「ここにいるよ。」の設定で。まだ実家にいる頃の大佐とジュディ。

 

 

 

ボディーガード

 

 

 

 学校が夏季休暇に入り、久しぶりに帰省した実家。

 郊外…と言えば聞こえは良いが、要は田舎だ。

 家の裏にはうっそうと茂った大きな森がある。

 しかし、いくらなんでもこれはないだろうという気がした。

 

 

 実の母が死んで、その後来た新しい『義母』は俺の事を気に入らないようだった

 家の跡取りとして、申し分ない俺は目障りだったのだろう。

 そういう俺に取り入るという手だってあるだろうに、彼女は俺を排除する方法を選択したらしい。

 ベランダや階段の手すりが不自然に壊れて落ちそうになったこと数回。

 家の裏を歩いていたら、2階から植木鉢が落ちてくること十数回。

 食事を口にした途端、異変を感じで吐き出したことや腹を壊したりすること…数え切れない。

 はっきり言って、緊張の連続だった家での生活。

 

 そんな時ジュディが生まれた。

 13歳年下の妹。

 生まれてから最初に帰省した時。周りの人間の目を盗んでこっそりとベッドに近付いた。

 …そこに居たのは、ちっちゃな赤ちゃんだった。

 何の気なしに伸ばした俺の指を、その小さな手でぎゅっと握ったジュディ。

 こみ上げる愛おしさで、胸がいっぱいになったのを覚えている。

 その命すら邪魔だと。そう思われているのだと自覚する毎日は辛かった。

 そんな俺の手を、ただ無心に握る。

 まるで、『生きていていいんだよ』と言ってくれている様で…。

 俺は彼女に救われたのだ。

 

 無垢な瞳で俺を見上げるジュディ。

 あの女の娘ではあるけれど、そんなことは関係がなかった。

 普段、ほとんど世話をしてもらえない育児放棄の状態。

それゆえかとても表情が乏しい子だったが、それでもその瞳の中に精一杯『大好き』と言う気持ちを込めて俺を見上げる。

 そんな彼女を愛おしいと思う。

 俺が守ってやらなきゃと思った。

 

 

 そんな俺の決意とは裏腹に、寄宿学校に在籍する俺は年に何回かある長期休暇にしか帰って来れない。それが歯がゆかった。

 

 

 で、今日。

 久しぶりに、学校から帰ってきた俺の前には。

 大きな、狼。

 ジュディのすぐ後ろに控えたその姿は圧巻。

 そして、その目は。

 まるで、俺を値踏みしているかのようだった。

 

 ああ、そうか。

 

 俺は膝を付いて、彼に視線を合わせながらにっこりと笑った。

 

「君が、普段はジュディを守ってくれているんだね。

 俺はロイ・マスタング。ジュディの兄だよ。

 そして、君と同じく。ジュディを守りたいと思っている同志だ。」

 

 人間の言葉が、果たして彼に伝わったのか?それは分からない。

 けれど、彼は。

 口の隅を、まるでニヤリと笑うかのように少しだけ吊り上げて。

 くるりとUターンすると森の奥に消えていった。

 

「…ろ…い。」

 つたない口調で俺の名を呼び駆け寄ってくる妹。

「ただいま、ジュディ。」

 其の体を抱きしめながら、自分の方こそが癒されているのだと思った。

 

 

 

 

 

20061001UP
END

 

 

 

ジュディが言っていた懐いていた狼登場。
事業にしか興味の無い父。自分の命を狙う義母。
そんな家族の中で、一心に自分を見つめてくれるジュディはロイの心の支えでした。
(06、10、05)