「Angel’s Wing」の設定。イーストシティにて。

 

 

 

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 イーストシティで行われている、『ジュディ・M』のコンサート。

 警備をするのは勿論、東方司令部の面々であった。

 さらに今回は中央から所用で出張して来ているヒューズも加わり、警備本部のテントはいつにも増して賑やかだった。

「いやあ、お嬢も大きくなったよな。」

 おっさん臭く言ったのはヒューズだった。彼はいつも、ジュディのことを『お嬢』と呼ぶ。

 マスタングが仕官学部へ編入してすぐに友人となり、その妹であるジュディ・マスタングに紹介されたのは、まだ彼女が6歳か7歳の頃。

 現代の歌姫ともてはやされつつも、驕ることの無い彼女はますます歌にも容姿にも磨きがかかってきた。

「心配だねえ、お兄ちゃん。」

「うるさい!」

 親友同士の軽口に苦笑するのは、その後ろに護衛として張り付くハボック。

 まだたった3歳の娘の結婚問題を、本気で心配する親バカと。

 最近富に綺麗になってきたと評判の妹に、実は恋人が出来たのではないかとオロオロと心配するシスコンは。

 ハボックから見れば、全く似たもの同士。

どっちもどっち、好きにやってくれ…である。

「…しかし、なあ。お嬢といえば…。」

 溜め息つきつつ口を開くヒューズ。

「俺、初対面の時。大泣きされたんだよなあ。」

「お前の胡散臭さは子供の目から見ても、顕著だったのだろうよ。」

 マスタングはすまして言う。

「何を言う。俺は昔からお子様には大人気なんだぞ。子供に泣かれたのは、後にも先にもお嬢ただ一人だ。」

 しかも、兄の後ろに脱兎のごとく隠れられたというショッキングなおまけまでついている。

「おかしいっスね。俺は、最初から懐かれましたよ。」

 ジュディ曰く『二人目のお兄ちゃん』であるハボックは得意気に胸を張った。

「あの頃11歳だったんスから、まだまだ『子供』の年齢ですよね。」

 初対面からジュディが懐いたからこそ、イシュバールでの護衛にハボックを抜擢したのはヒューズ自身なのだが。

 面白くないものは面白くない。

「だから、お前の胡散臭さを瞬時に見極めたのだろう。ジュディは勘が良いからな。」

 結局は妹自慢で話を終えてしまった、マスタングに『お前なあ』とヒューズはがっくりと肩を落とした。

 なにやらぶちぶちと呟いて落ち込んでいるヒューズを見やりつつ、マスタングとハボックは一瞬視線を合わせた。

 それは共犯者の目。

 

 当時二人暮らしを始めてまだ間がなかったジュディにとって、兄が世界の全てであった。

 初対面で『兄の大切な友人』となるであろうヒューズの人柄を見抜き、この人に兄を取られてしまうのではないかと不安に駆られてしまった…というのが大泣きした理由。

 決して、ヒューズを嫌悪したわけではないのだ。

 むしろその存在を認めたからこその涙だったと言って良い。

 マスタングもハボックもそのことを知っているが、本人に伝える気は毛頭無い。

 何しろこの男の家族自慢は実にはた迷惑で…。

 どうにも耐えられなくなった時に、この『ジュディ大泣き事件』を持ち出せば途端に落ち込んで家族自慢がどこかへ行ってしまうという。まさしく、伝家の宝刀なのだ。

 この件で自信を取り戻してしまったら、もう他にこの男の家族自慢を止める手立てはなくなってしまう。

 流れるジュディの歌を聴きながら、『もう少し落ち込んでいてくれよ』と願う主従だった。

 

 

 

 

 

 

20060308UP
END

 

 

 

エド出てません。すみません。
ジュディの話は、「同一設定別人格」でエドバージョンとハボバージョンがあるのですが。
初対面の時、ハボには懐きヒューズには大泣きして大佐の後ろに隠れたというのは共通のエピソードです。
ただ、どちらの話でもヒューズとの出会いのシーンは入る場所が無かったので、ここで。
(06,03,08)