宙を漂う煙には、もう慣れた。

何時からか、それを見ていないとどこか落ち着かなくなっている自分がいた。

 

 

 

タ バ コ

 

 

 

 馴染みの喫茶店で、何時ものようにタバコをふかす。

忙しいだけの日々での数少ない休息時間。

オレは大抵こうして過ごしている気がする。

苦いが上手いコーヒーを相手にして。

 

 「コーヒーのお代わりはいかがですか?」

 「あ、ども。もらいます」

 

 すっかり顔見知りになったウェイトレスの子が、静かにお代わりを注いでくれる。

その間も、オレは煙を吐き出していて。

ゆらゆらと舞うそれが、疲れを癒してくれているような感覚。

 視線だけで天井へ上がっていく紫煙を眺めると、すぐ横から声をかけられる。

 

 「煙草。何時も吸ってらっしゃいますよね」

 「あ、ああそうかも。コレがないと落ち着かないんスよ」

 

 ふわりと優しく微笑まれる。

つい上機嫌になってしまう自分に呆れつつ、にっと笑って返す。

彼女にとっては、ただの常連客ってだけなんだろう。

 

 短くなってしまったタバコをぎゅっと灰皿に押し付けて、新しいものに火をつける。

間をおかず、慣れた手つきでそうする自分に少しだけ苦笑しながら。

 ホントにいつでもどこでもってくらいに吸ってるよな・・・。

 

 「ふふ。ほどほどにしてくださいね?煙草もコーヒーも」

 

 軽やかに行ってしまったウェイトレスの子は、チェーンスモークをするオレにそう言ってくれたんだが。

 

 どうしても、止められない。

減煙も考えたが、失敗した。

はじめは何となく、口寂しくて。

けど、気が付くとすっかりヘビースモーカーって呼ばれるほどになってしまっていた。

 

 周囲には、事あるごとに止めろ、減らせ、傍で吸うなと言われている。

 『コレはもう、オレの一部なんだよ』

 そう言うと、大抵のヤツは納得するんだがな。

 給料日前でもタバコだけは切らさないオレを、以前付き合っていた彼女はとても嫌がった。

『ジャンは煙草がないと生きていけないの!?』ってさ。

 

 あの時は否定したけど、マジでコレがないと生きてけないかもなぁ、オレ。

 そう思いながら、また紫煙を吐き出す。

ふう、と溜息にも似た仕草。

空気に溶け込むには時間のかかる煙は、オレをからかうように顔の周りにまとわりついた。

 

 ゆらり、と漂うそれに、うっとうしさよりも安堵を覚える。

きっと自分にとって、タバコは最高の精神安定剤ってことなんだろう。

 

 

 

 

 END

 

 

 あとがき

 ハボックが偽者くさいです。彼はやっぱり煙草のイメージが強くて、最初はこれを書こうと決めていました。
 恐れ多くも、大ファンの月子様に捧げたいと思います。
 月子様の書かれる小説にはとてもとても遠く及びませんが、貰ってくださると光栄です。

 セラフィナ

 

 


 セラフィナさんが、小説を書き始めましたとご報告くださってからと言うもの。
 『早く書け』との無言の圧力をかけまくりまして、無理矢理に強奪いたしました。
 当たり前ですが月子の書くハボとは、又違って新鮮ですね!
 セラフィナさん。ありがとう御座いました!
 (06、09、14)