やさしい笑顔を 〜甘い味〜
「………。あれ、ケーキ?」
ハボックより少し遅れて帰宅したリアーナの手には、有名ケーキ店の箱。
珍しいな。
普段リアーナは余りケーキを買ってくることは無い。
指令室に差し入れがある時とか(勿論ほとんどが大佐宛だ)、女同士で出かけたときなどには喜んで食べている(らしい)ので、好きだということは知っていたが。
ハボックが甘いものが苦手だというのもあるのかも知れないし、内心太りたくないとか思っているのかも知れない。
とにかくわざわざ買ってくるというのは珍しかった。
「うん。なんかすっごく食べたくなって…。」
「ふ〜ん?」
疲れているんじゃないだろうか?と少し心配になった。
夕食の後ソファでTVを見ていると、意気揚々とケーキを出してきたリアーナ。
「ジャンは食べたくなかったら無理しなくていいから。」
そう苦笑するリアーナ。
見れば彼女が選んだのは、生クリームがたっぷりトッピングされた見るからに甘そうなケーキ。
「う。」
一応皿に載せて目の前のローテーブルに置かれたが、義理で一口食べることさえ難しそうだった。
食べなくて良い。と言うところを見ると、多分ハボックの分も自分で食べるつもりで買ってきているのだろう。
マジで、疲れてるんじゃ…?
心配しつつ様子を窺うと、実に嬉しそうな顔であーんと口を開けてケーキを食べている。
「ん〜〜〜、美味し〜い。」
「そうか。良かったな。」
あまりにも美味そうに幸せそうに食べるので、ついつられてハボックも笑顔になる。
「こんなに美味しいのに食べられないなんて、ジャンは可哀想ね。」
クスクスと笑って言うリアーナ。
本当は疲れているのかも知れない。もしかしたらストレスがたまっているのかも。
けど、ハボックの隣でケーキを食べて。それで解消できるくらいなら、心配することも無いのかも…、と思って少しほっとした。
1つ目をあっという間に食べ終えたリアーナ。
皿をテーブルに戻したその手を掴んで引き寄せた。
「?」
訝しげにハボックを振り返るリアーナ、彼女からは甘いケーキの匂い。
唇を奪って、その口内を探る。
甘いケーキは食べられないけれど、甘いリアーナは大歓迎だ。
満足するまで味わってそっと唇を外すと、多少不機嫌そうなリアーナ。
「もう、せっかくの甘いケーキが苦くなっちゃったじゃない。」
後味が大事なのよ、後味が。分かる?
真っ赤な頬でそんなことを言われても、説得力ゼロだ。
「俺は充分ケーキを堪能させてもらったから。俺の分、食っちまっていいぞ。」
「本当?じゃあ、貰うわね。」
嬉しそうにハボックの前の皿に手を伸ばす。
口直しだとか、可愛くない事を言いながら2個目のケーキを食べるリアーナ。
これを食べ終えた後に、もう一度キスをしたら。
今度こそ『苦い』と本気で怒られるだろうか?
20061115UP
END
ケーキが食べたかったのは月子。
ハボにチュウしてもらいたいのも月子。
(06、11、16)