log 2011

素敵な愛の国  ヘタリア フランス / 女主人公


「わっ!」
「おっと」

ぐらり、と傾きかけた体を、フランシスが支える。ありがとう、と片言ながらもその地の言葉で伝えれば、その言葉は彼にはどのように聞こえたのだろうか、くすりと笑いながら、如何にも本場と云うような発音で言葉が返された。それを理解することは出来ないまでも、それが悪い言葉ではないことは彼の笑顔から判断出来て、こちらも笑顔を返す。石畳というのは見ている分にはとても綺麗なのだけれど、歩くとなると ―― それも、ヒールなどを履いていると ―― 少し困難でもある。先ほど見学をしてきたあの宮殿に住んでいたお姫様は、例えばこの道に揺れる馬車などに文句を言ったりしたのだろうか、なんてことをぼんやり考えるのもまた一興であった。けれどもバックを掴む手に思わず力が入っていたことに気付き、はっとして中を見れば、登場した形の崩れてしまったお菓子に、へにゃりと眉が下げる。その様子に手元を覗きこんできたフランシスが、そのマカロンに苦笑を零した。

「あらま、崩れちゃった?」
「・・はい・・やっぱり箱で買えばよかったかなあ」

そう零しながらも、でも値段が・・と小さく呟いて、明日またリベンジしよう、と心に誓う。全く食い意地が張ってるんだから、と笑うフランシスに、だってせっかくフランスに来たんだから、と拗ねたように言えば、はいはい、わかってますよ、Merci,と返ってきた言葉に、口を噤んだ。先ほど自分が発したものと同じ意味を持つはずであるのに違うように聞こえるその言葉に、どうにかこの旅行中にMerciだけはマシな発音にしたい、とこっそり目標を立てて顔を挙げれば、すれ違った男性と目が合った。そうして、え、と思っている間にも、にこりと微笑まれる。

「Bonjour」
「え、あっ、ぼ、ぼんじゅーる」

恐らく全く持っておかしいだろう発音で返せば、その男性は笑みを深めてそのまま通り過ぎて行った。街中でこんなふうに挨拶を交わすだとか、こんなにも真正面から目を合わせるということには中々慣れなくて、所謂“御国柄”というものを肌で感じる一つの場面でもある。ふう、と無意識に詰めていた息をはけば、そんないかにも旅行客な様子に笑みを浮かべたフランシスが、さ、と手を差し出した。その意図がわからずに彼を見上げれば、ふわり、豪華絢爛なこの宮殿にも、ばら窓の美しい教会にも綺麗に溶け込む彼は、その唇から美しいフランス語を紡ぐ。

「御手をどうぞ、mademoisellle」

ああもうどうしてこんなにも様になるのだろう、こんな、普通にやられたら引いてしまうようなことなのに。けれども旅の恥はかき捨て、と自国の諺を思い浮かべたならば、周りに知り合いがいれば恥ずかしくて出来ないような、例えばこんな、如何にもなマドモワゼルという言葉にも、答えてみようかと思うのだ。例えその手に唇を落とされたとしても、旅の恥はかき捨て、なのである。



フランス旅行の思い出。パリ素敵でした〜。






それは運命の出会い  戦国BASARA 政宗 / 男主人公


「・・・から・・・ろ!」
「・・ざけ・・・こと・・・!」

ぼんやりとした意識の外で聞こえた声に、政宗はその左目をわずかに開いた。霞みがかった視界、うまく回らない思考、動きの鈍い身体。それらの感覚と浮かんでくる記憶から、自分が斬られたことを思いだして政宗は眉をひそめた。そうだ、戦に勝ち、城へと帰る途中に斬られたのだ。油断大敵もいいところだ、小十郎になんて言われることやら。ぼんやりとした頭でそう思ったところで、政宗は先ほどから聞こえる声の一つが小十郎のものであることに気付く。そちらへと意識を向ければ、先ほどよりは声が聞きとれるようになり、小十郎の声ともう一人、男の声とが言い争っているのだということが知れた。先ほどよりも開けた視界でその声の方へと目をやれば、それに気づいたらしい男の声が、政宗へと声をかける。同時に、政宗様!という小十郎の声も耳に届いた。

「意識が戻ったか。手は動くか?」
「・・Ah・・?・・っ、」
「・・よし、動くな」

男の声に政宗が手を動かそうとするも、言うことを聞かない身体と鋭い痛みに政宗は歯を食いしばる。けれどほんの僅かに動いたその手に、男は頷いた。一方で、小十郎は男の肩を強い力で掴み、政宗から引き離す。元々強面な顔に浮かぶ表情は苛立ちと怒りと、恐らくは焦りであろうもので歪んでいた。

「てめえ、政宗様になんて口の聞き方を・・!」
「そんなこと言ってる場合か!」

そんな小十郎の言葉を、男は一喝する。そうして、肩を掴む手を同じく力で払いのけた。そうして、決して強面ではなく、小十郎よりも若いだろう男は、小十郎に臆することなく声を荒げる。そう、そんなことを言っている場合ではないことは、男にとってだけではなく、小十郎にとってもまた明白であった。

「いいか、もう一度言う!このまま放っておいたらこいつは死ぬぞ!」
「っ・・・」
「手術をすれば助かる!助けられる命なんだぞ!それを見殺しにするつもりか!」

重ねられる声に、小十郎は言葉を失う。そう、このままでは政宗の命が危ないことは、小十郎にもわかっていた。専門的な知識はなくとも、今までの経験がそれを物語っていた。けれど、またも主の身体に刃を入れるなど ――― ましてや切り開くなど、小十郎の常識からは逸脱している。とは言え、医師にも手の施しようがないと言われた以上、他に出来ることがないのもまた事実。ならばこれに賭けてみる以外にないのかもしれない ――― そう小十郎が歯噛みする様子に、男は政宗へと視線を向ける。荒い呼吸と青い顔色は、そのまま政宗の状態を表していた。そんな政宗に近づき、男は届くように言葉を発する。

「これからお前に手術をする。少し痛みもあるかもしれないが、お前を助けるためだ。いいな」
「・・・・・ハッ・・痛み、なんざ・・なんとも、・・ねえ・・っ」

男の言葉に、政宗はその容体ながらも口元を引き上げた。何となくではあるが、恐らく一般的ではないことをされるのだろう。けれど小十郎の様子を見れば、それが自分の命を繋ぐ可能性のあるものなのだろう。自分の体は自分が一番よくわかっている。このままいけば、危ないことも。ならばいっそ。

「・・俺は・・・生きなきゃ、なんねえんだ。・・・頼むぜ」

強い意思の溢れるその声に、男は薄らと目を瞠る。けれど、すぐにその口元を引いて笑みを浮かべた。政宗の左目にぼんやりと見えるその表情には、不安など何もない。

「任せろ。絶対に助ける」

先ほどの政宗の声と同じく、強い意思と自信に満ちた声はまるで絶対的なもののように思えた。こいつになら任せられる、きっと大丈夫だ ――― そんな気持ちに、政宗はふっと力を抜いた。そうして再び会いまみえ、伊達家の医師になれと政宗が強烈なオファーをかけるのは、その数日後の話。



実はトリップ設定です、JINみたいなね






「おんなのこ」  おおきく振りかぶって 花井 / 女主人公


教育実習、というものがある。教員免許を取るためには必須であるその実習は、主に大学生が自身の母校で行うものである。年齢で言ってしまえば、離れていても6歳、近ければ3歳程度という差。しかし、実際にその授業を受ける生徒たちにとっては、相手は「先生」に他ならない。実習生もまた学生であるということや、然程年齢が離れてはいないということは意識されないものである。西浦高校にて実習を受ける花井もまた、そのようなことは頭の片隅にもなかった。

「それじゃあ今日はここまでにします!わからないところがあったら遠慮なく聞きにきてね」

そうやって教卓に立ちクラスに声をかける人物の容姿は若い。教育実習生としてこの高校、そしてこのクラスで授業を受け持つ彼女は、例に漏れず西浦高校の卒業生らしい。今年新任でやって来た教員よりもよほど学校の内部や校風に慣れ親しんだ振る舞いを見せる彼女に、親しみを感じる生徒は多い。彼女の授業を受ける花井もまた、そんな生徒のうちの一人だった。7組の担任に付いているためにこのクラスのHRを任されることも多い彼女、そうなれば当然花井も話したことや接したことは数度ならずある。しかし、スーツを着てヒールを履く彼女への花井の位置づけは、あくまでも「良い先生」だった。



「きゃっ」

そんな小さな声が聞こえたのは、花井が阿部と移動をしているときだった。時間柄か場所柄か、今は人の姿もまばらな階段の方から聞こえてきた声に、元々そちらへと足を進めていた2人は曲がり角から階段へと目をやる。そうすれば、そこにいたのは花井と阿部も属する1年7組を担当する教育実習生の彼女であった。階段の中ほどで立ってはいるが、いたた、と小さく声を零す様子を見ると、おそらく階段で転んだのだろう。特に理由はないのだけれど、なんとなく出ていけないままに角から隠れるようにして2人がその様子を見ていると、ぱっと彼女は顔をあげた。そうして慌てたように落とした筆箱やらファイルやらを拾い、周囲をきょろきょろと見回してからぱたぱたと急ぎ足で階段を上っていく。その顔は僅かに赤くなり、恥ずかしそうな表情を浮かべていた。そんな教育実習の先生の姿に、花井は思わずバッと口元を押さえる。なんだ、なんだ今のは。赤い顔で思う花井に、同じくその光景を見ていた阿部の声が届く。

「・・・あの先生、可愛くね?」
「ちょっおまっ、いうなよそーゆーことはっ!」
「なんでだよ。花井も思ったんだろ」
「ば・・っ」

勢いで反論しようにも反論し切れない自分がいて、花井は阿部の視線に口を閉じる。そうして先に先ほど彼女がいた階段の方へと足を向ける阿部に続いて花井も歩きだせば、先ほどの先生の様子が浮かんで、花井はどうにも悶々としてしまう。教育実習の先生、とは言え、たしか大学4年生と言っていたから、つまり年齢で言うと21とか22とかで・・えっじゃあモモカンよりも若い?っていうか俺らと6歳差?確かに俺より身長も小さいし華奢だし、いやでも、なんて黙ったまま頭を巡らせる花井に、先ほどと同様、何でもない顔で阿部が言葉を落とす。

「そういや先生も5歳くらいしか上じゃねーんだよな」
「〜〜〜〜っ」

自分が考えていたまさにそのことを、さらっと言われたことに花井は言葉を無くす。そんな、スーツってなんかエロいよな!と騒いでいた田島じゃねえんだから、と必死に自分に言い聞かせたところで、どうにも思考は落ち着かない。いや、そんな、まさか、先生だし、そんなふうに言い訳を並べても全く説得力のない自分に、花井は頭を抱えた。



なんか花井ってこういうこと考えそうだよね、って話になって






兄弟の話  デュラララ!! 平和島静雄 / 男主人公


コンコン、と鳴った玄関に、静雄は眠っていた意識を浮上させた。時計を見れば11時にもなろうかという時間、一般的にはもう昼近くではないけれど、静雄にとってはまだ朝に近い時間帯であった。そんな時間に訪れた訪問者に、静雄な薄らと眉を寄せた。季節柄寒いこともあり、布団を出たくもない。けれど再度音を鳴らせた玄関に、静雄は盛大に眉を寄せ、大きな動作で立ちあがった。ブチ切れてはいないようだけれど、それでも苛ついていることには違いないその様子のまま、バン!と大きな音を立てて玄関を開ける。みしり、と新しくはない扉が音を鳴らした。

「なんだよこっちはまだ寝て」
「静雄」

そうして開口一番に紡がれた文句は、けれど訪問客の声で止まる。これは静雄を知る人物からすれば非常に珍しいことであるけれど、その相手が誰かわかれば、然程珍しいことではない ――― むしろ、いつものことであった。よ、と静雄に笑顔を浮かべて声をかけたのは、静雄と幽の兄であるからだ。



「連絡くらい、してくれりゃ良かったのに」
「どうせなら驚かせようと思ってさ。ああ静雄、これ食べる?」
「・・・食う」

静雄の返事に笑って箸でつまんだおかずを差し出せば、ぱくりと静雄がそれを口に含んだ。そんな弟の仕種にまるで雛に餌をやるようだと思うけれど、生憎自分も弟もそんな歳ではない。けれどもこの弟も、そして下の弟も自分にとって可愛く愛おしいもの以外の何ものでもなく、普段そう会うこともできないのだからこれくらいいいだろうと、彼は自分の中で話を完結させた。そんなふうにして兄が買ってきたお弁当を食べながら、静雄はちらりとその兄に視線を向ける。その視線に気づいた彼が、ん?と静雄に視線を返した。

「今回は・・いつまでいるんだ?幽には会ったのか?」
「一週間はいられるよ。幽にはまだ会っていないけど、連絡はしてある」

そんな兄の言葉に、静雄の眉が僅かに下がる。静雄にとって、普段海外で仕事をしているこの兄はただ一人の兄であって、自分も酷く懐いている自覚はある。そんな兄が、自分には連絡をくれなかったのに、幽には連絡をしたということが ――― 嫉妬というよりも、単純に淋しかったという方が正しいだろうか。けれど、さすがにアポがないと会えないだろうからね、という兄の言葉には納得せざるを得ない。何と言っても、自分の弟は芸能人なのである。こっそりとそんな弟を誇らしく思う静雄に、それで、と彼が続ける。

「静雄、今晩は空いてる?」
「今晩?空いてるけど、なんだ?」
「幽と会う約束なんだ。久しぶりに兄弟水入らずがいいなと思って」

兄の提案に、静雄は一も二もなく頷いた。静雄にとって、この兄弟はとても特別な存在である。普段の静雄からは想像できない ――― 例えば臨也などは見たことがないだろう ―― 笑みを浮かべて頷く弟に、兄は柔らかく笑ってその頭を撫でる。座っているとは言えども僅かに高い、実際に立って並べば自分よりもずっと身長のある弟の頭を撫でられるのは、ある種兄の特権であろう。

「兄さん?」
「お前も、見ない間にどんどん立派になるな」

以前会ったのが大分前だからだろうか、その頃よりも大人びた顔に、少し落ち着いた雰囲気に、彼は目を細めて笑う。確かに兄に会っていない間に起きた出来事はそれなりに自分に変化を齎した自覚はあるけれど、改めて言われると気恥ずかしくて、静雄は視線をそらした。そんな静雄に、はは、と彼が笑う。それはまさしく「兄」の表情で、静雄も照れくさそうな表情ながらも小さく笑みを浮かべた。



平和島兄弟の一番上とか非常に素敵なポジション



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