「やさしいシリーズ」の日常の1コマ。

 

 

 

 紙ヒコーキ

 

 

 

 視界のスミを何か白いものが横切って、リアーナはふと顔を上げた。

 次いで、ハボック・ブレダ・ファルマン・フュリーも何事かと顔を上げる。

「大佐ぁ。遊んでないで、仕事して下さい。」

 リアーナが溜め息交じりに声を上げた。

 横切った白いものは紙ヒコーキで、作って飛ばしたのはマスタングであった。

 今日はお目付け役のホークアイが非番なので、全員で見張ろうということになり。マスタングも指令室での事務作業となったのだ。

 先程までは大人しく書類に向かっていたというのに、もう飽きたらしい。

「気持ちは分かりますが、やらなきゃどんどん増えてくだけっスよ。」

 同じく事務作業が決して好きではないハボックが、煙草の灰を灰皿に落としつつ言った。

「溜まらないうちに処理してしまえばいいのに、山となるまで置いておくから余計に嫌になるんですよ。」

 と、ブレダが言い。ファルマンもフュリーも尤もだと頷いた。

「だがね、君達。あまりにも、不経済だろう。」

 ぶつくさ文句を言う上官に、皆小さく溜め息を漏らす。

 確かにマスタングの机の上に山と積まれた書類のうち。3分の1は彼を気に入らない者からの嫌味&言いがかりで、3分の1は形式的にただ各部署を回るだけの書類。本当に重要なのは残りの3分の1程度である。

 幾ら元来は有能で、一度見れば書類の全てが頭に入るマスタングとはいえ。そのうちの3分の2が決して必要ではないとなればうんざりするのも分かる。

「…いまさらでしょう?そんなの。」

 内心同情する男達に比べ、リアーナは容赦が無い。

「無駄な書類を作成しなくちゃいけない私たちの方が空しいんですから。とっとと仕事をして下さい。」

 要はサボる口実なのだということは明白なので。

「どの位終わったんですか? 定時までに上がります?」

 リアーナが席を立ってマスタングの机まで行く。

「何だ、お前達。今日はデートか?だったら、絶対に残業させてやる。」

「何言ってんスか。俺、今晩夜勤です。」

 一緒に仕事しますか?と言えば、男と一緒に残業など嫌だとむくれる。

『だ・っ・た・ら・仕・事・し・ろ・!』

 全員の心の叫びは一応心の中だけに留めておいて…。

「ああ、結構終わってるじゃないですか。ブレダ、これチェックして。」

「おう。」

「…って、大佐。人が見てる目の前で紙ヒコーキ作んないで下さいよ。ちゃんと終えないと、明日中尉に…。」

 不自然に止まった言葉に何事かと皆が注目する。

「…うわぁ。始めてみた。」

「そうか。私なんて、しょっちゅうだぞ。」

「さすがですねぇ。」

「何がだ!」

「それで、紙ヒコーキなんて作ってるんですか?」

「他に何の使いようがある。」

「あ〜〜。無い…かもしれませんねぇ。…へえ〜。」

 山の上から一枚書類と思しき紙を取り上げしげしげと見るリアーナ。

「うっ。ちょっと、寒っ。」

「え…何だよ?」

「大佐宛の…。」

「ラブレター?」

「そ。」

「そんなの、珍しくねーじゃん。」

 リアーナと付き合い始めるまではモテるマスタングがとっても羨ましかったので、どの位貰っているのか結構チェックしていたハボックはつまらなそうに言った。

「え。でも、これ男からよ?」

「え゙っ。」

「マジ?」

「本当ですか?」

「うわあ。」

 全員がどっとマスタングの机の周りに集まる。

「わ、本当だ。」

「え、こっちもっスか?」

「スゲエ。」

「男の人にもモテモテね。大佐。」

「全く、嬉しくは無いがな。」

 むくれつつも、又一つ紙ヒコーキを折り上げひょいと飛ばす。

「…大佐。ヘタクソ。」

「何だと!」

「私の方が、上手いです。1枚下さい。」

 リアーナが紙を一枚取り、マスタングの椅子の方へ回る。

「半分どいてください。」

「何だね、君は。」

 不機嫌そうに言いつつも、リアーナに椅子を半分明け渡すマスタングは結構人が良い。

 お互いに可愛い妹。出来の悪い兄。程度の認識なのは分かるが、一時二人の仲を疑ったことの有るハボックにしてみたら苦笑いするしかない。

 手早く折ったリアーナがツイと飛ばせば、マスタングのものより明らかに安定しており、壁にコツンと当たって落ちた。

「ちっ。」

「俺の地元じゃ、こう折ったんだけどな。」

 そして、それぞれ思い思いに紙ヒコーキを折り始めた。

 飛んだり飛ばなかったり色々だったが、一番飛ばなかったのはマスタングのもので。むくりとむくれる。

 そのうち、不必要な書類や男からのラブレターが底をつき必要な書類のみが残った。

「ああ。楽しかった。」

「いい、休憩でしたね。」

「気分転換になりました。」

 満足して席に戻る部下達を憮然と見る。

 部屋のあちこちに落ちている紙ヒコーキ。一人でのんびり折りたかったのに。(つまり、ダラダラとサボりたかったのに)

 ふと見れば、部下達はもうすでにペンを持ち書類に向かっている。

 全く、ON・OFFの切り替えの早い奴らだ。

 一番切り替えが早い上、その差が極端なのは自分なのだが。そんなことは棚に上げて溜め息をつく。

 何だかんだ言って、一人で置いておかれるとふてくされるマスタングを時々こうやって皆で囲んでわいわいやるのはいつものこと。

『仕方が無いな、仕事するか』

 幾分高さが低くなった書類の山から、1枚とって目を通し始めた。

 

 

 

 

 

 

20060301UP
END

 

 

 

 

なんてこと無い日常の話。
だからなんだといわれると、とっても困ります…。ので、目立たぬように下のほうへ。
カプなし同然なので、別口でUPしました。
一応、「サイト内衣替え、やったね春だよ記念SS」ということで…。
(06、03、01)