rhapsodie -- bolero


「総司さん」

かかった声に、総司が振り返る。そうすればそこにいた自分よりも若い彼に、総司はあれ、と笑みを浮かべた。

。どうしたの、僕に何か用?」

いつものように無邪気に笑う総司に、は少し視線をずらした。その様子に総司が首を傾げる。とは江戸での、彼がまだ小さかったころからの付き合いだ。いつも真っ直ぐに人を見てくるその目が見えないことに、総司は彼を覗き込む。

?どうかした?」
「…総司さん。あのさ、」

その言葉を聴く度に思うのは、総司でいいのに、ということ。けれど元の生まれがいいは、年上だし、と、 敬語こそ使わないけれど、呼び方だけは譲らなかった。

「うん」
「…どうして、俺には何も言ってくれないんだ?」
「え…」

一体なにを、と、聞き返すよりも早くに、が顔を上げた。バチ、と音がなりそうなほどに目があって、けれど彼らはお互いにその視線をずらそうとはしない。

「芹沢先生のことだよ。」

少しだけ声を抑えながらいったに、総司が目を見開く。それは、比較的つい最近の、とても大きな出来事で。けれど、ことの真相を知っているのは一部の、主に試衛館からの仲間だけだった。

「…、」
「知ってる。もともと薄々は感じてたし、あの後で土方さんに聞いた」

止めようとした総司の言葉にかぶせるように、が言う。そう、もともとは、感じてた。そうなるだろうと。法度が発表されて、あぁ、やるのか、と。新見さんが切腹 ――― という形で死んで、やっぱりか、と。あの日、土方さんと山南さんが揃って席を立って、左之助さんと総司さんが追うように出て行って。あぁ、殺すのか、と。でも、同時に思った。

どうして、俺には言ってくれないんだろう、と。

あの日、出て行かなかった源さんだって、平助だって、永倉さんだって知ってた。だけど、俺は知らなかった。悔しかった。後で知らされたとき、土方さんは言った。お前は相手に情けを持ちすぎるから、と。でも、そんなこと、ないんだ。俺はもう、少なくとも近藤さんよりは、そんな気持ち、なくしたのに。

「…なぁ、」
、違うんだよ私たちは」
「おれって、そんなに、信用ない?」

総司の言葉が聞こえないとでもいうように、が言葉を紡ぎきる。総司には、の目が泣きそうに揺らいで見えた。そんなこと、ないのに。あれは土方さんの、への優しさだったのに。信用がなければ、後からだって、あの人は話したりしないのに。ごめん、変なこと言った、忘れて、と、が笑う。その間も、そう、まるで、総司の言葉など聞こえないかとでもいうように。それに対して総司が声をあげようとしたそのとき、何やってんだお前ら、と言う声とともに、怪しんだ顔の土方が廊下の向こうから2人に声をかけた。土方に笑ってから、痴話喧嘩です、と返してそのまま廊下を走り去るに、総司は慌てたように後を追って駆け出した。あーもう、土方さんの馬鹿!と言うのを忘れずに。


(「はぁ!?っておい総司!!」)
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