「やさしいシリーズ」の設定で。リアーナ誕生日の前日。
薔薇の花束
「トウエン少尉。」
「はい?」
「そういえば、明日は君の誕生日じゃなかったかな?」
「はあ、大佐。さすが、女性の誕生日は良く覚えてますね。」
「当たり前だ。」
何故か胸を張るマスタングにクスリと笑う。
仕事柄、東方司令部内のほとんどの職員の履歴を見られる立場にいる彼は。女性に限らず案外部下のデータは良く覚えていた。
今、指令室はマスタングとリアーナの二人だけだった。
ホークアイが席を外しているのを幸いに、仕事に飽きたマスタングがリアーナを相手に気分転換でもしようと話しかけてきたのだろう。
どうせすぐに仕事に戻れと言ったって聞きやしないので、少し付き合うことにする。
「何かくれるんですか?」
「そうだな。花束でも贈ろうか。」
「食べられませんね。」
「最近は食べられる花もあるそうだが…。食べ物のほうがいいのか?」
「いえ、そういう訳では…。花も好きですよ。…ただ…。」
「…何だね?」
「大佐のことだから。赤い薔薇の花束とか贈られそうで…。」
「何か不満かね?」
「大佐の場合は、赤い薔薇の花束を持ってても嫌味無く似合いそうだから…まあ、いいんですけど…。」
「ハボックには似合わなそうだな。」
「あはは。…って言うか…。大佐の場合…ですねえ。なんか『取り敢えず女性には赤い薔薇の花束を贈っとけばいいか』って感じで…。」
「? いけないのか?」
「あ〜、やっぱり。心がね、これっぽっちも篭ってないんですよねえ。『あの人のイメージはこの花』とか『この人はこの花が好きだから』とかそういう気遣いが無いんですよ。」
「気遣い…。」
「そうでしょ? 『女性』イコール『赤い薔薇の花束』って。数式じゃないんですから…。」
「う〜む。では、君の好きな花はなんだね?」
「それは秘密です。」
「そこまで言われれば気になるだろう。…大体これだけ文句を言うということは、君は赤い薔薇が好きではないということだろう?」
「そうなんですよね。だから幾ら花言葉にあやかられても嬉しくないって言うか…。大体花言葉なんて誰が決めたんでしょうね?」
どうやら常々、花言葉に引っ掛けた花束を苦々しく思っていた模様。
「君の好きな花は、そんなに悪い花言葉なのか?」
「それほど悪くは無いんですけど…。薔薇なんて色ごとにあるのに、私の好きな花は何色でもいっしょくたなんです。」
「ほほう。」
「知ってます?花言葉って何種類もあるんですよ。」
「まあ、諸説あるな。」
「良い意味と悪い意味の両方を持つ花は、どう受け取ったらいいんでしょうねえ。」
「分かった、分かった。君には花以外の何かを贈ろう。」
「あ、いいです。赤い薔薇だろうが何でも。」
「…投げやりな…。」
「別に。大佐は好きだけど好きじゃないんで。」
「そうか。」
つまり彼氏であるハボック以外からは、何を貰おうとどうでもいいということだな。と納得する。
むしろ赤い薔薇の花束くらいの気遣いの足りないプレゼントの方が、気が楽ということなのだろう。
マスタングは花屋への花束の予約を、今日の自身の予定に組み込んだ。
せっかくだ。豪華な赤い薔薇の花束にしてやろう。
そして。
扉の前で入るに入れないでいる様子のハボックは、明日は一体何を贈る気なのか…?
リアーナのことだから、ハボックからは何を貰ったって喜ぶのだろうけど…。
赤い薔薇の花束だったら笑ってやろうと思いながら、マスタングは上機嫌で仕事に戻った。
20060318UP
END
この二人の、恋愛感情全く抜きの会話は書いてて結構楽しいです。
さて、ハボはリアーナに何をプレゼントするのでしょうか?
ちなみにリアーナの好きな花は、ガーベラ。(花言葉は「神秘」だそうです)オレンジや黄色が好きです。
ハボはそれを知ってるかなあ?
(06、03、18)