「・・数学って、なにやったか覚えてる?」 「・・・・・一次関数じゃなかったっけ」 そうだったわね、といって止めていた手を動かす小島の顔を見ながら、うんと頷いた。定期的に回ってくる、日直という仕事。最初は出席名簿順で2人ずつってふうにやるんだけど、一周したから今は席順。でもって、今日の日直は、俺と、俺の隣の席の小島。 着実に誠実に仕事を終えて、っていうか今日は特にやることもなかったんだけどさ?ほら、たまに提出物だとか資料だとかを持ってこいなんてときとかもあるじゃん。今日はそういう日じゃなかったから、ラッキーだったなぁと思いながら、同時にこれで終わりか、なんて思ってもいたりして。 ぼーっと、小島の動かすシャーペンに埋められていく日誌を見ていた目を少しあげて小島の顔を見た。小島は、今年同じクラスになった女の子。去年委員会が同じで、軽くなら話したことはあったし、もともと可愛いって有名だったから名前と顔は知っていた。それから、よく、サッカー部を見てるなーって。それは最近じゃなくて、1年のときから。俺は陸上部で、サッカー部の隣で部活をしてるから気づいたんだけど。 今のサッカー部はいいチームだと思う。勝とうって頑張ってるのがわかるし。前のサッカー部は、正直、まぁなんていうか・・・これは俺の個人的意見だからなんとも言えないけど、勝とうとか勝ちたいとかじゃない、あくまで遊びの部活のようで。そういうのもアリなんだろうけど、頑張ってやってるのがわかる水野とかには辛いんだろうなって思ってみてた。あ、でも前にシゲが助っ人してたときは勝ち上がってたんだっけ。 「・・・?」 「あ、ごめん。何?」 「特に何もないけど・・ぼーっとしてたから。」 「ごめんごめん、大丈夫だよ」 本当にぼーっとしてたらしい。春だからなのか、そんなことも最近よくあるんだよなぁ。・・・・・まぁ、一番の理由は違うとこだろうけど。 それで、何考えてたんだっけ。・・・・そうだ、サッカー部のことだ。あれ?最初、小島について考えてたんじゃなかったっけ。・・・・まぁいいか。ええっと、それで。今年小島と同じクラスになって、あぁ、あの子か、って思ってなんとなく見てたら、まぁ・・・好きになりました、っていうありきたりな展開。顔が可愛いっていうのはもちろんあるんだけど、実は結構サバサバしてるとことか、はっきり物を言うとことか。よく周りを見てて、いろいろ気がつくとことか。好きだなぁ、って思う。 「感想・・・。」 「・・感想・・・今日、特別何もなかったよな?」 「なかったわね。」 うーん、と2人で今日を思い返す。何か、特別なこと、特別なこと・・・・・・あ。 「今日、C組がお菓子つくったって言って持ってきてなかったか?」 「あぁ、そっか!じゃぁそれでいいわね。」 閃いたように顔を明るくして、小島が日誌の感想欄に文字を書いていく。うん、俺としては、おしとやかに笑っているよりも、こういう明るい笑顔のほうが、好きなんだよな。 ・・・・・っていうか。 「やっぱ、好きだなー・・・」 「・・・え?」 「・・・・・・・・・・・え?」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えぇ・・? ちょっと待て。小島が驚いたような、少し赤い顔で俺を見ているのは気のせい?いや、ってか確実に気のせいじゃないっぽいんだけどこれってつまり。 「・・・・ごめん、今俺なんか口走った・・?」 「・・・・・・・やっぱり、好きだなって・・・・」 ・・・・・・うっわ、やらかした・・・・!!! どうしようか。これは、ある意味、チャンスなのか?だったら言うべきとこ?いやでもまだ6月だよ。振られたらこれから何ヶ月もマジ気まずい2−B生活送ることになるじゃん・・・! 「・・や、あの・・さ。」 でも、もうこんな機会はないかも知れない。だいたい席が隣になるなんてそう何度もあることじゃないだろうし。まぁ、うん、例外は多々あるっちゃあるけど。それにこういうときじゃないと、2人になってもおかしくないときってない、よな。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 ・・・・・・・・よし。 思えば彼の男子100メートルのジャスティン・ガトリンだって、走りきんなきゃ世界記録なんて出なかったんだ。何事も当たってからくだけろな勢いは必要だ。そう言い聞かせて、俺は小島を真っ直ぐ見つめた。 「・・・・小島のこと、なんだけど。」 ・・・・どこに勢いがあるんだよ・・。 自分の言葉にがっくりしながら、俯いてしまった小島に、やっぱり少しだけ後悔する。そりゃ、小島だって振るのとかは嫌だよな。だけど今更訂正なんてできないし、寧ろしたくはないし・・・。と、俯いていた小島の口が、小さく開いた。 「・・・・って。」 「え?」 「ちゃんと、言って。」 あげられた小島の顔は赤くなっていて、きゅっと口は結ばれていて。・・・・え。なに、これってもしかして、期待してもいいとかっていうこと?いや、そう思って違ったときのダメージは3割増。でも、ちゃんと伝えられる機会をもらったんだから、ちゃんと伝えたい。 この気持ちは、軽いものじゃないから。 「・・・小島が、好きです。俺と付き合ってください。」 まっすぐに小島を見て言った。完全に感覚はおかしくなってて、くらくらして自分がちゃんと椅子に座ってるかもよくわからないままに、なんとかまっすぐに小島を見て言うしかできることはなくて。 「・・・・私も、が好きです。よろしくお願いします。」 赤くなった顔ではにかむように笑って言った小島の言葉をちゃんと理解して実感するまでには、相当の時間がかかった。と小島有希、ここにカップル1つ成立ってことでお願いします。(・・ってことでいいんだよな?) |