あなたのために
「あ゛〜〜つ゛〜〜〜い゛〜〜〜」
「止めてくださいよ銀さん!言えば言うほど暑くなるじゃないですか!」
「そうアル!今年こそクーラー買うべきネ!」
「そんな金がどこにあんだよ。家賃払うのすらここ二カ月してねぇのに」
「銀さんが仕事しないからでしょ!どっかで仕事探してきて下さいよ」
「嫌だよ。こんな暑い日は動かないで家でごろごろしながらアイス食ってんのが一番なの」
「銀ちゃ〜ん…もうそのアイスを買うお金すらないアル」
「まじでか」
子供らに追い出されてしまった俺は、涼を得ようと銀玉がころころ転がる涼しげな場所に行くことにした。
それにしても暑ぃ…。何これ、何なのこれ。まだ七月に入ったばっかだよね!?それなのにこの暑さ!八月の夏本番にはいったいどんだけ暑いの!?
しかも日本の夏っていうのは湿度が高くてじめじめしてて服は肌に貼りつくし…。
ここはきゅーっと良く冷えた冷酒でも一杯いきたいとこだけど…金がねぇ。
あ〜あ、こりゃ上手い具合にマリンちゃんがデレてくれねぇと明日生きてるかどうかすら定かじゃねぇな…。
日差しが熱くて速く歩きたいけど、汗が出て暑くてなかなか足が進まないという悪循環の中、てれてれと歩いていた俺の目の前に最近会えていなかった俺の愛しい十四郎がいた。
喜びで暑さを忘れた(一瞬だけだけど)俺は構ってもらおうと十四郎に駆け寄った。
「とーしろーvv」
「え、うわ、銀時!?」
ぎゅうぅぅぅっと抱き締める。ああ、これこれこの感触。これがないと銀さん生きてけないの。暑いけど、そんなもんが気にならないくらい会いたかったんだもん。
「ちょ、銀時、暑い。離せ。仕事中だ!」
「えぇ〜?いつ終わるの?っていうか最近会えなくて寂しかったんだけど。十四郎は寂しくなかったの?」
「そ、そりゃ俺だって寂しかったけど…」
「ならこれか」
「はいはい、旦那ぁ。仕事の邪魔すんの止めて下せぇ」
「だぁって〜。会いたかったんだもん!」
「可愛子ぶりっこも止めて下せぇ。俺たちゃこれからあそこに突入するんでねぃ」
十四郎に抱きついていた俺を猫の子でも持ち上げるように首のところで掴んで引き離した沖田君は、くいっと親指で少し先にあるビルを指し示した。
「この暑いのに大変ね〜」
「そうでさぁ、この仕事馬鹿の所為でねぃ」
言葉では文句を言いつつもにやりと笑う沖田君はどことなく楽しそうだ。
相変わらず斬った張ったの好きな子だねぇ…。
「あ、ということはこれ終わったら休みとれるの?」
わざと十四郎が弱いと知っているきらきらした目で見つめると、頬を赤く染めた十四郎は小さく頷いた。
「事後処理と書類整理やって…三日後には休める…と思う」
「そっかぁ…じゃぁ銀さんそれまで大人しく待っててあげる」
にっこりと笑ってあげると十四郎の頬の赤味が更に増す。
本当に素直で可愛い子だこと。
頭でも撫でてあげようかと思ったその時、ジミーが駆け寄ってきた。
「副長、突入準備整いました!」
「そうか。じゃぁ、またな」
一瞬で俺の恋人から副長に戻った十四郎が隊士たちに命令を下すためにすたすたと歩いて行くのを見守った。ああいう格好いいところも好きなんだよねぇ。
突入の邪魔になりかねないので俺は当初の目的通り銀玉を転がしに行ったが…結果は惨敗。
くそー、あそこでマリンちゃんがデレてくれていたなら今頃は…!
しっかしもうすぐ夕方だってのにまだ暑いな…。異常気象なんじゃねぇの!?
ぶつくさと呟きながら来た時と同じ道を歩いていた俺は、事後処理が行われていることに気付いた。
隊士たちの中に十四郎の姿が見え、声を掛けようとしたその時。
「全く恐ろしいわねぇ…。武装警察だなんだと言ってるけれど自分たちだって似たようなものじゃない」
「本当に。あんな人たちが町を歩いていると思うとこっちはゆっくり買い物もしていられないわね」
真選組を非難する金持ち風のおばさんが二人、俺の後ろで話していた。
それも聞こえよがしに。思いきっり耳に入ったらしい十四郎がこっちを向く。
あ、しかめっ面。
あれは…あれだな。『銀時に嫌なもん聞かせちまった』っていう顔だな。
自分が悪口言われることより俺がそれを聞いて嫌な思いをするほうが嫌だと思ってる顔。
こんなに暑いのに、何でお前はそんなに頑張れるの?
と、言うことで聞いてみた。
事後処理を終わらせて帰ろうとしている十四郎を捕まえる。
きっちり隊服を着込んでいる所為で汗がだらだらだ。あ、エロイ。
「何だよ?」
「いや、ちょっと聞きたくなって」
「…?何をだ?」
「何でそんなに頑張っちゃえるのかねぇ?」
「…さっきのあれか。…そうだな、確かに感謝はされねぇし、むしろ嫌われてるし、隊服は夏服がないから暑いし、屯所にゃ勿体ないっていう理由で扇風機しかねぇし、上司はストーカだし部下はドSだし、もう一人の部下は突入直前にカバディがどうのミントンがどうの言い出す奴だし、さっきも突入中に総悟がぶっ放したバズーカで壊した店の店主には睨まれて恨まれたが…それでも誰かがやらなきゃならねぇだろ」
咥えていた煙草を離し、溜息を吐くみたいに煙を吐き出した十四郎はとてつもなくエロイ顔でにやりと笑った。
「誰かがやらなきゃいけねぇんなら俺がやる。憎まれるのも恨まれるのも嫌われるのも構わねぇ。江戸の平和を守るだなんだと恰好つけるつもりはねぇが攘夷だなんだと口実つけて暴れ回る奴らよりかましだろ?大義名分貰って暴れられるんだ。一石二鳥じゃねぇか」
「…嘘吐きー…」
「あ?今何か言ったか?」
「なーんにも。相変わらず俺の恋人は暴れん坊だなぁと思っただけでーす」
本当はそんな風に思ってない癖に(いや、ちょっとは本気かもしんないけど)はっきり正義を口に出来ない照れ屋なお前を知ってるよ。
ああああもう!!可愛い上に格好良くて最高の男前だよ、お前は!
何か暑いからって仕事してねぇ俺がみっともなく思えてきた!
「ぃよっし!」
「うぉ!何だいきなり。でけぇ声出すなよ」
仕事探そう!そんでしっかり働いてクーラー買う!
『屯所にクーラーないならうち来る?』って言うために。
頑張るお前を俺だけは甘やかしてやりてぇから。
「俺頑張るからね!」
「はっ?…まぁ、何だ、頑張れや…。暑さでおかしくなったか?」
十四郎が頑張ってんだから、俺はその恋人の名に恥じないような男にならなくちゃいけねぇよな!
そして俺が頑張って働いた結果…。
「それでは、家賃の回収終了いたします」
「あぁぁぁぁぁ!!クーラー買う金がぁぁぁ!!」
溜めた二カ月分の家賃に消えました。
ついでに言うならクーラーは十四郎君に買って貰っちゃいました。
…うぅっ!
おわり