注:『やさしいシリーズ』の設定で。
女友達
「……ったく、失礼しちゃう!」
指令室に、足音も荒く飛び込んできたリアーナは。思いっきり怒気を振りまきながら。手に持っていた資料をブレダの正面にある自分の机の上にドスンと置いた。
「どうした?」
「あんの、セクハラ親父!」
「………、ああ。あいつな。」
リアーナの言葉にブレダは溜め息を付いた。
現在東方司令部には、中央から視察と言う形で数名の将軍とそのお付の部下達が来ている。
主に将軍たちのお相手は、ここの将軍と大佐。そして中尉が受け持っているが。
そのお付の部下達の相手は、ハボックとリアーナに割り当てられていた。
そして、日常の仕事については。ブレダと3人で協力して…と言うことになっていたので、こうして日に何度かは顔を合わせて打ち合わせをしなければならない。
ちなみにハボックは現在、イーストシティ市街を巡回中だ。…観光案内…とも言うが…。
で、リアーナが担当している人間の中に、一人やたら触ってくる奴がいるらしいのだ。
すっかり禿げ上がった頭に、でっぷりと太った腹。
相当いい年齢だと思うのに、いまだ中尉と言う地位が。何となく彼の能力を現しているようには思うが…。
腐っても中尉。リアーナよりは階級が上のため、やんわりと避けるしかないのが悔しいらしい。
「………………。」
ブツブツと重低音で彼女が口の中で呟いた悪態は、とてもじゃないが人に聞かせられるものではない。
今この部屋にいるのはブレダとリアーナだけで…だからこそ出てくる悪態なのだろうが。
…ったくこいつも。
ここにハボックがいたら、そんな台詞は間違っても口にしないだろうに。
彼女にとって、自分は『男』の範疇には入っていないのだろう。
ブレダは内心溜め息を付いた。
リアーナの事を女性として意識しているか…と言えば。全くその気はない。
けれど、ここまで男として見られないのはなにやら淋しい気もする。…なまじリアーナが美人の部類に入るだけに…。
「ブレダ。」
「何だよ?」
目を上げれば、リアーナが何かを要求するように手を差し出していた。
「金なら貸さねえぜ。」
「バカね。軍服の上着、貸しなさいよ。脇のところと袖口がほつれてるわ。縫ってあげる。」
「……え?マジ?」
慌てて脱いで見ると確かに、指摘された部分がほつれている。
「出来んのかよ?お前。」
「………針、残しておいてあげても良いわよ。」
「それは、勘弁。」
机の引き出しから取り出したソーイングセットで、鮮やかに縫い付けていく。
「へえ。たいしたもんだ。」
「西部の女は大変なのよ。行儀作法から、裁縫、料理まで。小さい頃から煩く言われるの。」
『あいつ、料理美味いんだよなあ。』と良く自慢しているハボック。あながちホレた欲目で言っているのではないらしいと思い直す。
「…で?ブレダ。この間言ってた、飲み会で意気投合した女の子はどうしたの?」
「ん、……まあ。」
「そっか。」
手早く縫い上げて、はい、と手渡してくれる。
「サンキュ。」
「うん。……大丈夫よ。次はきっと上手くいくわ。」
「ん?」
思わず見返した顔は優しく微笑んでいて、女…なんだよなあと改めて思う。
「ああ、そう思うなら誰か紹介してくれ。」
「良いわよ。」
軽い気持ちで言ったのに意外とあっさり頷くので、うん?と見返すと。視線の先でリアーナは穏やかに微笑んでいた。
「ブレダなら不実なことはしないって分かってるから、安心して紹介できるわ。」
「…そ…うか。」
意外と評価してくれていたらしい。
「それよりさ、あのセクハラ親父をぎゃふんと言わせる事出来ないかしら?」
「『ぎゃふん』って死語だぜ。」
「問題はそこじゃないのよ、ブレダ少尉。」
「分かってるぜ、トウエン少尉。……こんなのはどうだ…?」
幾分低めた声でセクハラ対策を伝授する。
ふんふんと頷くリアーナの顔は悪戯に煌いていて。
恋愛対象には決してならない。良き同僚で、親友の彼女で。
けど、細かいところにも気付いてくれて、自分をちゃんと認めてくれる。
こいつが俺の一生の内で、恐らくただ一人の『女友達』なのだろう。
20060809UP
END
『ガールフレンド』じゃなくて『女友達』。
もう少し、『気心知れた感』を出したかったんですが…。
ちょっぴり心残りです。
(06、08、13)