log 2010

アゲインラブ、断固阻止  おおきく振りかぶって 泉 / 女主人公


「同窓会ねえ」

ソファの上でテレビへと視線をやったままで、彼女が呟いた。その声を耳に留めた泉が、冷蔵庫を閉じながら彼女に声をかける。そうすれば、パジャマ姿の彼女は視線をテレビから泉へと動かした。

「んー?同窓会でのラブが増えてるんだって」
「へえ」
「青い気持ちを思い出しちゃうのかしらねー」

ドラマやらコラムやら、いろいろなところで最近耳にする、同窓会での「アゲインラブ」というそれ。そんな言葉に感想を洩らした彼女に、なんだその年寄りみたいな発言は、と内心で思いつつも、泉はそれを口にすることなく缶ビールを片手に彼女の隣へと腰を下ろした。

「なに、お前にも青い頃なんてあったんだ?」
「どうかなー・・・あー、あったあった。野球部の子にときめいてたわー」
「へえー?」

元気にしてるかしらねー、なんて懐かしそうに笑う彼女を横目に、泉は缶タブを開ける。泉と彼女との出会いは大学だった。故に、彼女の言う青い頃を、泉は知らない。同時に、彼女も泉のそんな時代を知らない。それはそれで当然のことで、特に引き合いに出すようなことでもなかったので話題には出なかった。そしてそれは特別避けていたわけでもない。そのため、野球部、という言葉に泉は高校時代を思い出しながら口を開いた。

「野球部なら俺知ってるかも。お前高校どこだっけ?」
「桐青だよー。その子、りおーくんて言ってさあ」
「は?」

ビールを口に運ぼうとしたところで、泉の動きが止まる。桐青といえば、自分にとって、自分たちにとっては忘れることが出来ない相手だ。その中で、「りおう」と言えば、確か田島がメールをしていた相手ではなかっただろうか。大きいのになんかすごい可愛かったんだよねー、という彼女の言葉は、泉の頭に浮かんだ「りおう」と、彼女の言う「りおーくん」をがっちりと結びつけた。あー会いたいわー、という彼女に、何故だかなんとも言えない気持ちが湧いて、それを飲み込むように泉はビールに口をつけた。泉と彼女の付き合いは、もう今更昔好きだった相手とやらに妬くようなものでもない。そう思って、泉は何でもないように、へえ、と返した。そうすれば、彼女は、っていうことで、と話を続ける。

「来月同窓会行ってくるね」
「・・・・は?」
「高1のクラスの同窓会あるんだよねー。りおーくん来るかなー」

言いながら、ローテーブルの上に置いてあった缶ビールに彼女が手を伸ばす。泉がお風呂に入っている間からそこにあった缶は、もうその半分以上を空にしていた。なるほど、同窓会と最初に口にしたのは自分もあったからか、と冷静に考える面とは裏腹に、泉はどうにも持て余す気持ちに薄らと眉を寄せる。何年の付き合いだと思っている、もう今更浮気だとかそんなことは考えていないだろう、これは意地とかではなくて。だが、しかし。もう何年も前のままで止まっている、金髪でデカいキャッチャーの姿を思い浮かべて、泉は彼女に目を向けた。その視線に気づいた彼女が、ん?と泉に視線を返す。

「・・・・・・・・・」
「え、なに?」
「・・・・、いや・・それいつ。送り迎えくらいしてやる」
「えー?いいよ、仕事でしょ」
「いや、気にすんな、それくらい」

で、いつ。と言葉を続けた泉に、彼女が訝しそうにしながらも日にちを告げる。おっけー、と返しながら、泉は頭の中のスケジュール帳に、金曜のその日の予定をいれた。その日は何がなんでも定時に上がってやる、と妙な決意を付け足して。



大人泉を応援します






彼女の秘匿  鋼の錬金術師 ロイ・マスタング / 女主人公


「どこに行くつもりだ?」

後方から届いた声に、彼女はその足を止めた。そうして、ゆるりと振り返る。しかし、その動作の中に、同じほどの緩みはない。そんないつもの彼女の姿を、ロイは瞳の厳しさを変えないままに見遣った。

「これは、マスタング大佐。何かご用件でしょうか?」
「私が問うているんだがね、中佐」

瞳の厳しさを声と口調にそのまま表す上司の姿に、中佐と呼ばれた彼女は失礼致しました、と言葉を返す。彼女は軍人であり、国家錬金術師である。女性にして中佐という階級につきながら、その見た目には ――― 例えばアームストロング少将のような ――― 威厳はない。しかし相対するロイの瞳には普段見せているような気安さもなければ、口元の笑みもない。ピリ、と張り詰めたような雰囲気は、この東方司令部にそぐわないものであると同時に、彼らの間では日常茶飯事なものであった。

「どこに行くつもりだ」

再度、今度は問いかけですらない様子でロイが言葉を重ねる。その瞳には、隠すつもりもないような警戒心が浮かんでいた。彼女が軍役となったのは、ごく最近のことであった。国家錬金術師の資格を有する者はまず少佐の地位からの出発となる。しかし、それにしても珍しいほどの速さで、彼女は中佐へと駆け上がった。その間に、大きな戦争があったわけもない。大きな殊勲を挙げたわけでもない。にも関わらずの抜擢に、一部からは、「女」を利用したのではないかとの揶揄すら上がっていた。そんな噂を知ってか知らずか、彼女はなんでもないことのように口を開く。

「鋼の錬金術師が来ていると伺ったので、目に留めておこうかと」
「なぜその必要がある」
「単なる好奇心です。休憩時間の行動はあくまでの個人の裁量によるかと存じますが」

重ねられた彼女の言葉に、ロイは薄らと目を細める。確かに、まだこの司令部に来て長いとは言えないこの中佐とエルリック兄弟は顔を合わせていないはずである。また、色々と騒がしい兄弟であるから、興味を持つのも理解は出来る。そしてそう、今の彼女は休憩時間なのだから、その行動を咎める大きな理由はない。そして何より、あの兄弟は警戒心も力もそこらの軍人よりも持っている。それはわかっていても、ロイの中にある彼女に対する警戒心が、彼女を一人で行かせるなと自身に訴えていた。

「ならば私も行こう」
「・・大佐、失礼ですが、お仕事は?」
「君が私に指図をするのか?」

す、とロイが彼女に視線を向ける。それは敵意すら伴うものであり、今の彼は無能だなんだと評される男ではない。その若さにして大佐へとのし上がった軍人、そのものである。彼が彼女をこうまで警戒している理由は、一言で言うならば、上層部との繋がりの強さのためだ。その理由が、「女」であるためならば構うつもりはない。しかし、そうではないとロイの勘はさも当たり前のように告げていた。上層部との繋がり ――― これへの危惧は、上層部の実態を知っていればいるほど、警戒に値するのである。

「・・・は、失礼致しました」

軍人らしくはない、けれど気安さなどない答えを上司に向けた彼女に、ロイは言葉を返すでもなくさっと足を進める。それに1歩遅れて、彼女も足を進めた。1歩前にいる彼には、後ろで彼女が浮かべた表情には気づかなかった。



主人公設定まで深く考えたんですけど、続きません



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