リップクリーム
「あ、かっちゃん。」
昼休み、廊下ですれ違う時に声をかけた。
「んー。」
と言えば、
「…ち」
と小さく舌打ちをしながら制服の上着のポケットからリップクリームを出してボクの唇にグイッと塗ってくれる。
「ありがと。」
「おう。」
そう言い合ってすれ違う。
「…何度見ても慣れんわー。」
麗日さんがため息をつきながら言う。
「そう?」
「仲が良いのは良いことだぞ。」
飯田君の言葉に笑う。
「仲が良いとか悪いとかじゃなくて、昔から何となく続いてるんだよ。」
「……何となく…?」
ぽつりと轟君が言う。
「うん、そういう習慣になっちゃってる感じ。」
冬の乾燥する時期、ボクが『んー』と言えばかっちゃんがリップクリームを塗ってくれる。
代わりにかっちゃんが『おい』と言って手を出せば、ボクがその手にハンドクリームを塗ってあげる。
お互い冬には相手用のリップクリームやハンドクリームを携帯していつでもどこでもさっと塗れる。
きっかけは何だったか忘れちゃったけど、ほんの小さな頃からずっと続いてきた二人の習慣。
相当に険悪だった中学の頃もこれが無くなることは無かった。
だからボクはかっちゃんのことが苦手でも、嫌いにはならなかったのかも知れない。
「…複雑だな。」
「え、何?」
小さくつぶやいた轟君の言葉が聞き取れず聞き返した。
「イヤ…。」
言葉を濁した轟君を麗日さんが小さく笑って見ていた。
「………?」
何だろう?
「俺は緑谷が好きだ。」
「本当?嬉しいなあ、ボクも轟君の事好きだよ。」
少し前にそんな会話をしたことがあった。
そして、なんでか気が付けばお付き合いをすることになっていた。
元々お昼を一緒に食べることは多かったけど、それ以来毎日一緒に食べてるし、勉強なんかも教えあったりしている。
学校帰りも、寮までのほんの少しの距離だけど、一緒に帰ったり。
中学までいじめられっ子で孤立していたボクからは想像もつかない、夢のような生活だ。
夢のようでありすぎて、実感はあんまり湧かないんだけど…。
「あ、轟君。今日、ボク日直だから先に帰って。」
「ああ。分かった。」
そのクラスによってやり方は色々なんだろうけど、A組は出席番号順に二人づつ日直をする。
だから今日、ボクはかっちゃんと日直だ。
放課後、クラスのみんなが帰った後、ボクが日誌を書いている間にかっちゃんが窓の戸締りを確認している。
「済んだか。」
「う、うん、書けた。」
「じゃ、職員室行くぞ。」
「あ、待って。」
鞄を持って行こうとするかっちゃんを呼び止めた。
「今日、かっちゃんにハンドクリーム塗ってない。塗ってあげるよ、手を出して。」
「………。」
「…どうしたの?大抵、戦闘実習の後は塗るでしょ?」
かっちゃんの個性は手から出す。
だからいつも手は大切にしてる。
戦闘訓練で個性を使った後は必ずと言っていいほどハンドクリームを塗っていた…のに、今日は催促された覚えがない。
かっちゃんを見れば眉間に皺が寄っている。
え…何?
ボク何か怒らせるようなことした?
さっきまでは普通だったのに…。
え?ハンドクリーム塗るって話で不機嫌になったの?何で?いつもしてることなのに。
…あ、『塗ってあげる』ってのが偉そうだった…とか?
ぐるぐる考えていると、はあと一つため息をついて、かっちゃんは自分の席に座った。
「ほれ。」
「う、うん。」
出された手にいつものようにクリームを塗っていく。
「デク。」
「何?」
「お前、半分野郎と付き合ってんだろ。」
「うえっ、や、あ、う、うん。」
「何焦ってんだよ。」
「何で知ってんの?」
「クラス全員知っとるわ。」
「へ?」
「バレバレなんだよ。」
『ボクたちお付き合いします』みたいな報告はしてない。
麗日さんとか、飯田君とかいつも一緒のメンバーは気が付いたと思うけど、他の人も…?
「うわあ。」
は、恥ずかしい。
右手を塗り終えて、左手に移る。
「お前、半分野郎が好きなのか?」
「へ?」
『好きだよ』他の誰かに聞かれたのなら、すんなり出てくるはずの言葉が、とっさに出てこなかった。
…何でだろ…?
「…いい人だし…。」
言い訳みたいにそういうと、『そうか』と小さな呟きが聞こえた。
「な、何でそんなこと聞くの?」
一瞬かっちゃんの眼がボクを見た。
とても力強い目だ。
その奇麗さにドキリとする。
けれど、その眼はすぐに逸らされて。
「確認しただけだ。」
「そ、そう。はい、塗り終わったよ。」
かっちゃんはポケットからいつもボクに塗ってくれているリップクリームを出して、コトンと机の上に置く。
「お前に塗るのは終いだ。」
「へ?」
「もう自分で塗れるだろう。もしまだ自分じゃうまく出来ねえって言うんなら半分野郎に塗ってもらえ。」
「なんで、急に…。」
「自分の彼女が他の男にリップ塗ってもらうなんて面白くねえだろ。」
「……っ?」
そんな事轟君は言わないよ。だっていい人だもん。みみっちいかっちゃんとは違うんだ。
今日の昼休みだって別に文句は言わなかったし…。
…そう思って思い出した。
そうだあの時轟君何か言ってた。
本当は嫌な気分だった?
それが分かってたから麗日さんも苦笑してたの?
戸惑うボクを見て納得してないと思ったのか、かっちゃんはさらに言った。
「手前に置き換えてみりゃいいだろ。手前の彼氏が、他の女子に手ェ握られてクリーム塗られたりしたら面白くねえだろうが。」
「………。」
何も言えなくなったボクに『分かったろ』と言うと、ハンドクリームを持って席を立った。
「日誌は俺が出しとく、手前はもう帰れ。」
「………。」
「帰れよ!」
「う、うん。」
ギクシャクと立ち上がったボクを見て、かっちゃんは教室を出ていった。
ボクの机の上には、かっちゃんが置いていったリップクリームがぽつんと置いてあった。
もうかっちゃんがこれを塗ってくれることはない…。
リップを制服のポケットに入れた。
そこにいつもあったハンドクリームはもうない。
ボクがかっちゃんにハンドクリームを塗ってあげることもなくなる…って事…?
混乱した頭のまま、ぼんやりと教室を出る。
頭の中がぐちゃぐちゃで、何も考えられない。
ノロノロとした歩みでも同じ敷地内にある寮には程なくついてしまう。
見えてきた寮に思わず足が止まった。
あの中には轟君がいる。
そして、ボクと轟君が付き合っていることを知っている人たちがいる。
一体どんな顔をして入ればいいのか…?
そう思ったらとっさにUターンしていた。
足が向かったのは、いつも一人で考え事をしたいときに行く場所。
ランニング用にと設定されているコースの、すぐそばにある大きな茂みの奥。
それほど高くない木がいくつか重なるように植えてあり、裏に入り込んで座ってしまえば誰にも見られない。
ボクがこんな場所に時々来てるなんて、知っている人はいないはずだ。
ここなら見つからない。
そう思ったら心底ほっとして体の力が抜けた。
まとまらない思考の中で、さっき思い描いた光景だけがぐるぐるとまわる。
かっちゃんが『自分の彼氏が…』と言ったとき、思い描いたのは轟君じゃなかった…。
何で…?
それからどれくらい時間がたっただろう。
不意に目の前の茂みがガサガサとかき分けられ、般若のような顔をしたかっちゃんが立っていた。
「…え?」
「こんのクソデク!何やってんだ、こんなところで!」
「かっちゃん?」
「もう晩飯の点呼の時間だぞ!」
「ウソ…。」
慌てて辺りを見回せば、とっくに薄暗くなっていた。
「…何で…。」
「寮では手前が帰って来ねえって大騒ぎだぞ。」
ボクとしてはなんでこの場所が分かったのかって聞きたかったんだけど、かっちゃんは探しに来た理由の方を答えた。
「あ、ごめん…なさい。」
「いいから、とっとと行くぞ!」
イライラと声を張るかっちゃん
夕食の時にきちんと寮にいることを申告する点呼が行われる。
それはきっちり19:00に…といった厳しいものではなく、夕食を摂るべき時間内に申告すれば良いというものだったけれど。
以前時間外に抜け出した前科のあるボクとかっちゃんは、相澤先生から若干キレ気味に『誠意を見せろ』と言われているので、いつも比較的早めの時間に申告をするようにしていた。
だから、早く戻りたいかっちゃんの気持ちは分かるけど、ボクはこんなモヤモヤしたままでは戻りたくない。
「さっきのかっちゃんの話、良く分からないよ。」
そう呟けば、かっちゃんは『はっ』と馬鹿にするように嗤った。
「簡単な話だろうがよ。一人の男を彼氏と決めて付き合うんなら、そいつに操立てしろってこった。」
「かっちゃん。」
「何だ。」
「言葉のチョイスが古いよ。」
「ち、分かってんだよそんなこたぁ。手前が勘違いしねえように言ってんだろうが。」
「え?」
「手前にはオブラートに包んで言ったって伝わんねえからな。『彼氏を特別扱いしろ』って言ったって『自分の中では特別に思ってるから今まで通りでOK』って考えかねねえだろうが。」
「うっ。」
「俺だったら、自分の女が他の男にリップ塗られたり手ェ握ったりなんて許せねえしな。」
かっちゃんの口から出た『自分の女』という単語にドキリとする。
「まあ、こういうのがどこまで許せるかってのは人によって違うもんだ。半分野郎がどう思ってるのかは俺には分かんねえし。」
「………。」
「とにかく戻るぞ。」
そう言ってかっちゃんは、座り込んでいるボクの二の腕をつかむとグイッと引き上げて立たせた。
「でも、かっちゃん。…ボク、これからどうすればいいの?」
「知らねえよそんな事。俺に聞いてどうすんだよ。それこそ半分野郎と話し合え。」
「………。」
「ったく、揃いも揃って。」
「え?」
「あいつ、何でお前関連のネガティブな話は全部俺に持ってくんだよ。俺はお前の担当者じゃねえっつーんだ。」
肩を怒らせて寮へ戻る背中に続いて歩く。
………あいつ?
「今度から何か言われても全部半分野郎に丸投げしたるわ、クソが。」
……え?
それはもうボクとは関わってくれないって事?
そう問い詰めようとしたとき麗日さんの姿が見えて、とっさに声が引っ込んだ。
「言っといたからな。」
「…うん。………ごめん。」
そんな言葉を麗日さんとかっちゃんがすれ違いざまに交わす。
「デクちゃん、心配したよ!」
「あ、うん、ごめん。」
小走りに駆け寄ってきてくれた麗日さんは。
「汚れてるよ。」
そういって、パタパタと制服を払ってくれる。茂みの中にいたからか、小さな葉っぱや埃があちこちに付いていた。
「…ありがと。」
「ううん。さ、夕食食べよ。」
「うん」
寮へ戻ると、入ってすぐの共用スペースのところに轟君がいた。
やだよ、顔が見れない…。
轟君はとてもいい人なのに。なのに、轟君と付き合っていたら………。
「夕食の後、少し時間いいか?」
「…うん。」
逃げちゃだめだよね。
ちゃんと話し合わなきゃ。
かっちゃんにもちゃんと話し合えって言われたし。
手洗いうがいをしてぱぱっと私服に着替えて、急いで食堂へ行けば、点呼にはちゃんと間に合った。
女子たちと一緒に食事をして、そこに時々上鳴君や峰田君がちょっかいかけてきて…。
そんないつも通りの夕食を終え、少し気持ちが落ちついた頃、轟君に呼び止められた。
共有スペースにはまだ人がたくさんいたので、寮の入り口の下駄箱のところで話す。
「さっき、どこにいたんだ?」
「え、あ、ランニングコースの脇の方にある茂みのところに…。」
「…そんな所、有るのか…?」
「あ、うん、ランニングしてる時に見つけて…。」
「爆豪はそこを知ってるのか?」
「ううん。教えたことは無いよ。なのに来たからボクもびっくりして…。なんで知ってたんだろ?」
「………。」
そう答えると、轟君はしばらく何かを考えているように黙っていた。
き、気まずい…。
「さっき、緑谷が戻ってこないって騒ぎになった時、飯田に言われたんだ。『付き合ってるんだろう?居場所に心当たりはないのかい?』って。」
「………。」
「色々考えたが、まったく思いつかなかった。」
「………。」
「夕食の時間が近くなって爆豪が部屋から降りてきて、麗日とかから居場所を問い詰められてた。初めは日直の仕事を押し付けて、置いて来たんじゃないかと疑われてたな。」
「それは、悪いことしちゃった。今日はかっちゃんが日誌を出してくれたのに…。」
「けど、すぐに見つけた。」
「………うん。」
「探してる様子はなかった。初めから居場所が分かってたみたいに迷わず歩いて行った。」
「…そうなんだ…。」
「…敵わねーなと思った。」
「…轟君?」
「緑谷が俺を好きだと言ってくれた時、本当言うと恋愛感情の好きより友達としての好きなんだろうなってことは分かってた。」
「…ェ?」
「けど、これから時間をかけて付き合って行けば、いつかは俺の事を本当に好きになってくれるんじゃないかと期待してた。」
「………。」
「付き合うという事にしておけば、他の男が緑谷に近づくことも無くなって、ゆっくりと仲を深めていける…と勝手に思ってた。」
「…………。」
「そうやって緑谷を囲い込んで自由を奪っていずれ自分のものに…なんて…卑怯だよな。」
「そんな。自分を責めないで、ボクだって同罪だよ。『好き』ってことが『付き合う』ってことがどんな事かも良く分からないのに承諾しちゃって…。ちゃんと分からないって言えば良かったのに…。」
「だから、付き合うっていうのは無しにしよう。」
「へ?」
「ちゃんとお互いの気持ちが同じ方向に向いてなければ、上手くいくわけがない。」
「…そ、だね。」
「本当、悪かった。」
「ううん、僕こそ。」
お付き合いは解消する。という事でその場を離れた。
心の中がズキズキするけれど、どこかでほっとしてもいた。
やっぱりボクに『異性とのお付き合い』はまだハードルが高かったのかも知れない。
埃まみれの体を早く流したくてすぐにお風呂に入った。
戻ってくる時。共有スペースの隅。自販機の陰になっている所の方から、麗日さんと轟君の声が聞こえてきた。
「…私、余計なことしちゃったね。」
「確かにリップやハンドクリームの件は複雑な気持ちだった。けど、急にやめさせたりってつもりはなかったんだ。」
「そうなの?」
「緑谷の気持ちがまだはっきりしていないのは分かってたから、時間をかけるつもりだった。緑谷自身が、彼氏じゃない男にリップを塗ってもらうのはおかしいと気付くまで待つつもりだった。」
「そっか…、ごめん。」
「俺と緑谷の事、心配してくれたからなんだってのは分かってる…けど、それなら君が緑谷に言っても良かったはずだよな。女同士なんだし、よっぽど話しやすいだろ。」
「………。」
「なぜ爆豪に言わせたんだ?」
…え、かっちゃん…に、言わせた?
「君が爆豪に言ったんだろ。おかしいって付き合ってる訳でもない男女にしては距離が近すぎるって。」
「………。」
「アイツを好きだからだろ。」
「っ。」
え?
「爆豪に、緑谷は俺と付き合ってるんだから今まで通りに接していたらダメだと釘を刺したつもりなんだろ。」
「そう…なるね。」
「そうやって俺と緑谷が上手くいけば、爆豪も緑谷を諦める。そうなれば自分が…そういう事か?」
「…そこまで性悪じゃないつもりだけど…。うん、心の隅ではそう思ってた部分もあるかも知れない。そうなれば、少しは私にもチャンスはあるかな…って。」
そういった麗日さんの声が震えた。
「さっき、『酷ェことするな』って切島君に言われちゃった…。……私…自分の事しか考えてなかった…。」
「…それは俺も同じだ。もとはと言えば、俺が無理を通したのが良くなかったんだ…。」
ボクはそっとその場を離れた。
麗日さんがかっちゃんを好きなんて全然知らなかった。
けど、かっちゃんも体育祭で戦ってから、彼女には一目置いているようだった。
さっき言ってた『あいつ』って麗日さんの事だったんだ。
ゾクリ、と背すじが震えた。
あれ、おかしいな、今お風呂で温まってきたばかりなのに…。
部屋に戻っても落ち着かない。
やらなくちゃいけない課題も、今日のヒーローニュースを分析することも、何も手につかない。
ただ、かっちゃんから渡されたリップクリームをじっと眺めつつ手でもて遊ぶ。
かっちゃんに会いたい。
けど会ってどうするの?
轟君とは別れたって報告する?
そんな報告いらないって言われるかな?
手のかかる幼馴染の世話を焼かなくて良くなったら、かっちゃんも彼女を探すのかな…。
麗日さんとか…?
そう思ったらリップを手に走り出していた。
本当は入っちゃいけない男子のスペースへ行き、そのまま4階へ上がった。
ありがたいことに、誰にも会わずに済んだ。
緊張のあんまり少し手が震えたけど、そっとかっちゃんの部屋の戸をノックした。
「誰だ、うるせえ。」
ガチャリと戸が開きかっちゃんが出てきた。
「デク?」
「う、うん、あの、話があって。」
「俺には無ェ。」
「お願い!」
ち、と小さく舌打ちをして中に入れてくれた。
「で?」
「あ、あの、かっちゃん」
リップをグイッと差し出す。
「またボクに塗って!」
「お前…。」
「轟君とのお付き合い、無しになったから。」
少し驚いたようだったけど、やっぱり不機嫌そうな声でかっちゃんは言った。
「次の男が見つかるまで俺に塗れってか。」
「ち、違うよ!」
そうじゃない、そうじゃなくて。
「ずっとかっちゃんに塗ってほしいんだ!」
だって気が付いちゃったから。
かっちゃんが他の女の子を『俺の女』って言うのはいやだって。
かっちゃんのことが好きなんだって。
「好き…だから…。」
そういったら、グイッと腕を引かれてギュッと抱きしめられた。
「後になって幼馴染の好きだって言っても聞いてやんねえんからな。」
「言わないよ、そんなこと。」
かっちゃんの腕の中でかっちゃんの匂いに包まれて、幸せな気持ちになる。
ちゃんといるべきところに居られるという安心感。
クイっと顎をもちあげられ、チュッとキスをされる。
時間をかけようとしてくれた轟君と違って、展開が早すぎない?
すっごいドキドキした。でも、イヤじゃなかった。
ボクに『お付き合い』は早い…って思ったけど、感じていた実感の無さはかっちゃんじゃなかったから………?
そう思った時。
「ああ、クソ!」
とかっちゃんがイラっとした声を出す。
「へ?」
「ガサガサかよ、手前。」
「は?」
ボクの手から無理矢理リップを奪い取り、グイっと塗ってくれる。
あ、昼休みからずっと何の手入れもしてなかった…。
「…ったくしょうがねえな、デクは。」
けど、これからは大丈夫。
『ん』っていえばかっちゃんがリップクリームを塗ってくれるから。
20180201UP
END