『今度結婚するんですよ〜〜。』
年下の隊員がにやけた顔をさらに蕩けさせて報告してきた。
おめでとう。と肩を叩いた俺に。
『今日は、早めに上がっていいですか?彼女と一緒に婚約指輪を買いに行くんです。』
遠慮がちになされた申し出を了承すると。
ありがとう御座います!と笑顔で走っていった。
やさしい笑顔を 〜幸せって〜
婚約指輪か。
そういや、リアーナは俺に何かを欲しいって言わねえよな。
俺の方も時々何かプレゼントはしても『指輪』ってのはつい構えてしまって、あげたことは無かった。
「…ジャン?どうかした?」
「ああ、いや。俺の隊の隊員が今度結婚するって。」
「あ、知ってる。彼女は受付の子でしょ?」
「え、そうなのか?」
「そうよ、知らなかったの?結構喧嘩ばっかりしてたカップルでね。周りの方がヤキモキ心配したわよ。」
「へえ〜。」
女性職員からの相談事を持ち込まれるリアーナは、そのたびに気を揉んでいたに違いない。
「さて、早く仕上げちゃって夕食にしよう。」
「おう。」
煮込んだスープの味見をするリアーナの隣で、出来上がったサラダにドレッシングをかける。
「ビール、飲むよね。」
「ああ。」
冷蔵庫へと体を向けたリアーナを後ろから抱きとめた。
「きゃ。」
「あ…あのさ。」
「?」
「お前は?」
「何?」
「お前は、…いらねえ?………指輪。」
「………。」
「ここに指輪、してくれるか?」
リアーナの左手を取り、その薬指にチュッとキスをした。
「………。」
リアーナはしばらく黙り込んでいたけれど…。
「…センスの無いのは、イヤ。」
「う…。…頑張って選びます。」
「後。指輪一つに給料の3ヶ月分とか、経済観念の無いのもイヤ。」
危ねえ!あやうく口走るところだった。
「じゃあ、どれくらい?」
「……貰う方からは…。」
「2ヶ月分くらい?」
「うーん。」
「1ヶ月分?」
「あー。…えっとね、駅前のお店。知ってる?」
「エキマエ?」
突然の単語にびっくりしてただ鸚鵡返しに言葉を返す。
「あそこのお店、デザインが変わっててすっごく可愛いのに値段は結構手ごろなの。」
「分かった。そこの店のがいいんだな。」
指輪は貰ってくれるってことか?…ってことは婚約ってか結婚って言うか、そういうのOK ってことなんだろうか?
「…じゃ、ビール取ってくるから。」
「へ?」
「何よ?飲むんでしょ?」
「はあ。イタダキマス。」
すっと腕を抜けて、冷蔵庫の方へ行ってしまう。
あっさり、してるよなあ。俺なんか、今だにドキドキしてんのに…。
仕方なく俺は出来上がった料理を、皿に盛ってテーブルへと並べていたりしたのだけれど。
いつもならすぐに出てくるはずのビールがなかなか出てこなくて…。
あれ?と思ってそっとリアーナの様子を窺うと…。冷蔵庫の前で、両手で頬を押さえたリアーナがボーっと立ち尽くしていた。ちらりと見えた顔や手は真っ赤で…。
あーもう。どうしてそういう表情を、隠しておくかな。
大股で近付いていって、ぎゅっと抱きしめた。
身体に直に伝わるリアーナの鼓動は、これ以上は無いというくらい早くて…、じ〜んとする。
うわあ。何か、すげえ感動。
「え……と。これからも、ずっと宜しくお願いします。」
「……はい。」
腕の中で、小さく頷いたリアーナ。
やった!とさらにぎゅっと抱きしめたとき…。ぐぐ〜〜っと俺の腹が鳴った。
「………。」
「………。」
「…ぷっ、クスクスクス。」
「悪ぃ。」
「ううん。…ほっとした。」
「何が?」
「だって、さっきのジャン。かっこ良過ぎて緊張しちゃったから。」
「はあ?」
「いつものジャンで、良かった。…待ってて、すぐ出すから。」
冷蔵庫から出したビールと冷えたグラスを持たされ、テーブルに並べて。と言われる。
釈然としない気分。
けれど、言われたとおり大人しくテーブルに置くと。
引き出しから栓抜きを取り出したリアーナが正面の席について…。
「さ、食べよう。」
「ああ、いただきます。」
「いただきます。」
二人で目を合わせて微笑んで。
何だかとっても、幸せな気分になった。
20050821UP
20061210改定
END
何だかんだ言って、幸せって言うのは日常の中にあるもんじゃないかと…。
初稿は大分前。
とてもUPできるような代物ではなかったので、作り直しました。
(06、12、19)