注:今回はちょっぴりエッチくさいシーンがあります。
  「少しでもそういうシーンがあるのはイヤ」という方。
  「私はまだまだお子様なので…」と言う方。
  逆に、「どうせ読むなら激しいシーンじゃなきゃ納得が行かない」
  という方はご遠慮下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やさしい笑顔を 〜倦怠期?〜

 

 

 

「……ふーん。」

 冷めたリアーナの声が気まずい。

 部屋には甘い嬌声が響いていて、目の前にあるテレビ画面では見知らぬ男女が裸で絡み合っていた。それを二人で並んでソファに座ってみている状態。

 本来なら、多少なりともニヤつきながらみるはずのビデオ。

 何でこんなことになったのやら…。ハボックは心の中で盛大に溜め息をついた。

 

 

「隊長。隊長ってHビデオとか見ます?」

「何だよ?急に。」

「今、俺らの間で色々出回ってんですよ。」

「おいおい。…ヤバイ奴じゃないだろうな。」

 法に触れるようなものだったら、取締りの対象となる。

「エヘヘ。ギリ……ってとこですか。」

「お前なあ。」

 隊の訓練が終わった後の更衣室。男ばっかりの汗臭い中出た話。

「俺を引き込むなよ。」

「えー、だって隊長。好きそうだから声かけなきゃまずいかと思って。」

「コラ!」

 『アハハ』『わはは』と声が上がる。

 訓練の緊張が解けて皆少しハイになっている時間帯だ。そのまま隣の控え室へ移り、さらに話は続いていた。

 更衣室とは違いここは本来女性が入っても平気な場所だが、汗臭い男たちがたむろする中へわざわざ入ってくる者などいるはずもなく。更衣室と同じに声高に話していた。

「これ、なんですけどね。」

「持ってくるなよ。」

「貸してあげますって。」

「んー。別になあ。」

 独り身のときならともかく彼女が居る今、何もわざわざビデオを見なくても…。

「トウエン少尉と付き合い始めて、結構たつんでしょ?」

「ああ?まあ。」

「マンネリとか…しません?」

「はあ?」

「倦怠期って奴ですよ、隊長ー。」

 あちこちから声が掛かる。お前らどうしても俺にこれを見せたいのか?

「カップルでHビデオ見たりするの、多いらしいですよ。」

「二人で見んのかよ?」

 こういうのは一人でこっそり見るもんだろう?

「や、だから。マンネリ解消のために。」

「雰囲気作りって言うんスか?」

「盛り上がるらしいっスよ。」

「…へー。」

 感心したように声を上げ、ひょいと隊員の手からそのビデオを取り上げたのは…。

「リアーナ!?」

「わっ、トウエン少尉!!」

「やべっっ。」

「な…んで。」

「大佐がハボックを呼んで来いって。」

「うっ、おう。」

「これ、大丈夫なの?」

 持っていた隊員へ目をやる。

「ヤ…。あの。」

「やばいの?」

「あ…はは…その。……ギリギリ?」

 本当にギリの奴なのか…。

「ふーん?」

 何を考えているのか?ポンとハボックにビデオを渡す。

「何だよ?」

「借りるんじゃないの?」

「何でっ。」

「うーん?…マンネリ解消?」

「………っ。」

 一気にその場が凍りついた。

 お前は俺との性生活に、何か不満でもあるのか!?

 

 

「………ふう。」

 暫く眺めていると、リアーナが溜め息をついた。

「どうした?」

「……飽きた……かも。」

「あ……ハハ…。」

 実はとっくに飽きていたハボックは、笑って誤魔化すしかない。

 映像的には確かに際どいものだったが(いろんな所が見えてたし)、10〜15分程度の短いストーリーがこれでもかと入っていて。シュチエーションこそ様々だが結局すぐにベッドインする繰り返し(当たり前だ。Hビデオなんだから)。3話目か4話目を見たあたりでとっくに飽きていた。

 うんざりしたようにリアーナも溜め息をついた。

「何かちょっと……気分、悪くなってきたかも…。」

「なっ、大丈夫か?」

「うん。もう見たくないってことだと思う。」

「…何で、借りようと思ったんだよ?」

「え?借りるつもりだったんじゃないの?」

「まさか。」

「あら?そういう話じゃなかったの?」

「違うよ。お前いんのに、何でっ。」

「だから、マンネリ解消?」

「お前、何か不満でもあんのか。」

「え?私じゃないわ。ジャンが、でしょう?」

「ねーよ。不満なんて。」

「あら?」

「あら、じゃねーよ。お陰であの後散々だったんだぞ。」

 へたくその何のと隊員たちに笑われて、挙句『このビデオで良く勉強して下さい』と来たもんだ。

「何だ。ジャンが何か不満があるんだと思ってた。」

 明るい口調で言ったリアーナ。けど、本気で心配していたニュアンスも伝わってきて…。

「不満なんか、ねーよ。」

 抱き寄せて、口付ける。

「ん……。」

 リアーナの腕が背中に回り、きゅっと抱き合う。

「良かった。あのビデオみたいなことしなきゃいけないのかと思った。」

「してくれても、いいけど?」

「う……ちょっとイヤ。」

 リアーナが思い描くのは何なんだろう。ワザとらしく上がる嬌声か?大胆な体位なのか?

 照れくさいのか淡白な性質なのか。割とリアーナはいつもあっさりしていて、誘うのも仕掛けるのもハボックの方から。

 もうちょっと積極的でもいいのにとも思うが、誘えば(体調が悪いとかでない限り)断わらないし、互いに軍人で鍛えてるから体力もある。足りないと不満に思うことも無い。

 特にダイエットなどをしている風でもないのに、バランスの良い身体をしてると思うし。

 あれこれ考えてみても不満という不満など無く。

「…やらしい顔してる。何、考えてるの?」

 ちょっと眉を顰めて見上げてくる。

 この勝気な瞳が、濡れて細められる時が一番色っぽいと思う。

「っ。」

 ゾクリと背筋が震えた。

「ジャン?」

「…互いに、不満が無いと分かったって事で…。」

「うん。」

「それを、確かめ合うってのはどうだ?」

「………。」

 呆れたように見返してくる瞳。けど、すぐにおかしそうに笑った。

「ビデオ見る前にシャワー浴びろって言ったの、この為?」

「そ。マンネリ解消、するんだろ?」

 クスクスクス。二人の口から忍び笑いが漏れる。

 どちらからとも無く近づけた唇を重ね合わせる。

「…っん……。」

 角度を変えて、舌を絡ませて。何度も。

「…ジャ…ン……ここじゃ…。」

「ああ…。ベッド、行くか?」

「ん。」

 場所をベッドへと移し、シーツに沈めた首筋に唇を這わせる。

「…っあ……や…。」

 いつもより甘く声が響く。

 ハボックの髪に差し入れられた細い指が、さらに引き寄せるように動いて煽る。

 パジャマのボタンを外しながら、胸へと唇を滑らせ柔らかい感触を味わいながらさらに下へ。

「や…、ジャンっ…。」

「や、じゃ無いだろ。もうこんなに濡れてる。」

「んもう…。あんなビデオ見てたのよ…。私だって、不感症じゃないんだから…。っあっ!」

「分かってる、俺もだ。…も、いいか?」

「ん。……っっ。」

 何時もほど慣らさずに入れたせいで、少しきつい。

 けれど、ぎゅっと締め付けられ背筋を快感が走る。

「動くぞ。」

 返事も待たずにゆっくりと動かした。

「…あ……う…ん、…あん……ジャ…ン……。」

 動きに合わせ、リアーナの声が上がりゆらゆらと体が揺れる。

「すっげ、いい。」

「あ、…あた…しも……っやあ………もう…っ。」

「も、少し…な。」

「ん…っん……。」

 思う存分リアーナの中を掻き回して、背中にしがみ付く腕に愛おしさを感じながら。

「っ!」

「ん。」

 欲望を出し切って、リアーナの上へと崩れ落ちた。

 

 

 

 荒い息を整えつつ。

「今まで、ああいうの見た事無かったわけじゃないだろ?」

「ううん。初めて。」

「?何でだよ。押収したものの中にビデオがあれば、中身確認するだろ?」

「それがね。中身確認の段階になると部屋を追い出されるのよ。」

 うちの隊員たちに…。と不満そうに呟く。

「………。…過保護…。」

「本当よね。10代の子供じゃあるまいし。」

「ガーラント軍曹が居るからな。」

 壮年のたたき上げの軍人で、娘のような年齢の隊長をとにかく可愛がっている。

「ああ、いけない。ジャンの隊の皆に、軍曹に内緒にしておくように言っておくの忘れてたわ。」

「ばれたらヤバイ、か?」

「かも。」

 そうやって大事にしている隊長に、Hビデオを見せたとあっては(しかも、違法ギリギリの奴だ)どんなお叱りを受けるか分からない。

「どうするか…。」

「んー。よし、大佐に罪をなすりつけよう。」

「へ?」

「大佐が、『ちゃんと見ておけ』と言ったことにしよう。」

「お前なあ。面倒臭いときだけ大佐を使いすぎだ。」

「いいじゃない。大佐がサボったせいでデートが流れたこと、何回あったと思ってるの?」

「ああ。そういや、1回2回じゃないな。」

「ね。」

「そうだな。ここは部下思いの上司に尊い犠牲になってもらって…。」

「そうそう。」

「さて。話がまとまったところで。」

「うん?」

「流れたデートの分の埋め合わせと行きますか。」

「?」

 きょとんと見つめる瞼に唇を触れさせ、抱き寄せた。

「…信じられない…。あなたの体力ってどうなってるの?」

「大丈夫。朝メシは俺が作るから。」

「んもう!そういえばすむと思って…。」

「…ダメ?」

 強請るようにじっと見つめると、んんもう!と背中に腕が回される。

「そんな目で見ないでよ。断われないわ。」

 …どんな目をしていたというんだろう?

 『捨てられた子犬の目?』リアーナがおかしそうに言う。『何だ、そりゃ』そう返しながらも、そうかさっきみたいに強請れば言う事聞いてくれるのか…。と内心ほくそ笑んでみたり。

「…っあ…。」

 リアーナの甘い声に煽られて、長い夜はまだまだ続く。

 

 

 俺たちには倦怠期は無い。…けど、たまにはHビデオを見るのも良い…かも。

 

 

 

 

 

 

20050926UP
END

 

 

 

話自体は随分前に出来ていたのですが、UPする勇気がなかなか出ませんでした。
エッチと言うより下品?
けどまあ、1本くらいこんな話があっても良いかな…と。…マズかったかな……。
(06、04、28)