寒い冬の日の帰り道。ふと目に入った白い塊は、今年の初雪だった。 「・・・・あ、雪だ。」 「道理で寒いわけね」 「そりゃ、雪降ってたら寒いよなぁ」 2人して空を見上げて、言う。今の時期から考えて寒いのは当然のことなんだけど、今日はなおのこと気温が低くて、2人ともマフラーに手袋は当たり前の重装備。そんな中降ってきた雪は、部活も終わっていたことだし、ある意味当たり前で、この寒さに理由をつけるのにはもってこいで、嫌ではなかった。帰り道ではあるけれど、積もる前には家に帰るだろう。ふとはあることを思って、それをそのまま口に出した。 「・・有希って4月生まれだったよな?」 「そうよ、1日。何で?」 特に意味のあるニュアンスでもなかったことに、不思議そうにしながら有希がを見る。それに苦笑のように笑って、空に向けていた目を今度は足元に向けた。まだ降り始めの雪は、コンクリートに落ちては、にじむようにして消えていく。けれど、この分だと積もりそうだなぁ、と質問とは関係のないことを考えた。 「有希の名前の由来って、雪と関係あるのかなーとか思って」 「あぁ、そういうこと。残念ながら、ないみたいね。」 と同じように、足元の雪をみながら有希が答える。自分は冬生まれでもなければ、両親からそんな話を聞いたこともない。もしかしたら、両親が雪が好きだとか、そういう理由もどこかにはあるのかもしれないけれど、小学生のころに聞いた自分の名前の由来は、それが主ではなかった。 けれど読み方は一緒だし、ひらがなで書いてしまえば同一のもの。そして小さなことでも、彼が自分のことについて聞いてくれたのだから、質問の動機としては充分で、それに答える理由としても申し分はない。 そう思う自分は乙女チックで、だけど嫌いではなくて、足元を見ながら、にはわからないように有希は小さく笑った。 「正直言ってさ、俺、雪ってそこまで好きじゃないんだけど。」 ほら、部活できなくなるしさ、とが続ける。 陸上は、速さが全て。記録が全て。足場が不安定なものでは意味がないため、雪が降れば陸上は出来ないということだ。 「それはそうよね」 その言葉に納得しながら、有希が返した。確かに、それはわかる。サッカーだって、練習などだったらなくなるし、試合だとしたって延期になることがしばしば。どっちにしてもやりづらいことには変わりはない。それに、積もってしまえば家から出るのも一苦労だし。 ・・・それとは別に、一瞬、それが自分のことかと思って、心臓が止まるかというほどに飛び跳ねたことは、内緒にしておくけれど。 「でも、有希と同じ名前だと思うと、好きになれそうかな」 笑ってが言った言葉に、有希は顔を赤くした。付き合ってからだいぶ経つけれど、こういう突然のことには、未だにいちいち反応してしまう。それを見て、原因である彼が不思議そうに有希を見る。その視線から避けるようにして、有希が空を見上げた。そこには有希の顔とは反対色にある、雪の日の空特有の、白。も同じように空を見上げたのを感じて、有希が口を開いた。 「・・・・は?なにか、由来はあるの?」 「え、俺?何で?」 すっとんきょうな顔で聞き返すに、くすくすと面白そうに有希が笑う。だんだんと白く染まっていくコンクリートから、大好きな大好きな、恋人に視線を向けて。 「だってそれを知れば、私の好きなものが増えるでしょ?」 君が、また1つ、『好きなもの』をくれるから。(そうしていったら、きっとまわりは好きなものだらけね) |