ここは棗の定位置。
いつも昼寝をしにきている場所だ。
そして今日も棗はいた。
「・・・・・・」
授業なんてつまらないと抜け出していたのだ。
愛しい少女が探しに来てくれるかな・・・なんて淡い期待を抱きながら。
その時だった。
どこからか歌が聞こえてきたのだ。
―――――わ・・・・・は・・・信じ・・・・
綺麗な声で歌を紡ぐ。
「・・・?」
誰が歌っているんだろうか。
でも、この歌を聞くと幸せだった頃の光景が頭にうかぶ。
何故――――・・・
考えをめぐらせていたとき
「―――つめっ」
「・・・・・?」
「棗!!」
「!!」
振り向くと愛しい少女がいた。
「また来たのかよ・・・」
本当は嬉しいくせに憎まれぐちをたたく棗。
「アンタがなぁっ、授業さえサボらんかったら来とらんわ!!」
「・・・うるせぇ」
「キィィッ!ホンマにむかつくなぁ!!!」
「うるせぇっつってんだろ。行くぞ、教室」
「うんっ!」
さっきまでの怒りはどこへやらご機嫌の蜜柑。
歩き出しながら棗は
―――また聞こえてくるだろ・・・
なんて思っていたのだった。
***翌日***
棗はまた定位置に来ていた。
歌が聞きたかったのだ。
「・・・・・」
耳を澄ましてみる。
――すべ・・・あ・・・め
また聞こえてきた。
「・・・探すか・・」
声の持ち主が知りたかった。
どうしても・・・・
――――ガサッガサガサッ
キョロキョロ
まだ姿は見えない。
だが確実に近づいていた。
「!!!?」
そしてついに見つける―――・・・
歌っていたのは・・・・・・・
蜜柑。
そう、彼の愛しい少女。
「みかん・・・・?」
「私はあ――・・?棗??」
「!!」
「どうしたん?こんなとこで」
「・・・・・昨日も歌ってたか?」
「え?」
「今の歌。昨日も歌ってたか?」
「歌ってたよ?大好きな歌やもん!」
「・・・・・・か?」
「聞こえんから、もう一回ええ?」
「歌ってくれるか?」
「この歌を?」
「あぁ、そうだ」
「ええけど・・?」
そして蜜柑は歌い始める。
信じれるものなんかひとつもない
そう思った私の心の闇は深かった
それでも―――・・・
歌が急にやむ。
「蜜柑・・・?」
なんでやめるんだ。
「あんた・・なんで泣いてるの・・・・・?」
「!!!!」
頬に触れると涙がある。
「なんでだ・・?」
「なんで泣いてるか分からへんの?」
「あぁ」
「・・・・・」
「あ」
棗が顔を上げる。
「分かったん?」
「俺は・・この歌をどこかで聴いたことがあって・・・」
――――――パァァァンッ
「!思い出した!!!!」
「へ?」
「この曲は・・・・母さんが歌ってくれたんだ・・・・」
「・・・・・・そう・・・なん」
「だからいつも幸せな記憶が頭に浮かぶんだ」
(なんや・・いつもの棗と違うなぁ)
「蜜柑・・・・・・・・・う」
「え?」
「ありがとう・・・お前のおかげで思い出せたんだ」
そう言って微笑む棗。
「・・・・今、棗のお母さんはおらんけど・・」
「・・・・・・・」
「この歌、聴きたくなったら今度はウチが歌ったげるな!」
「・・・・あぁ」
ほんの数十分の間に起こった幸せな出来事。
蜜柑が歌っていた曲の全貌を大公開!!
『音と光』
信じれるものなんかひとつもない
そう思った私の心の闇は深かった
それでも音のない世界は暗くて
誰かに助けて欲しかった
救い上げて
光を下さい
鳥の歌を
音を下さい
この祈りが届きますように