夏の幻
※「黒子のバスケ」火黒風味
ダムダムダム…
ピー
ワァー
会場の中は、熱気が渦巻いていた。
2階席からコートを見降ろして、選手の熱に、そして応援する観客の熱に、浮かされそうになる。
コートの中を走る選手は、いわゆる『プロ』の選手たちだったけれど。
ボクの脳裏に映し出されるのは、………彼らだった。
高校の先輩、同級生、後輩…たち。…そして…。
熱い空気。
バウンドするボール。
キュッと床をかけるシューズ。
乱れた呼吸。
汗の匂い。
笛の音。
カントクの声。
チームメイトの声。
そして………。
『黒子!!』
ボクを呼ぶ声…。
『ボクはいきません』
『だって、ボクの体力は…プロでは通用しませんから…。』
そう言った時。
彼が、とっても悔しそうな眼でボクを睨んだから。
ボクよりもずっと、悔しがってくれたから…。
だから、ボクは『もういい』と思えたんです。
君が認めてくれたのなら、それで満足だ…と。
『諦める』というのとは、少し違う満足感を抱いたはずなのに。
コートの中を自由に駆け回る君を見ていると…やっぱり少し悔しい。
ああ、ボクならここでパスを出すのに。
このときに、後ろに回って………。
なんて。
考えてもせんないことを考えてしまう。
数年前は、一緒に走っていたコート。
今のボクからはこんなに遠い…。
これがプロになるってことなのかなぁ…。
数年前まで、同じ教室で同じコートで、同じファーストフード店で過ごしていたなんて信じられないくらいだ。
ピーーーー
試合終了のホイッスルが鳴った。
ボクはそっと席を立った。
地味なことには自信のあるボク。
彼だって、2階席の(最前列だけど)ボクになんか気付くはずがない。
このまま会場を後にしようと、一歩踏み出したとき。
「黒子!!」
ちょうどボクの真正面のコートの上で、仁王立ちになった彼がこっちを見ていた。
「黒子!!勝ったぞ!!!」
ああ、子供みたいに無邪気に笑う笑顔は昔のままだ。
「うん。おめでとう!」
ボクに気づいてくれていたんですね。
「控え室、来いよ!さっき先輩たちも来てたんだ!」
「はい。」
ボクはちゃんと笑えているだろうか?
君がボクを忘れていなかったことが。
君がボクを見つけてくれたことが。
こんなに嬉しいなんて!!!
懐かしい埃の香りのする彼にサヨナラをして、ボクは現実の彼のもとへと急ぐ。
あのアツかった夏は、もう戻らないけれど。
又、新しい季節が廻ってくる。
20100301UP
END