やさしい笑顔を 〜ペア〜

 

 

 

 綺麗な食器は好き。

 だから、買い揃えると言うほどじゃないけど。

女の一人暮らしにしては色々と揃っている方だと思う。

 でも、言ってみればコレクションと同じようなものだから、揃っている割には使用頻度は低かったかも…。

 

 毎日…という訳ではないけれど。

洗う食器の枚数が倍になってからどれ位経つだろう?

 一人分とは明らかに違う枚数の食器を洗い、片付けながらそう思う。

 

「………なあ?」

「うん?」

「お前…その、さ。」

「?」

 言いづらそうに口ごもるジャンを振り返り首を傾げる。

「男、居た?」

「はあ!?」

 幻聴だろうか?恐ろしくバカなことを聞かれたような気がする。

「何か、いまさらあなたにこんなこと言うのは物凄く腹立たしいんだけど。ずっと片思いだったって言ったでしょ。」

「………。」

「………何よ。その不満そうな顔は。」

 腹を立てる権利があるのはこっちでしょうと、下から睨みつけた。

「だってよ。」

 と口の中でごにょごにょ言っている。

「だ・か・ら・な・に・よ。」

 はっきり言いなさいよと、催促すれば。

「食器の数が多いだろ。ペアで揃ってるものも多いし。」

 はあ? そういう細かいチェックって女が入れるもんじゃないの?

「ペアで売ってたんだからしょうがないでしょ。」

「そういう元も子もない返事を…。」

「しょーもない事聞くからでしょう。」

 そりゃあ、買うときに。いつかこれらをこの人と一緒に使えたらいいなあと思わないでもなかったけど…。

 ムカついたから、教えてやんないわ。

「ああ、ペアで使ったことあるわ。」

 ふと思いついてそう言うと。

「っ、いつ!誰と!?」

 焦って身を乗り出すジャンにふふ、と笑ってしまう。

「ホークアイ中尉が泊まりに来た時に。」

「………。」

 『なあんだ』と言うかと思えば複雑な表情で。

「…すっげえ悔しい。」

「…何が?」

「中尉に先を越されたのが。」

「………。」

 何を言ってるんだか。

 くすぐったく思う一方で。

 『あなたの部屋だって、男の一人暮らしの割には食器が揃ってると思うけど?』と言ってやろうかと思って………止める。

 何か自分が落ち込む返事が返ってきても嫌だし。

「…最近はさすがにないけど…。前は俺の部屋にブレダとかしょっちゅう来てたし、仲間が泊まりに来ることも何度もあったけど…。」

「………ふ〜ん?」

 あ、何。そんなメンバーなの?ちょっとほっとする。

「…なんだ、妬かねえの?」

「え、どうやって?…ってか、男ばっかりってむさくるしそう。」

「………否定はしねえけどよ…。」

 納得できねえと口の中でブツブツ言っている。

 …ああ、そうか。そういえば、ジャンの前の彼女達は料理とかしてくれなさそうな人ばっかりだったわね…。

 この人が住むちょっと古めのアパートになんて、間違ったって泊まってくれなさそうだ。

 本当のところはどうか分からないけど。あの部屋に入った女性は、私が最初で最後だったら良いなと思った。

 そんなおしゃべりをしているうちに、キッチンは綺麗に片付いた。

 よしよし。これさえ終われば後はのんびり出来るわ。

「…なあ。」

「うん?」

「じゃあさ、この食器を使った男って俺だけ?」

「あーうーん?…そう、なるかな?」

「よし!とりあえずそれで手を打つ。」

「はあ?」

 何がとりあえずなの?首を傾げて見上げた私を、嬉しそうに抱きしめる。

「もう一つついでに…。」

「?」

「あの、シャワールームを使った男って。俺だけ?」

 にやりと笑って口付けられる。

「っん。 そうだって言ってるじゃない、何をしつこく聞いてるの?」

「ん〜、だってほら。あのシャワールームを使った男が俺以外居ないってことは…。リアーナと一緒にシャワーを浴びたことがある男はこの世で俺一人ってことだろ〜。」

「あなただって一緒に浴びたことなんて、無いでしょ!」

「ようし、そうと決まったら『第1回一緒にシャワー大会』を開催しよう!」

「何!?そんな大会聞いたこと無いわ!大体『第1回』って…ちょっと、ジャン!?…きゃっ!離して。」

 がっちりと抱き上げられる。逃れようと足をバタバタさせたら、さらに強い力で抱き込まれた。

「暴れんなよ、落としちまう。」

 全然余裕の声で言われたって説得力無し!

「やだってばっ。」

「………ダメ?」

 強請るように見つめられる。

 やだ、もう。ここぞって時にその目で見るの止めてよ…。

「んもう。」

「はい。シャワールーム到着。」

 嬉しそうにニカリと笑うジャンにそれ以上文句を言えなくなる。

「脱がしっこ、する?」

 調子にのりくさった男の頭をガツンと殴った。

 

 

 翌朝。

「ねえ、ジャン。」

「ん?」

「今度一緒におそろいの食器を買いに行こうか?」

 ジャンが作ってくれた朝食を食べながら、私がそう言ったら。

「おう!!」

 と、やたら嬉しそうに笑ってくれた。

 

 

 

 

 

 

20060905UP
END

 

 

 

ただ、甘いだけの二人。
久々にこんなのもいいよね。
ハボは、リアーナの部屋へ出入りするようになってから。自分で選んだマグカップとかを持ち込もうとしたんだけど。
ここの食器棚には、センスの良い食器がずらりと揃っていた。
己のテリトリーを主張できなくて、常々不満に思っていたらしい…。
(06、09、12)