注:『やさしいシリーズ』の設定で。

 

 

 

ふ〜ん。

 

 

 

 ある、昼下がり。

 一息入れようと、リアーナとホークアイが全員分のお茶とお茶菓子を持って指令室へ戻ってきた。

 この日は珍しく指令室のメンバーが全員揃っており、つかの間の休憩時間を過ごしていた。

 お茶菓子の入った箱を持ったリアーナが指令室の扉を開けた途端、目の前に何かが飛んできた。

「きゃ。」

 とっさに掴んで…。

「げっ。」

「ヤベっ。」

「……雑誌?」

 それは所謂『エロ本』とかに分類される雑誌で…。

「…こんなの指令室で見ないでよ。」

 呆れと怒りとが混ざった声でリアーナが言った。

「大体なんで、こういう雑誌が宙を飛んでるわけ?」

 それぞれの表情から、犯人は少尉2人だと踏んで詰め寄る。

「い…いやあ。」

「ブレダが、持ち込んだんだ!」

「あ、お前、俺のせいにする気か!?」

 見苦しく擦り付け合う二人を尻目に、全員分のお茶菓子を配り終えたリアーナは自分の席でその雑誌をパラパラ捲り始めた。

「………ふ〜〜〜ん。」

 ブレダも、だが。彼氏であるハボックは生きた心地もしない。

 そんな様子を苦笑して眺めながらホークアイが全員分のお茶を配る。

「で?…どの子が好みなの?」

 恐らくハボックに対してだろうが、おもむろにそう声をかけた。

 とっさに声の出ないハボックに替わり、ブレダが『俺はなあ』とページを捲る。

 一通りブレダの講釈を聞いて。次いで、ファルマンやフュリーも遠慮がちに口を挟んだり。

 そんな様子をお茶を飲みながらニヤニヤと笑って見ていたマスタングは。

「私は、そんな雑誌に頼らなければならないほど不自由してない。」

 とか男の敵発言をかます。

「………巨乳って言うと…この辺かしら…。」

 ハボックのボイン好きは、有名だ。

 胸のでかさを売りにしているグラビアアイドルのページを捲れば、一部折れているページもあったりして。恐らく、この辺を開いて眺めてふざけている内に、雑誌が吹っ飛んだのだろうとリアーナはあたりをつける。

「…ああ、……まあ。」

 ハボックは。今ここで、事件が起きてくれないだろうか?そうすれば、自分は真っ先に駆け出していくだろうと、普段は決して考えないことを思うが。残念ながら事件の一報は入らなかったので曖昧にうなる。

「ふ〜〜〜ん」

 穏やかな表情や口調とは裏腹に、その背中から怒りのオーラが立ち上がるようで。内心ビビッていると。

「ちは〜〜。」

「こんにちは。お久しぶりです。」

 数ヶ月ぶりにエルリック兄弟がやってきた。

「あら、エドワード君。アルフォンス君。いらっしゃい。」

「よう、大将。」

「おや、鋼の。数ヶ月前と、寸分たがわぬ様子で安心したよ。」

「この!無能大佐っ!少しは成長しとるわ!」

「兄さんったら。」

 途端に室内がにぎやかになる。

「エドワード君。ほら、こっちいらっしゃい。」

「?トウエン少尉?何?」

 会えばマスタングとは違う意味でおもちゃにされるリアーナに、警戒心丸出しで恐る恐る近付く。

 そんなエドワードの首をがっちりと抱えて抱き寄せたリアーナは、膝の上に開いた雑誌にエドワードの顔を近づけた。

「うわ〜〜〜!」

 目の前のエッチな写真と。顔の横に押し付けられた柔らかいふくらみの感触とで。エドワードは真っ赤になる。

 鼻血が出なかったのを褒めてもらいたい。

「ほら、よ〜く見ておきなさい。何事も勉強よ。」

 『なんのだよ?』

 その場にいた一同の心の中の突っ込みは、じゃれる二人には届かない。

 そんな二人をにっこり笑って見ていたホークアイは、追加のお茶を入れに行き。

 どうやら、ターゲットが他へ移ったらしいとハボックはほっとした。

「兄さん、かわいそう。」

 アルフォンスが小さく呟く。

「ん?」

「トウエン少尉。兄さんの初恋の人なのに…、あの扱いは…。」

「ほほう。」

「あっ。今は違うみたいですけど…。」

 慌ててアルフォンスが手を振るが。

「トウエン少尉が鋼のの…ねえ。」

 楽しそうに呟くマスタングに、アルフォンスは心の中で兄に詫びた。

『ごめん、兄さん。なんか僕、遊びのネタを提供しちゃったみたい。』

 どう見ても、リアーナにとってエドワードは『からかうと楽しいおもちゃ』以上には見えなくて。

ハボックは煙草をふかしながら、『まあ、初恋は実らないというしな』とか呑気に考えていた。

リアーナが内心『将来絶対いい男になる』とエドワードのことをかってると知っていたら、それほど平静でいられなかっただろう。

その時は、どうやらエドワードのお陰で自分は無罪放免となったとほくそ笑んだハボックだったが…。

 

 

「悪かったわね、そんなに大きくなくて。巨乳が良いなら、どうぞそちらへ。」

 と、1週間以上触れることを許されなかった。

 

 

ハ:「俺、もうエロ本見ねえ。」

ブ:「へえ?」

ハ:「リアーナ、怒ると触らせてくれねエし。」

ブ:「ああ、そう。」

ハ:「いくら巨乳でも、雑誌のネエちゃん達は触りようもないし。巨乳じゃなくたって、触れるほうが良い!」

ブ:「お前、それ、トウエンには絶対に言うなよ。」

 

 

 

 

 

 

20060813UP
END

 

 

 

午後の休憩に、指令室でわいわいやっていると思ってください。
文章内にはでてこないけど、リアーナがハボやブレダとわいわいやっている脇で中尉からお茶を受け取った大佐が「やあ、すまないね」と言っていたり。
エドがいじめられているのを、ファルマンとフュリーが気の毒そうに眺めて溜め息を付いていたり…。
そんな午後のひと時を書いてみました。
その直後。
タイムリーにも、ガンガン9月号で「この部屋はこんなに広かったかな」とたそがれる大佐を見てしまい…。
きっと部下達が楽しそうにわいわいやっているのを見ているのが、大佐は大好きだったんだろうな…とか思ってしまいました。
(06、08、18)