やさしい笑顔を 〜月の女王〜

 

 

 

室内とはいえ、冬の冷え切った空気が火照った身体の熱を急速に奪っていく。

先程まで、甘い声で満たされていた部屋の中。

今はシンと静まり返り、ふうっと煙を吐いた自分の息の音がいやに大きく響いた。

吸い終わった煙草を灰皿に押し付け、座っていたベッドの中へもぐりこもうとして、

何時もならとっくに寝息を立てているはずのリアーナが、目を開けているのに気が付いた。

「起きてたのか?」

「ん。」

窓の外に目をやっている。

「何か見えるのか?」

「…月。…綺麗よ?」

「月?」

確かに室内は月明かりでぼんやりと明るかった。

けれど、身体を起したままのハボックからは見えない。

リアーナの隣にもぐりこんで。

「あったけー。」

「やだ、もう。冷たい。」

背中からぎゅっと抱き込むと、笑みを含んだ声で文句を言われる。

「あー、本当だ。」

横になり、リアーナと同じ角度から窓の外を見上げれば、

そこにあるはずのたくさんの星の光を押しのけて、煌々と輝く月。

暫くぼんやりと月を眺めていると、リアーナが口を開いた。

「月って、形を色々に変えるでしょう?」

「ああ。」

「だからね。良く、女心とか移り気な人に例えられるの。」

「へえ、成る程。」

月明かりに照らされたリアーナの髪からは甘いシャンプーの香りがする。

「でも、私。月は移り気なんかじゃないと思うわ。」

「…ふ…ん?」

「だってね。月は自転をしてないの。いっつも同じ面をこちらに向けているのよ。」

「そうなんだ?」

「うん。きっと地球の重力にとらわれてしまって身動きが出来ないんだわ。

いつだって一生懸命に地球のことを見ているのよ。」

わき目も振らずに、ね。

少し眠くなってきたのか、トロリとした口調で付け足す。

わき目も振らずに…か。

改めて月を見上げると。

それまで女王然として輝いているように見えていた月が、何とはなしに一途な女の子のように感じられて、思わず笑みが浮かんだ。

「…何時も、…笑っていられる……訳じゃないし…。」

そう呟いて、小さく欠伸をしたリアーナ。

続く言葉も無く。

顔を覗きこむと目を閉じていて。

どうやら、眠ってしまったようだった。

少しずれた布団をかけ直してやり、自分も肩までもぐりこむ。

そうか。

形を変える月の光は、月の表情なんだ。

笑ったり怒ったり泣いたりするけれど、月自体の形はいつだって変わらない。

そして、何時も地球を見つめている。

『わき目も振らずに』

ずっとハボックを好きだったというリアーナ。

気持ちが揺れ動いたり、辛かったり、切なかったり…。

何時も笑っていられるわけじゃないけれど。

ハボックがどれほど他の女性と付き合ったって、ずっとハボックを見ていた。

そう、わき目も振らずに…。

きっと、月になぞらえたのはリアーナ自身。

抱き込んだ腕に力を込めて、さらにきゅっと抱きしめる。

「………ん……。」

小さく身じろぎするリアーナ。

栗色の髪にキスを落とし、もう一度月を見上げた。

 

『これからはお前がいつだって笑顔でいられるように、俺が守るよ』

 

輝く月に語りかける。

あの月がリアーナ自身なのだとすれば、きっとハボックの決意は届くだろうし。

 

 

これが誓いの言葉になるはずだから…。

 

 

 

 

20051229UP
END

 

 

 

 

 

静かな静かなお話を目指して見ました。
キスしたり、抱きしめたり…という直接的な行動は少なくとも、甘くなればなあ…と。
どうでしょうか?サイト内糖度UP計画第2弾です。
後、この壁紙は。元々カットだったんですがかえって窓から見上げた月っぽくて良いかなあと採用させていただきました。
雰囲気出てますでしょうか?
(06、01、07)