだろ!良かったな。」

「おう!この間春高の予選やったとこ!」

「メールでは楽しそうな感じだったけど、どうよ?」

「楽しいよ!先輩も優しい人ばっかりだし、同級生はちょっとまあ、アレなんだけど…。」

「何か口悪い奴と性格悪い奴がいるんだっけ?」

「う、…そう。」

若干気まずい気分で目をそらす日向に、コージーも、イズミンも、心配そうに眉をひそめた。

「え、そんなやな奴なのか?」

「大丈夫なの?翔ちゃん。」

「あ、いや、その…。」

メールで愚痴はたくさんこぼしたけど、その相手の一人…つまり口の悪い奴が影山だということまでは伝えてなかった。

二人とも影山を知っている。

たった一度出場できた中学での大会で、たぶん二人の影山に対する印象は最悪だろう。

何しろ自分がそうだったから。

けれど、一緒にバレーをするうちに影山に対する日向の印象はガラリと変わっていた。

勿論その口の悪さに閉口することはあるけれど、日向とは比べものにならないくらいにバレーに対する経験値を持っている。

試合の時、練習の時、ふと疑問に思ったことをまず真っ先に尋ねるのは影山にで、意外と丁寧に答えてくれる。

練習時だって、ミスるとすぐにボゲとか怒鳴るけど、そのあとちゃんと悪かったところを教えてくれる。

日向の不調に真っ先に気付くのも影山だし、うろうろと単独行動する日向に一番に気付くのも影山だ。

「あ、あのな。影山…なんだよ。」

「「はあああ!?」」

「口悪い奴って、あの大会の時の影山飛雄なんだ。性格悪い奴ってのはまた別なんだけど。」

「って!あいつが烏野に?」

「どっか名門って感じのとこじゃなかったのかよ!」

「うん、それは俺もびっくりしたんだけど。」

「え、じゃあ、いじめられてるのか?」

「翔ちゃん、そういうの、先輩とかに言った方がいいんじゃないの?」

「や、違うんだ。全然。いじめとかない、全然ない!むしろこの間とか、喧嘩吹っかけたの俺の方だし。」

「本当かよ!?だってあいつすっげえ睨んでたろ。」

「もともとそういう顔っていうか…。」

「何か怖かった記憶が…。」

「うん、口は悪いんだ。本当に。」

「「………。」」

何となく気まずい沈黙が流れる。

「けどさ。」

イズミンが少し苦笑するように笑った。

「この頃、部活の愚痴とかあんまり送ってこなくなったでしょ。だから、『ああ、うまくやってるんだろうな』とは思ってたんだ。」

「うん、大丈夫。えへへへへ。」

コージーは、本当に大丈夫なのか?といくらか疑うように見ていた。

「影山か…。『3年間何をやってたんだ』って言いやがったろ、あいつ。」

コージーはイズミンよりも影山の印象を悪く覚えているようだった。

「うん。確かにあれはショックだったけど…。一人しかいないから仕方ないって甘えてたなって思って。部活できないんなら、他の手段見つけなきゃいけなかったって。」

「それから、なんだっけ。『勝ってコートに立つのは強い奴だけだ』…だっけ。」

「ああ、そうそう。『強くなってみろよ』って言ってたよね。アレ、俺びっくりしたんだよね。」

「イズミン?」

「何が?」

コージーと日向がイズミンを見るとイズミンは少し気まずそうに日向に謝った。

「ごめん翔ちゃん。あのさ、あの時翔ちゃんはさ、影山を倒すっていうようなこと言ってたでしょ?」

日向自身は一言一句覚えているあの時の言葉も、後ろで聞いていただけのイズミンは言葉自体はうろ覚えで、ニュアンスだけ覚えていたようだ。

「ああ、うん。」

「俺ね、アレ、きっと無理だろうって思ってたんだ。ごめん!ごめんね!」

驚く日向の表情を見て、イズミンが必死に謝る。

「あの時、北川第一との実力の差は歴然としてたし、正直影山は上手かったしさ。翔ちゃんの運動神経とか負けず嫌いの気持ちとかってすごいと思うけど、口で言うほど簡単じゃないんじゃないのかなって思ってた。」

「…うん、それは分かる。」

今なら。

あの時は分からなかった。

そんなことも分からないくらいに、実力の差も経験の差も大きかった。

「俺、バレーのことは分からないけど、バスケは知ってるし…。えと、『強豪』って言われるところって、ただ強いんじゃないんだよね。そりゃ強い選手がいるとか、指導者の違いってのもあるだろうけど、練習の量だって内容だって半端無いんだよ。だからね、影山もさ、強豪であれだけ部員のいるところでレギュラー張って、さらに他校にまで名前が知れるって、すごいたくさん練習してんだろうなってさ。」

「まあなあ。中学のウチは特にな。一部の私立校を除けば、その学区に住んでる餓鬼が普通に通ってるんだもんなあ。」

「翔ちゃんが部員一人でほとんど練習できなかったって事情を知らなくたって、北川第一に比べたら練習不足なのは一目瞭然だもん。あんだけ口が悪い奴なんだから、『お前には無理だ』って言うんじゃないかって思ったんだよね。あの時とっさに。」

「あ。」

「けど、あいつはそうは言わなかった。」

「あ〜〜、まあな。」

「それってさ、『今はまだ無理だけど、強くなったらちゃんと勝負になる』って思ってたのかもしれないし。…多分あいつ、翔ちゃんのこと認めてたんだよ。」

あの時に。

あんな弱っちかったときに…。

あ、やべ、早く会いたくなった。

「それじゃ、お前ら今は上手くやってんだな。」

「上手くっていうか…。初めは喧嘩ばっかりだったよ。それで、先輩に怒られたりしたし。」

「あ〜、そういや4月ごろのメールにそんなこと書いてあったっけ。」

「それが、影山のことだったとはね〜。」

少し思い出すようにする二人。そういえばあれから4か月半経つんだ。

早いんだろうか?それとも遅いのか?

「最近は…。」

合宿であったいろいろ。

そのあとのあれこれ。

そして春高予選の時のあの感覚。

「なんて言うかな…。チームメイトっていえばそれはそうなんだけど。…少し違うかも…。」

「ふうん?」

影山のトスあっての自分。

「相棒って…感じが一番近い…のかな…。」

自分が今、影山に抱いている感情はとりあえずおいておくとして。

今の二人の関係は多分そんな感じ。

「今度さ、10月にまた試合あるんだ。都合ついたら見に来てよ!」

「おう、そうだな。」

「ね、それって全国大会の県代表を決める奴だよね!」

「そ。でさ、強ええ奴がいるんだよ!大王様とか、まゆなしとかさ!後、ウシワカ!」

テンション高くしゃべる日向の話を、時々茶々を入れながら楽しそうに聞いてくれる二人。

いいなあ、友達って!

日向がひとしきり話した後は、二人もそれぞれ部活の話なんかをして…。

「あ、もう3時だ。」

「お、翔陽、この後用事があるっつってたな。」

「うん。時間ある時にシューズとか買っとかないと。俺、すぐダメになっちゃうんだ。後、部の買い出しとかも…。」

「え、買い出しとかってマネージャーとかの仕事じゃないの?」

「うん。二人いるんだけど…一人は3年だから…、俺たち1年で手伝えるところは手伝おうって。」

「ふうん。」

「じゃ、俺行くね。今日は楽しかった!」

「おう。」

「またね、翔ちゃん。」

「うん、また!」

日向は元気よく立ち上がると、自分のトレーを片付けて店を出た。

 


 

 

「何か、楽しそうでよかったな。」

「うん。…同じ年のはずなのに、なんでか俺たち兄みたいな気分で翔ちゃんを見ちゃうよね。」

「ほっとけねーっていうかな…。あ、翔陽。」

窓際に座っていた彼らからは店を出る日向の姿が見えた。

「おおおおお〜い!影山〜〜〜!」

日向は道の向こうへ向かって大声で呼びかけ、ぶんぶんと手を振っていた。

「へ?」

「影山?」

日向の目線の先を見れば、交差点の反対側に背の高いシルエットが…。

「あ〜、アレは目立つわ。」

「去年よりずっと背が高くなったんじゃね?…畜生、うらやましい。」

「ああ、バスケも身長必要だもんな。」

「けど、あれは…恥ずかしいね…。」

「………。」

大声で呼びかける日向、その目線の先の影山。二人ともまわりの注目の的だ。

呆れたようにため息をつく影山。

きまり悪そうにそっぽを向いている。

「アイツ、注目されんのに慣れてるな。」

「そう?………まあ、そうかもね。あの身長であの顔なら、バレーがどうこうってのを知らなくたって目が行くしね。」

「で、王様なんて言われてるくらいだから、大会とか行けば周りから見られんだろうしな。」

「あ、信号変わった。」

「走ってく翔陽が犬っころみたくみえるぞ。」

「頭わしわしされてる。」

「………、仲よくやってるってのは本当みてえだな。」

「俺たちの印象が悪すぎるのかなあ?影山なら、殴るか怒鳴るかくらいするかと思ったのに…。」

何か言っている風だったから多分『街中で大声出すな』くらいのことは言われているのだろうけど、特にもめている感じではない。

日向がポケットからくしゃくしゃの紙を取り出し、二人でそれを覗き込む。

多分、買うものをメモした紙なのだろう。

店は影山が知っているのか、少し前に立つようにして歩き出した。

その隣を日向がついていく。

「………。」

「………。」

 


 

「………なんか………ねえ。」

「畜生。付き合いが長いってのも考えモノだな…。」

日向の表情で分かってしまった。

日向が影山に対して抱いている感情が、所謂『友情』という範囲には収まらないことを。

「えええと、まあ、楽しそうでよかったよね。」

「………おい、それでいいのかよ?」

 

 

 

 

 

 

20140725UP
END

 


時間軸的には、『いっぽ』より前のお話。
後数本吐き出したら、たぶん平常心に戻れるんじゃないかと期待している…。
(20140807UP:月子)